イスの学園生活17
仁達が天使達との戦いに向けて忙しく動いている中、イスは学園生活を満喫していた。
本音を言えば、イスも天使達との戦いを手伝ってあげたい。
しかし、学園を休む可能性が高いとなると仁と花音が許すわけも無かった。
学生でいられる期間は限られている。親を手伝う気持ちは嬉しいが、親としては今しか出来ない学生生活を楽しんで欲しいのだろう。
「今日も楽しかったの」
「そう?代わり映えのない学園生活に見えるけど」
「それが楽しいの」
帰りのホームルームも終わり、学園内の廊下を歩くイスとリーゼンはもう1つある上級クラスに足を運ぶ。
戦争の影響でイス達の学年は人数が多い。普段は1クラスしかない上級クラスも、さらに上の成績を取っている者と上級クラスの中では成績が低い者で分けられていた。
イスとリーゼンは今年も上の上級クラスであり、2人とも同じクラスである。
「あ、イス、リーゼン。待たせたかな?」
「今来たところよ」
「全然待ってないの!!」
下の上級クラスの教室から出てきたメレッタは、イスとリーゼンに出会うと笑顔で話しかける。
去年は下級クラスだったメレッタだが、イスとリーゼンから勉強を教わり、学年別の武道大会を優勝したことて1つクラスを上げていた。
1年生の頃はその弱々しい見た目からイジメもされていたが、武道大会で優勝したことによって今は虐められることも無い。
寧ろ、メレッタと仲良くしたいという人の方が多いぐらいである。
そのお陰か、メレッタは上級クラスでも問題なくやって行けるのだ。
「今日もリーゼンの家に行く?」
「もちろんなの。今日はエレノラもう来るって言ってたの」
「あら、あの面白い人も来るのね。それは楽しみだわ」
「エレノラさん、かなり面白いからね。私、結構エレノラさんのこと好きだよ」
「私も同じよ。私の勘が言ってるもの。“エレノラは大物になる”ってね。本当なら、私と一緒に仕事してくれないか猛アプローチしている所よ」
仁達からは変人扱いされ、危険人物とみなされているエレノラだが、イス達には物凄く好かれていた。
爆弾が絡まなければ割と常識人である事と、自信が変人の為変人が喜ぶ対応ができるためである。
仁達は爆弾が絡んだ所をよく見ているので、頭のネジが飛んでいるように見えているが、イス達はその姿をあまり知らなかった。
もちろん、爆弾が絡めば倫理観の欠如した頭のおかしい奴である。
最近は、仁の教育によって少しマシになっているが、それでも酷かった。
「エレノラさんも来るとなると、麻雀とかかな?」
「四人で遊べるものは限られている物ね。組手とかもいいけど、今日はゆっくりしたいわ」
「昨日も組手はしたからね。少しづつ2人に追いつけているけど、まだ勝てないなぁ」
「イスに勝つのは無理よ。本気を出したイスに勝てるなら、世界最強の座を手にすることになるんだから」
「それはそうなの。私の本気に勝てるのは、パパやママを除けば数人しかいないの」
イスの正体を知るリーゼンは、天地がひっくり返ってもイスに敵わないことを知っている。
厄災級魔物がどれ程の力を持っているのか正確に測ることは出来ないが、リーゼンがどれだけ努力しても敵わないということは分かりきっていた。
寧ろ、イスに勝てる仁と花音がおかしい。
自分を鍛えてくれた先生の強さがおかしいのだ。
普通の人間は、厄災級魔物には敵わないのである。
「イスは今年の大会には出るの?」
「出ないの。私が出たら優勝するし、面白くないの」
「私もパスね。4年生の最後ぐらいは出るかもしれないけど、今は忙しくてそれどころじゃないわ」
「そっか。2人が出ないなら、今年は私もやめておこうかな」
リーゼンは今、2つの商会を手中に収めて経営をしている。
シエル商会とベルン商会を潰し、乗っ取ったリーゼンは新たな経営者として店の立て直しをしているのだ。
もちろん、反発してくる勢力もあるが、騒ぐだけなら放っておけばいい。彼らも、何故自分達の長がこうなったのかを知っているので、下手に手を出せば命は無いことを理解している。
ベルン商会に関してはかなり順調ではあるが、シエル商会は特に酷かった。
元々健全な経営をしていた訳では無いので、甘い汁を啜って居たヤツが痛い目を見ている。
そして、其の甘い汁を再び啜ろうとしているのだが、リーゼンがそれを許すはずもない。
一度でも噛み付けば見せしめとして縛り上げ、処刑する。
これを繰り返していけば、どれだけ獰猛な犬であろうが吠えるだけになる。
所詮、人は命が惜しいのだ。
「じゃあ、4年生になったらみんなで出ようよ。最後の大会ぐらいは、みんなで出てもいいんじゃない?」
「いいの?私が優勝しちゃうよ?」
「あら、イス。慢心はダメよ?私だってやるからには、本気で勝ちに行くからね。それこそ、イスへの対策を積んで倒してやるわ」
「私も頑張るよ」
「ふふん。2人とも甘いの。私に勝とうなんて、1000年は速いの。4年生の大会は覚悟しておくの」
僅かに漏れ出す3人の闘気は、近くを歩いていた生徒達を萎縮させる。
その後、“周りを威圧して歩くんじゃねぇ”と担任の先生に3人で仲良く怒られるのだった。
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リーゼンの家に少し早めに着いてしまったエレノラは、使用人達にもてなされていた。
リーゼンがエレノラを欲しているのは明白なため、こうして餌付けをして何とか引き込もうと頑張っているのである。
しかし、その効果はあまり見られない。
寧ろ、少し迷惑そうな顔をしていた。
「どうですか?この紅茶は」
「美味しいですよ。このお菓子にも合いますし。でも........」
「でも?」
「爆弾の材料にはならなさそうですね。いや、匂いを撒き散らすものとしては使える?でも、紅茶の匂いのする爆弾なんて使い道無さそうだしなぁ」
そう言って思考の沼にハマるエレノラ。
その様子を見ていた使用人達は、一斉に頭を抱える。
((((((また爆弾かよ))))))
エレノラがこうしてリーゼンの家に来ることはちょくちょくある。
その度にお菓子やら紅茶やらを振る舞うのだが、結局行き着く先は“爆弾の材料となるかどうか”であった。
リーゼンの周りには変人が集まるが、エレノラはその中でも群を抜いて変人である。
これには流石の使用人たちも対応に困ってしまう。
「Geeeeeee?」
「あ、モンスター君じゃないですか。触ってもいいですか?」
「え?あ、はい」
対応していたサリナの背中から顔を出すMonsterを見たエレノラは、目を輝かせながらMonsterの頭を優しく撫でる。
あまり人に懐かないはずのMonsterだが、変人には懐きやすい傾向があった。
仁叱り、イス叱り。
「ふふっ、可愛い」
「Geeeeeee」
嬉しそうにMonsterを撫でるエレノラの表情は、年相応の可愛らしいものであり使用人達は意外だと思いつつもエレノラの笑顔に癒されるのだった。
尚、エレノラはこのMonsterの体液を爆弾に使えないかと考えてたりもするのだが、それを使用人達が知る由もない。




