卒業生達
今日も今日とて教師の仕事。1年以上もこの仕事をやっていると、最初の時よりも圧倒的に慣れてくる。
生徒の特徴を覚え、生徒の得意を伸ばしつつ苦手を潰す。それをしっかりと行えば、自然と生徒達は力をつけて行った。
特に、今年の四年生はやる気がすごい。
去年の卒業生である、エレノラ達の活躍を直で見ている彼らは“補習科でも強くなれる”と言うのを知っていた。
「やる気があるのはいい事だが、テストはちゃんとして欲しいな。まさか、こっちに力を入れすぎて赤点とる奴が出てくるとは思わなかった」
「次のテストも赤点とると大変だから、ちゃんとテスト期間中は勉強しろって怒ってたねぇ。でないと、補習の授業をその赤点取った授業にするぞって」
「学生の本分は勉強だよ。部活に力を入れるのは勝手だけど、それで他の教科も補習になったら笑えんよ」
「それはそう。補習科の授業に力を入れたいなら、まずは他のお勉強を最低限はできるようにしないとね」
花音は欠伸をしながら大きく伸びをして、身体をほぐす。
俺達は結婚したからと言って、特に距離感が変わることは無かった。
黒百合さん達曰く、“元々熟年夫婦みたいな関係”だったそうな。
20年近くずっと一緒に居るのだから、お互いにお互いの事を知り尽くしている。
特に喧嘩もすることもなければ、お互いにのんびりダラダラしているのが1番楽なのだ。
「今年はエレノラの様な問題児が居なくていいね。ちょっと寂しいけど」
「シュナちゃんの言う通りだねー。毎日のように聞こえてた爆発音が無いのは物足りないかも?」
「いや、毎日聞いてるでしょ。主に我が家で」
「エレノラ、ほぼ毎日家に来ては私達に教えを乞うからね。爆発音が凄いよホント」
そんなことを話しながら、我が家に帰ってくる。
家を買って1年半。新居の家には、生活感が溢れていた。
元々傭兵団の拠点である宮殿で同棲生活には慣れている。この一年半の間、特に何かトラブルがあるという事は無かった。
たぶん、シェアハウス解かこんな感じの生活なんだろうな。実際に生活したことは無いから、分からんけど。
「ただいまー」
「おかえりなの!!」
「おかえりです。先生」
家に帰ると、満面の笑みでイスが出迎えてくれる。
そして、三角帽を頭に被りはたきを持ってエプロンまでしているエレノラ。
完全に主婦の格好である。
「今日も来たのか。冒険者稼業はいいのか?」
「既に終わらせてますよ。と言うか、冒険者稼業よりも先生達に教えを乞う方が大事です」
凄いキメ顔で嬉しいことを言ってくれるが、その格好だと全くかっこよく無い。
卒業したエレノラは、宣言通り毎日家に来ては俺達に戦い方を教わっていた。
冒険者をしながら、なので毎日は厳しいがそれでも週五レベルで来ている。
エレノラは以外にも家事が出来るようで、料理も普通に美味しければ総司も丁寧で綺麗だった。
しかも、それを行いながらイスの遊び相手まで務めてくれるのでイスがかなり懐いている。
本当に倫理観さえどうにかなれば完璧なのだか、神は人を不自由に作らなければ満足しないようだった。
ちなみに、お金は受け取らなかった。教え子から金をせびる程、俺の懐は寒くない。
それに、こうして家事をしてくれるのは普通に助かるのでそれが授業料である。
「エレノラと遊んでたのか?」
「うん!!勉強も終わったし、エレノラに遊んでもらってたの。エレノラ、オセロとかチェスとかすごく強いから楽しいの」
「それは良かった」
俺は楽しそうなイスの頭を撫でてやる。
イスはニコニコとしながら、俺の手をただ受け入れた。
「こうしてみると、先生も人の親なんですね。あの頭のネジが外れてる人とは思えません」
「仁くん、言われてる割にはマトモな人だからね。特にイスちゃんの前では良い親だよ」
「やはり我が子には、甘いってことですか。その優しさを少しでも私達に分けて欲しいものです」
「仁は優しいよ?」
「それ、カノン先生からすればですよね?それ。全肯定しかしない人の意見は参考になりませんよ」
「お?卒業してから随分と生意気になったねぇ。今日は厳しく教えてあげなきゃ」
「ふふっ、今日は自慢の逸品を作ったので受けて立ちますよ。まぁ、先生なら死なないでしょうが」
「死んでも大丈夫だよ。私が治せるからねー」
仲良く会話をするエレノラと花音達。
1年以上の付き合いがある為か、お互いに距離を感じない会話が続いていた。
「そういえば、他の子はどうなの?皆冒険者になったんだよね?」
「えぇ。大会のお陰で銀級冒険者から始められましたからね。他にも騎士団やら傭兵団ギルドからもお誘いがありましたが、やっぱり世界を見て回るなら冒険者ギルドが無難かと思いまして」
エレノラの言う通り、卒業生達は冒険者になった。
とは言っても、人それぞれ冒険者稼業の捉え方が違う。
エレノラは旅をするための路銀を確保するためだけに冒険者をしているだけであり、そこまで冒険者としては力を入れてない。
ビビットはガレンと言う子と共に冒険者の頂点に立つ為に、冒険者に物凄い力を入れている。
ブデは実家の稼業を継ぐ為に修行をしつつ食糧費を浮かせるために冒険者になり、ミミルとライジンは無難な生活が出来ればいいや程度で冒険者をしている。
その為、卒業生皆でパーティーを組んでいることは無い。
旅をするエレノラはソロだし、ビビットはガレン君との2人パーティー。ミミルとライジンが2人パーティーであり、偶にブデがその中に入るのだ。
エレノラがソロなのは分かっていたが、ミミルとライジンが2人パーティーを組むのは意外だった。
ミミルもライジンもソロ向きの性格なんだがな。
そして、大会で結果を残した彼らはなんと銀級冒険者からのスタートである。
こんな子供が銀級冒険者なわけが無い!!と、大会を見なかったアホな冒険者が突っかかってきたこともあったらしいが、全員ボコボコにされて打ちのめされたんだとか。
生徒たちも異世界テンプレしてたみたいで良かったよ。
エレノラに至っては、“合法的に実験できるからもっと来て欲しい”とか言ってたが。
うん。人をモルモットとして見るのはやめようね?口うるさく言っているはずなのだが、ここら辺は相変わらず直る気配がない。
「今からご飯も作れますが、どうします?先にご飯にしますか?」
「いや、先に授業をしよう。飯はその後だ。イス、頼めるか?」
「はいなの。死と霧の世界」
流石に爆発音を撒き散らしながら戦う時は、イスの異能の中でやる。
ご近所に迷惑はかけれないのだ。
こうして、今日もエレノラの相手をしつつ一日が過ぎ去っていくのだった。




