ドタキャンするとかマジ?
武道大会のメインイベントである無差別級が終わり、優勝者はエレノラとなった。
ブデもかなり健闘したが、やはりエレノラの方が強さは上である。
そりゃ、無数に手札を持っているエレノラと耐久力以外の手札がないブデでは、出せる攻撃の多様性が違う。
しかも、エレノラは観客に気を使って威力の弱めの爆弾を使っていたのだから恐ろしいことこの上ない。
マジでテロリストじみてきたな。その気に慣れば、たった一人で国を落とせるかもしれない。
そんな訳で、大会を終えた後の表彰式。学年別の優勝者と準優勝者、そして同率3位がメダルを受けるとるはずなのだが、そこに補習科の生徒達の姿はなかった。
エレノラは“面倒なので”と言って先に帰ったせいで、ブデ達も“エレノラが受け取らないならいいや”と言って家に帰ってしまったのである。
自由気まますぎる補習科の生徒達には、流石の学園長も困り果てていた。
「一体誰に似たのやら........メダルの授与式をドタキャンするのか」
「多分教えた先生の影響だろうねぇ。ほら、仁もこう言う表彰式とかだるくて行かないでしょ?」
「馬鹿言え、ちゃんと学校の表彰式とかは出てたぞ。俺が受け取らなかったとしても、ちゃんと見てた」
「嘘つき。よく仮病を使って寝てた癖に」
だってダルいじゃん。学校の集会とかよくサボってた記憶がある。
サボれない場合は、爆睡してたな。先生にバレてよく怒られていたが、退屈なものは仕方が無い。
そんな俺の悪いところを見習ってしまったのか、エレノラを始めとして補習科の生徒達は帰ってしまったのだ。
ブデとか両親が見に来ていると言うのに、なんて悪い子なんだ。明日から二日は休みだから、3日後にちゃんと叱っておこう。
自分が出来ていなかったことを生徒に怒る理不尽な教師にだけはなりたくないと思っていたが、実際にこの立場になると怒らざるを得ないな。
教師って大変だわ。
ちなみに、生徒達の晴れ舞台を楽しみにしていたサラサ先生も帰ってしまっている。
“皆帰ったの?じゃ、私も帰ろっかな”と言って、そのまま家に帰ってしまった。
あれ?補習科って実は社会不適合者の集まりなのでは?
俺はそんなことを思いつつも、イスの数少ない友人であるメレッタの表彰に拍手を送っていた。
正直、メレッタの事はよく知らないが、イスの友人と言うだけで有難い存在である。
昨日の今日で忙しいはずのリーゼンお嬢様も、メレッタに惜しみない拍手を送っているのがちらりと見えた。
「教師として一年。長いようで短かったな」
「イスが卒業するまでやらないといけないから、あと三年はこんな感じの生活が続くだろうね。これだけ忙しい日々に慣れると、教師をやめた後が暇になるかも?」
「ゲームとかこの世界にないからな。今ならファミ〇ン時代のクソつまらんゲームでも楽しめそうだ」
「それは言えるね。マ〇オとかやったら、凄く楽しそう」
あぁ、テレビゲームとかしてぇな。なんで俺はあの日、学校に携帯ゲーム機を持ってきてなかったんだ。
充電は魔術でできるだろうし、暇潰しとしては完璧のゲームだったのに。
俺は、もう戻ることの出来ない地球を恋しく思う。
でも、地球に居たらここまで自由な暮らしはできなかったと思うと、悩ましい所ではあるが。
「そういえば、天使はどうするの?」
「もう少し修行を積んでからだな。後、補習科の日程があるからそこを上手く合わせないと」
天使達との戦争に向けて、俺達はこのクソ忙しい時間の合間を縫って修行を続けている。
俺の切り札である“魔導崩壊領域”を使用しながらの、異能使用はかなりいいところまで進んでいた。
仕掛けるとしたら、半年後とかになるかな?補習科の日程を調整しながら、上手くやりくりしなければならない。
期限は残り1年強。それまでには、こっちから天界へと奇襲を仕掛ける必要があると考えると、あまり時間は残されてなかった。
「不死王とも連絡を取りつつ、天界へ攻め込むメンバーも決めないとな。防御面はアスピドケロンがいればなんとでもなるから、空を飛べる奴を連れていくか」
「ウロちゃんが珍しく“連れてけ”って言ってたねぇ。天使と何かあったのかな?」
「さぁ?何万年と生きていれば、天使とのいざこざが一つや二つあるんだろ。となると、ニーズヘッグはお留守番だな。結界を張れるのはあの二体だけだし」
俺は今後の事を話しつつ、天使達殿戦争に向けて本格的な準備をし始める。
まぁ、作戦なんてものは無いから、全部叩き壊すだけなんだけどね。
「あ、後エレノラの面倒も見ないと。ちゃんと教育しないと、テロリストになっちゃう」
「あぁ、それがあったか。不安しかないんだよなぁ........今日の試合で観客を巻き込まない戦い方をしたのは偉いけど」
ふと思い出したかのように言う花音の言葉に、俺は肩を落としてエレノラをどうやって育てるのかを考えるのだった。
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深い闇の中で彼らはその時を待つ。
今は天使達が始末されないと動けないので、彼らは暇を持て余していた。
「できたぞ」
「お、いいねぇ。ニャルの飯は美味いんだ」
すっかり仲が良くなった人形と魔王の分身は、2人で仲良く夕食を摘んでいた。
かつてを知るもの達がこの光景を見れば、目を見開いてお互いの正気を確認することだろう。
しかし、彼らは昔に縛られない。“今”が敵か味方か。それだが重要である。
「俺は味がほとんど分からないから、触感で楽しませてくれるのはいいね。しかも、僅かに感じられる味もちゃんと美味いと来た。ニャル、お前人里で飯屋でも開いたらどうだ?」
「バカを言うな。この見た目で人里に降りたら魔物扱いだ。それに、全てが終わったあとの世界に人間はほぼ居ない」
「ハッハッハ!!それもそうか。それにしても、暇だな。やることがない」
「今は貴様の“後輩”が動くのを待つしかないからな。あ、タレを取ってくれ」
「これか?ほい。そのタレ、影は不味いって言ってたんだが、美味いのか?」
「私の口には合うな。かなり美味いぞ」
「へぇ、俺には味かわからんからなぁ。元の体が恋しいぜ」
人形と魔王の分身は、何気ない会話を楽しみながら料理を食べていく。
その影でこっそり覗きみをしていた“影”と魔女は、仲睦まじい二人を見て首を傾げていた。
「マジであの二人、なんで仲良くなってんの?殺し合った仲だよね?」
「まぁ........ある意味同じ被害者ですから。少しは親近感が湧くのでは?」
「そういう問題?」
「恐らく」
闇の中で蠢き世界を潰さんとする者達だが、こうして見ると案外平和な場所なのかもしれない。
彼らが動き出すその時までは。
これにて第四部四章は終わりです。




