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不死王とのお茶会

 拠点に戻ってきてから2週間が経った頃、俺はニーズヘッグの背中に乗ってのんびりと空を飛んでいた。


 今日も補習科の授業があるのだが、今日は花音達に任せてある。


 俺が居なくとも、授業はできるので問題は無いだろう。


 学園長にもちゃんと許可はとったしな。


 学園長も、俺たちの本業は傭兵だと理解してくれているようで、すんなりと話は通った。


 普段から仕事をサボったりして来なかったのが良かったのか、“傭兵の仕事があるから1日休みが欲しい”と言っただけでOKしてくれたのだ。


 しかも、有休で。


 別に金は腐るほどあるので要らないが、貰えるのであれば有難く頂戴する。


 金はいくらあっても困らないのだ。


 「不死王は準備できてるのかな?」

 「恐らく、出来ているでしょうね。私達よりも天使を始末したがっていますし。やる気は私達よりもあると思いますよ」

 「魔に落ちた聖職者が、世間一般では女神の使徒を名乗る天使に喧嘩を売りに行くとか、人生何があるか分からんもんだな。不死王も、人間の頃はそんな事想像してなかっただろうに」

 「寧ろ、天使を崇め称えてたでしょうね。一体いつ、天使の真実を知ったのでしょうか?」

 「さぁな。ふとした瞬間に、世界の真実を知ることもある。ほら、ファフニールのようなお喋りな魔物がポロッと漏らしたとか」

 「........すごい想像できますね」

 「........あ、違うわ。ラファエルから聞いたって言ってたわ」

 「あ、そういえばそうでしたね」


 不死王との会話を思い出して、自分の間違いを正す。


 あるよな。会話を忘れて的外れなことを言う時って。うん。


 不死王は元々人間であり、どんな手段を使ったか知らないが、魔物に姿を変えて天使達を殺すために動く厄災級魔物だ。


 不死王と出会ってから色々と不死王についても調べたが、彼が厄災級魔物と呼ばれるようになった事件がある。


 “魔の行進(アンデッドパレード)


 とある国で起こった事件であり、かつてそこそこ大国であった国が死者の手によって崩壊したのだ。


 数少ない生き残りが書いたとされる文献には、“死者が生者を喰らい、生者は死者へと成り代わる”と記されている。


 バイオ〇ザードかな?


 死者を滅するよりも、生者を喰らうスピードの方が圧倒的に早かった為、倒しても倒しても魔物が増え続けると言う自体が起こり国は滅んだそうだ。


 もしかしたら、殺した天使も死者へと変わるかもしれない。


 「元々は1人で天使を相手するつもりだったらしいが、戦力はどの程度あるんだろうな?」

 「分かりませんが、かなりのものでしょう。この傭兵団よりは質が下がっているでしょうが、数で言えば圧倒的だと思いますよ」

 「質も同じだったらびっくりだ。想像してみろよ。アンデッドになったファフニールが居るようなものだぞ」

 「アハハハハ!!中々に面白いですね。それ。ちょっと見てみたい気もします」

 「それなら、先ずはファフニールを殺さないとな」

 「その時点で無理ですね。あの人、何やっても死なないですし」


 空をゆったりと飛ぶニーズヘッグは、機嫌良さそうに笑うと背中に乗る俺に視線を向けてくる。


 余所見飛行は危ないぞ。前見ろ前を。


 俺はそう思いつつも、こちらを見るニーズヘッグに首を傾げた。


 「どうした?」

 「こうして団長さんと話すと、やはり昔を思い出す。懐かしい記憶が蘇るんですよ」

 「俺のような人間が、他にもいたと?」

 「団長さん程強くは無いですがね。一つの才に秀でた........変わり者でしたよ。顔も性格も全く違うのに、何故か団長さんと彼が重なって見える。不思議なものです」

 「........その彼とやらの名を聞いても?」


 俺はそう聞くが、ニーズヘッグは首を横に振るだけだった。


 教えてくれる気は無いらしい。


 厄災級魔物達は、過去をあまり話したがらない傾向にあるから、仕方がないとも言えるか。


 「いつか会えますよ。私が呼べば、彼は来ます」

 「........?生きてるのか?」

 「いいえ、死んでますよ。いつか、分かる日が来ます。きっとね」


 意味深な言葉を言うニーズヘッグに、再び俺は首を傾げるが、ニーズヘッグはそれ以上過去を語ることは無かった。


 死んでいるのに、呼べば来る?........もしかしてアンデッドになった人なのか?


 俺は不死王の様な人なまだこの世界には存在するんだなと思いつつ、ニーズヘッグと他愛もない会話を楽しみながら不死王の拠点に辿り着く。


 瘴気に侵された森は、相も変わらず不気味で近寄り難い雰囲気を出していた。


 「前も思ったが、ここは本当に不気味だな。瘴気が濃すぎて気持ち悪い」

 「団長さんなら特に影響はないでしょう?」

 「影響がないからと言って、気分が悪くならない訳じゃないんだよ。不死王には悪いが、こればかりは慣れんな」


 瘴気の境目でのんびりと待っていると、不死王が慌てた様子で森から出てくる。


 一応、行く前に子供達を使って連絡は入れたのだが、予想よりも来るのが早かったのかもしれない。


 「待タセテ、スマナイ」

 「いいよいいよ。言うほど待ってないし」

 「ソウ言ッテ頂ケルト、有難イ。ササッ、ドウゾ入ッテクダサイ」


 以前と同じように不死王に案内されながら、森の中を入っていく。


 瘴気に侵された森は炭のように黒くなっており、いかにも死者が好みそうな色合いだった。


 前と同じログハウス風の家の中に案内された俺達は(ニーズヘッグは入れないので外で待機)、不死王が用意してくれたお茶を飲みながらゆったりと話を始める。


 「ソレデ、今日ノ、ゴ要件ハ?」

 「天使共を地に落とす準備をそろそろ始めようと思ってな。話を合わせに来た。何か要望はあるか?コイツだけは自分の手で殺すとか」

 「アァ、アリマス。六番大天使(サリエル)ダケハ、私ガ殺ス」


 渦巻く殺気を纏い、体から瘴気を出す不死王。


 過去に何かあったのか、その殺気は怒りと言うよりも憎悪を見に纏わせていた。


 「暑くなるのは結構だが、せっかく入れてくれたお茶が不味くなるよ。抑えてくれ」

 「アッ、失礼シマシタ」

 「その六番大天使(サリエル)を殺せれば、残りはてきとうに始末してもいいんだな?」

 「エェ。モチロン手伝イマスガ、奴ダケハ譲ッテ頂キタイ」

 「分かった。何とかしよう。あ、後、俺の名前では仁だ。ウイルドは、傭兵の時の名前だからよろしく」

 「........?ヨク分カリマセンガ、りょうかいデス」


 あの名前は、仮面を付けている時だけなんだ。


 神聖皇国での戦争では、俺の名前を知ってるやつが多すぎてほとんどの人が“ジン”って呼んでたけど。


 最初にノリで始めた遊びだけどもういいかな、なんて思ったりもしているが、ここまで来たらやり通そう。


 俺はそんなことを思いながら、不死王と天使達にどのような戦争を仕掛けるのかを話し合うのだった。

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