核よりヤベーやつ
天界に攻め込むメンバーを決め不死王とミーティングをするだけとなった2日後、エレノラの面倒を見るために俺達はイスの異能の中に居た。
イスは暇つぶしに遊んでくれるエレノラの事がかなり気に入っているらしく、最近はメレッタやリーゼンお嬢様の中にエレノラが入っていることもしばしば。
メレッタも聞いた話ではエレノラに懐いているらしいので、エレノラは意外と人とのコミュニケーションが取れるのかもしれない。
爆弾が絡まなければと言う枕詞が着くが。
「で、今日は最強の爆弾を作ったから実験するんだっけ?」
「はい。私、気づいて決まったんです。この世界には燃える空気があります。私はそれを“燃焼空気”と呼んでいますが、要は火薬で爆発させるのではなく空気で爆発させるんですよ。この前、またまた安売りされてた特殊な金属からその空気が出てくる事が分かりまして、それと魔術を合わせる事によって巨大な爆発を起こせるのではないかと」
目をキラキラさせながらそういうエレノラだが、俺達にはさっぱり理解できない。
地球基準で話してくれれば多少は理解できるのだが、この世界の基準で話されるとサッパリである。
燃える空気は恐らく可燃性ガスの事だろう。燃えるというか、爆発している........と思われるが、この世界は化学が進んでいない。
結局の所、エレノラが何を言っているのか俺には分からないということである。
「この空気を圧縮して、強引に別の空気に作り変えるんですけど、この前失敗してイスちゃんの世界を壊しちゃいました」
「何やってんだよ」
「凄かったの!!ドーンって大きな衝撃と共に氷が砕かれたの!!」
おい待て。
イスの氷は普通の氷ではない。
鉄よりも固く、並大抵の人ならば氷を砕くことなど出来ないはずなのだが?
どんだけヤベー火力出てんだよその失敗作。
エレノラが今持っているソフトボール程度の大きさの爆弾は、成功作なのだからそれよりもヤベーってことだよな?
それ、実験に成功しても外じゃ使えないよ。
「ね、ねぇ。本当に大丈夫なのかな?イスちゃんの氷を壊すって相当だよ?」
「奇遇だな黒百合さん。俺も同じことを思ってる。絶対にやばいぞこれ」
「もしかして、核とか作っちゃった........?冗談で言ったつもりだったんだけど」
「空気ってことは、もしかしたら水爆とかかも........その気になれば核の何百倍もの火力を出せるよ」
一気に不安が押し寄せる俺達。
爆弾の被害範囲をある程度知っている俺達は、思わずエレノラから距離を取った。
「先生?なぜ逃げるんですか?」
「ぜってーヤベェから。エレノラ、間違っても近場でぶっぱなすなよ?下手をしなくても死ねるぞ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと安定してますから。それじゃ、ここにおいて実験します」
エレノラはそう言うと、爆弾を置いて距離をとる。
広島原爆の時の爆発範囲は確か........半径5kmとかだったよな?念の為そこまで逃げておこう。
最悪異能を使えば無傷で済むが、爆発に圧倒されて反応できない可能性も考慮しておかないとな。
「イス、私たちを守って」
「はいなの」
ある程度爆弾から離れると、花音がイスに自分たちを守るように促す。
天才か?花音。
イスに守ってもらえばいいんだったな。
俺は自分が思ったよりもパニクってることに驚きつつも、下手をすれば核レベルの爆発が怒る爆弾を目の前に正気じゃいられないと自分を慰める。
俺は普通だ。
「ところで、ガルムとモーズグズはどうしたの?」
「威力実験のために的になってるの。心置き無く壊れて問題ないの!!」
倫理観ぇ........
この世界の住人であるモーズグズとガルムは、可哀想なことに実験の被験者となってしまったようだ。
不味い。エレノラの倫理観がイスにも移ってきている。
これは何とかしなくてはと思っていると、気の抜けた声でエレノラが爆破のカウントダウンを始めた。
「では行きますよ。3.2.1発破」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
僅かな静寂の後に訪れた地響きと閃光。そして数瞬後に訪れた爆音がイスの世界を揺らす。
イスに守られているはずの俺たちですら、体制を崩す程の揺れは氷の大地を砕き、世界に破滅をもたらしていく。
更には、見ているだけで暑くなりそうな赤と黄色の交じった閃光。
世界の終焉が今ここにはあった。
俺達は揺れる氷の大地にしがみつきながら、爆風に巻き込まれて赤く染まる氷の外を見る。
イスが守ってくれて無ければ、俺も子の爆発に巻き込まれていたと思うとゾッとする。
マトモに食らっても死にはしないだろう。だが、重症を負う可能性は大いにあった。
暫くして、ようやく爆風は収まり静かなる時が訪れる。
だが、爆音のお陰で耳にはキーンと言う音しか残らない。
誰もが口を開いてはいたが、そこから声が出ることは無かった。
爆風が過ぎ去ってから5分が経ったぐらいだろうか。ようやく花音が声を出す。
「やっば........」
「........流石にこの威力は想定外でしたね。近くの森で爆破実験なんてした日には、アゼル共和国が終わってました」
「リンドブルムの流星よりもエグイぞこれ。下手な厄災級魔物程度なら、焼き殺せるだろ........」
「原爆もこんな感じだったのかな........」
「初めて見たよ。こんな破壊的な爆発は........」
「すごいのー」
イスだけは楽しそうに見ていたが、事の重大さを理解している俺達はただただそれしか言えない。
国の首都で使おうものなら、一撃で街は吹き飛び何も残らないだろう。
量産できるかは知らないが、数を用意出来ればたった一人で国を落とすことすらできてしまう。
なんなら、厄災級魔物にも対抗出来る火力だ。
吸血鬼夫婦辺りは、この爆破の中心部にいると死んでしまうだろう。
「エレノラ、これは封印しろ。これは使っちゃ行けないやつだ」
「分かってます。流石に使いませんよ。万が一のために一つだけ用意しておきますが」
いや、もう作るな。
そう言いたかったが、備えは必要。
厄災級魔物に出会った時のことを考えれば、確かに1つぐらいは用意した方がいいだろう。
とはいえ、出来れば持っていて欲しくないが。
暴発とかしたらどうするんだよ。その国が終わるぞ。
「うわすっごい。氷がぐちゃぐちゃになってる」
「酷い目に会いました........」
「本当にすいませんモーズグズさん。やり過ぎました」
「びっくりしましたよ。ジン様と戦った時よりも酷い有様です」
恐らく1度砕けたモーズグズが、顔を顰めながら戻ってくる。
あの爆発には、流石の2人も耐え切ることは出来なかったようだ。
そして、エレノラにはこの爆弾を作らないように何度も忠告しておいた。
一つだけ持っていてもいいが、あくまで護身用だと耳にタコができるぐらいに。




