不死の軍勢
不死王との集合場所に移動した俺達は、不死王がやってくるのを待っていた。
既に朝日は登っており、時間的には人々が活動を始める頃になっている。
アンスールに言われた通り夕飯までには帰りたいが、天界の場所が分からないから帰れるかどうか怪しいな。
「不死王の軍勢はどれぐらいなんだろう?」
「さぁ?聞いた感じだと万単位でいるらしいが、実際に見ないとなんとも言えんな。それに、雑魚が群れているだけなら数にならんよ」
「せめて戦闘員じゃない天使と張り合えるだけの力は欲しいよね。となると、最低でも上級魔物ぐらいは欲しいけど」
「1万以上もの上級魔物を用意するのは難しいだろうな。何年かけて軍勢を集めてきたから知らんが、万単位は流石に無理だろ」
不死王の強みは、死者を蘇らせて手下にできる事だ。
もしかしたら、天使たちも手下に出来るかもしれないが、不鮮明な所を宛にするのは良くない。
元々、俺達だけで殲滅できる程度の戦力しか備えていない(らしい)ので、正直そこら辺は深く考えなくてもいいが。
そんなこと間を話しながら待つこと15分。
瘴気を纏った不死王が、不死の軍勢を連れて森からでてきた。
「おぉ、すごい数だな。しかも、全員自力で空を飛べるやつばかりだ」
「凄いねぇ。確かに万単位で居そうだね。これなら、有象無象の天使共は任せても大丈夫そう」
「六番大天使の始末は不死王がするんだから、この殆どはそっちに行くと思うけどな」
「あーそう言えばそうだったねぇ。残りは仁が始末するんでしょ?」
「もちろん。今回はウロボロスの結界を張ってくれるから、おそらく監視の目はないだろうしな」
俺達が戦う度について回るとある視線。
未だに正体が分からない上に、居場所さえも掴ませてくれない。
だが、恐らくは剣聖の仲間だと俺は思っている。証拠も根拠もないが、俺の勘がそう告げていた。
「それじゃ、最初から全力で行くんだ」
「そのつもりだ。出し惜しみとか無し。手札も切れるものは全て切るさ」
それでも、一つだけ手札を温存するつもりではあるが。
のんびりと花音と話していると、不死王がこちらにやってくる。
殺意と瘴気の混じった不死王の気配は、正真正銘厄災級魔物に相応しいものだった。
「マタセタ。準備万端ダ」
「よし、なら早速行くとしよう。天使共を地に堕とす時が来たんだからな」
「六番大天使ダケハ........」
「分かってる。見つけ出してそっちに投げ飛ばしてやるよ」
「助カル。ソノ代ワリ、逃ゲ出ス愚カ者ハ一人残サズ始末シテヤロウ」
「頼もしいね。後ろに構える死者の軍団が全てを壊してくれることを期待してるよ」
やる気満々の不死王と軽く会話をしていると、ラファと黒百合さんがこちらに近づいてくる。
そういえば、ラファは人間だった頃の不死王と会ったことがあるんだよな。ラファが、天使の真相を教えたらしいし。
「久しぶり。元気にしてた?」
「フハハハハ。ヒトノ生カラ死者ニ変ワッタガ、見テノ通リ元気ダ。ソチラモ変ワリ無イ様デ」
「天使から堕天した私を見てそういう感想が出てくる当り、相変わらずだねー。あ、この子が四番大天使だよ。今は堕天しちゃったけどね」
「四番大天使です。よろしくお願いします」
「ア、ドウモ。不死王デス。元々ハ人間デシタガ、魔物ニ堕チタ者デス」
ペコペコと頭を下げ合いながら、自己紹介をする2人。
今から天界に攻め込むと言うのに、このやり取りを見ると緊張感が抜けるな。
緊張しないこと自体はいい事だが、適度な緊張は必要である。
まぁ、ガチガチに緊張されるよりかはマシなので、特に注意することは無いが。
自己紹介も終わり、少しだけ友好を深めたのを確信した俺は、この場にいる全員に声を掛ける。
一応、この面子の中では俺が1番偉い。
不死王もこちらを上として見ているので、このまま進めても問題ない。
「自己紹介も終わったし、行くとしよう。天使共を地に堕とす時だ」
「フハハハハ!!楽しみだな!!天使共とはちょいといざこざがあったから、その鬱憤を晴らすとしよう!!」
「ファフニール、みんなの分も残しておけよ?お前はやりすぎる事の方が多いからな」
「フハハハハ!!分かっておる!!が、ちょっと手元が狂うかもしれんな!!」
盛大に笑うファフニールに若干の不安を覚えながらも、俺達は空へと旅立つ。
案内はラファがしてくれるので問題ない。
空にそびえる大陸。天界。
女神の使者を自称するもの達に、天罰を下してやろう。
さぁ、戦争の時間だ。
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天界は今、三竦みの状態で停滞している。
四番大天使である黒百合朱那を自分の派閥に入れるべく活動しているが、お互いにお互いが牽制し合っているため動くに動けないのだ。
だが、その目を掻い潜ってなんとか黒百合朱那と接触するべく地へと降りた天使達がいる。
「場所は分かるのか?」
「七番大天使様から頂いた地図に乗っている。これが間違っていなければ、ここに四番大天使様がおられるだろう」
「異界から来た大天使様か。どんな方なのだろうな」
密偵に優れた彼ら3人は、空を飛ぶ自分達を上手く隠しながら黒百合朱那が居るはずのアゼル共和国のバルサル近郊の森に向かっていく。
彼らはこの仕事をお使い程度に考えていた。
もちろん、失敗は許されないが、人一人を連れてくるのみ。
それも、異界から来た常識知らずの新参者だ。
天使は大天使に敬意を払うが、最悪の場合は暴力を行使して連れ去るつもりである。
彼らが慕うのは七番大天使であり、そのほかの大天使に忠誠はない。
「噂によれば、厄災級魔物が住んでいるらしいが........どうする?」
「どうするもこうするもないだろ?魔物ごときが俺達の歩みを止められる訳が無いさ」
「そうだな。俺達は天使だぜ?女神様の使徒なのだから、そのご意思に反する奴らは皆殺しだ」
「それもそうか。向こうから手を出してこない限りは、放っておいて手を出してきたら始末しよう」
比較的若めの天使ということもあり、彼らは厄災級魔物がどれほどの強さを誇っているのかを知らない。
それこそ、大天使を相手にしても勝てるであろう者達ばかりだと言うのに、彼らは慢心しきっていた。
「いや、見かけたら始末していいんじゃね?魔物なんざ、女神様のご意志によって作られたものじゃないんだからさ」
「そうだな。人々のために、厄災は排除するべきかもしれないぞ」
「........それもそうか。まぁ、これはその時決めよう」
ここで大天使からのお使いを放り出して逃げ隠れれば、彼らの命は助かっただろう。
だが、天使を殲滅することを決めた厄災の前に現れる事になった彼らは、既に死んだも同然。
厄災の意味を、身をもって知ることになるのは時間の問題だ。




