身を固めた者達
武道大会が終わり、華々しい結果を残した補習科の四年生達は卒業した。
一年間ずっと教えてきた生徒達が胸を張って学園を卒業したその姿は、グッとくるものがある。
少し泣きたい気分だったが、全員この街を離れること無く更にエレノラに至っては家に通いに来るとなると、その涙も引っ込んだが。
それから半年間はかなり忙しかった。
教師としての仕事はもちろん、エレノラとかいう倫理観の欠如が見られるエレノラに人としてあるべき姿を教えたり、神聖皇国の教皇選出を裏から操ったり。
中でも1番大きなイベントは勇者様と聖女様の結婚と、龍二とアイリス団長の結婚だろう。
招待状を貰ってからかなり時間が空いてからの結婚式となったが、流石に知り合いと友人の結婚式に顔を出さない訳にも行かない。
全国民から祝われていた勇者様の結婚式では、俺達も少しだけ祝いの言葉を述べる機会があったのは驚きだった。
光司は割と幸せそうだったので、政略と言えどあれはあれで良かったのかもしれない。
龍二の結婚式に関しては、それはもう酷かった。
知り合いしか居ない結婚式となったので、皆やりたい放題騒ぎたい放題であり、なんかよくわかんない銅像を2つぐらい壊していた気がする。
この日ばかりは、俺も花音も酒を飲んでいたな。正確には、悪ノリした龍二に飲まされた。
それでも、かなり楽しかったので個人的には満足いく結婚式だったと言えるだろう。
「獣王国は大変だねぇ。まだドンパチやってるよ」
「ここまで善戦するとは思って無かったな。少し介入した方がいいかもしれん」
そんなこんなありながらも、俺たちが普段やることは変わらない。
花音の左薬指に煌めく白銀の指輪をチラリと見ながらも、俺は報告書に目を落とした。
そう。俺達も結婚したのだ。
龍二達も身を固め、なんならクラスメイトもちょくちょく結婚していた流れに乗って俺達も結婚した。
“なんか皆結婚してるし、俺達も結婚しておくか”ぐらいの軽いノリで結婚し、結婚式は完全に身内だけで騒いだのだ。
ロマンチストなプロポーズ?そんなものやった日には、花音が俺の頭を心配してくる。
結局、結婚して変わったことと言えば左薬指に指輪がハマった位だ。
まぁ、指輪には死ぬほど力を入れたが。
厄災級魔物達に頼んで少し素材を頂き、それをドッペルに頼んで加工&魔道具化してもらった。
恐らくだが、世界で1番ヤベー素材で出来ている指輪である。
魔力を溜め込み、その全てを消費して頑強な結界を作れるとなれば国宝級の魔道具と言っても過言では無い。
身内だけの結婚式は龍二達の結婚式より酷かった。
厄災級魔物達が“祝い”と称して能力を使って宴会芸をしていたのだ。
正直、めっちゃ楽しかった。
ウロボロスの結界によって、多少は外から隠せていたのだがあまりに大きな音が鳴りすぎてバルサルから調査兵が送られてくる始末。
あの時ばかりは、全員で反省したものだ。
とは言え、また誰かが結ばれることがあったら間違いなくやるが。
ちなみに、龍二達には手紙で“俺達も結婚するんでご祝儀かえせ”と送っただけである。
幾ら数少ない親友と言えど、厄災級魔物が溢れる結婚式には呼べなかった。
次会う時が怖いよ。龍二に絶対殴られる。
「介入となると、子供達を動かさないとね」
「そうだな。この前神聖皇国の選挙の工作をするために、移動させたからな。子供たちには悪いが、また戻ってもらう必要がある」
「フシコさんも選挙に勝ったから、子供達もそんなに要らないしね」
「無事に勝ってくれて良かったよ。俺としては、仕事が減った事の方が嬉しいけどね」
神聖皇国の新たな教皇を決める戦いは、順当にフシコさんが勝ち上がった。
子供たちがアレコレ手を回したのだから当たり前と言えば当たり前だが、それでも無事に終わってくれた事に安堵する。
もし負けるようなことがあれば、最悪の場合神聖皇国と敵対す事になったかもしれんからなぁ。
厄災級魔物がわんさかいる様な傭兵団に喧嘩を売らないと思いたいが、対抗馬であったラバートは生粋の魔物嫌いであり、厄災級魔物であろうが喧嘩を吹っ掛けてくる可能性は大いにあった。
勝てないと分かって居ようが許せない事があるというのは分かるが、現実は見た方がいい。
その先に待っているのは、破滅と絶望だけである。
暫く報告書を眺めて世界の情勢を確認した俺達は、疲れた目を抑えながら上をむく。
この生活には慣れたが、やはり疲れるものは疲れる。
もうこの世界に来て7年。23歳になったと思うと、時の流れは速いと感じた。
「もうすぐ天使共との戦いもあるし、大変だな」
「そうだねぇ。準備は出来ているから、後はぶちかますだけだよ」
「........有給って取れたっけ?この学園」
「多分?」
まさか、俺が有給取得を考える日が来ようとは。
別に金はいらないが、貰えるのであれば欲しくなるのが人の性。
明日学園長に聞いてみるか。
俺はそう思いながら、イスの眠る部屋に入る。
「お、やっと来たの」
「起きてたのか?」
「気配を感じて今起きたの。パパとママにおやすみなさいしないと」
「ははっ、イスは真面目だな。おやすみイス」
「おやすみー」
「おやすみなさいなの」
こういう日々も悪くない。俺はそう思いながら、家族3人で川の字になって眠るのだった。
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その日、龍二は怒っていた。
原因は、親友である仁から届いた一通の手紙である。
「有り得んだろ。仮にも20年近く友人をやってる奴に、結婚の報告を手紙だけで済ませるとか」
「まぁ、ジンは傭兵団をやっているからな。あそこは未だに謎が多い。私たちを呼ぶ訳にも行かないんだろう」
若干殺気立つ龍二を見たアイリスは、珍しくジン達のフォローをしていた。
普段全く怒らない龍二が、ここまで怒るのは珍しいからである。
隣で手紙を読んでいたシンナスさえも、龍二の怒りを沈めようとフォローに回るほどだった。
「バカ弟子も色々と事情があるんだ。あまり怒ってやるな。お前の結婚式には来たじゃないか」
「だとしても許さん。あの自由人と狂人には痛い目を見せてやる」
「........具体的には?」
「酔いつぶれるまで酒を飲ます。後、頭からシャンパンぶっ掛けてやる」
結局祝いたいだけじゃないか。
アイリスもシンナスも、内心そう思いながら怒る龍二を呆れた顔で見ていた。
「次いでに、一発どついてやるといい。そのぐらいは許されるだろ」
「そうだ。一発殴ってやれ」
実際、悪いのは仁だしな。と思い直した2人は、そう言って龍二を煽るのだった。




