決勝エレノラvsブデ③
エレノラの降らせる弾幕の雨をブデは気合いで潜り抜き、遂にハルバードが届く距離まで近づいた。
ブデは、このチャンスを逃すまいとハルバードを小さく振り上げてエレノラの脳天に目がえて振り下ろす。
この攻撃で仕留めようとは思っていない。まず間違いなく避けられるのはわかっている。
エレノラの次の動きに対等する為に、ブデは必要最低限の動きでエレノラに攻撃を仕掛けた。
(これは当てる気がないね。次を狙ってる)
手抜きの攻撃と言えど、回避も防御もしなければ一撃を喰らう。エレノラはブデの顔に向かって爆弾を投げつつ、ハルバードを紙一重で躱すと前に出た。
ハルバードや槍の欠点は、距離を詰められると弱いという事だ。他の武器よりも射程が長い代わりに、近づかれるとその威力は半減してしまう。
顔面で爆弾を受け止めたブデだが、目の前が煙で覆われてしまった。
ハルバードの感触から、エレノラに攻撃が当たってないということは分かるが、一時的に視界を封じられる。
「──────────!!」
「残念。目を抉って脳を切り付けるつもりだったのに」
視界の無い中、突如として襲ってきたエレノラの攻撃。
今まで一度も使ってこなかった仕込みナイフを袖から出し、ブデの目を狙って突きを放つ。
ブデの異能は確かに攻撃に対して強くなるが、強化できない部分と言うのもある。身体の内部や、口の中、そして眼球等は強化しようと思ってもできないのだ。
エレノラはその弱点を正確に突き、ブデの目を抉ろうとする。
あまりにも容赦のない一撃だった。
「危ないね。今のは死ぬところだったよ」
「それは残念。仕切り直しだね」
エレノラの攻撃を躱し、ハルバードを短く持って反撃をしようと試みるブデだが、この僅かな間にエレノラは次の爆弾を用意していた。
ミミルにも使った、指定方向のみに爆破する強烈な爆弾がブデを襲う。
いくら身体が丈夫になろうとも、あまりにも強すぎる衝撃には吹き飛ばされるのだ。
ドォォォン!!と空気を揺らす爆音が響くと同時に、ブデの体は闘技場の壁に叩きつけられる。
耐久力の低いミミルならばこの時点で気を失ってしまったが、ブデはダメージを感じるだけで気絶はしなかった。
しかし、今までよりも大きなダメージが入る。
なるべく観客席から離れたことにより、エレノラはミミルに使った時よりも更に強力な爆弾を使っていたのだ。
その為、内蔵にまでダメージが通ってしまったブデは、口から血を吐きながら膝を着く。
痛みには慣れている方だが、慣れているからと言って耐えられる訳では無い。
「ゴホッ........」
「今ので死なない辺り、やっぱり凄いねブデは。普通は身体が木端微塵に弾けるはずなんだけど」
「そんな危ないものを使わないで欲しいね。いやほんと」
再び爆弾の雨を降らせるエレノラ。ブデは痛む身体に鞭を打って爆弾を防御しつつ、移動を始める。
『おおっと!!ブデ選手口から血を吐いたように見えました!!これはかなりのダメージが入っているのではないでしょうか?!』
『恐らくそうだろうな。見た感じ、ミミル選手と戦った時に使った物と同じよう爆弾だ。だが、威力が桁違いだと思われる。ばくはの音が明らかに違ったしな』
激しい二人の戦いを解説する実況席。この二人も、自分の仕事を忘れてしまいそうの程この試合に魅了されていた。
大地を揺るがし空気を破裂させる爆発と、それに耐えながらエレノラに攻撃を仕掛けようとうかがうブデ。
この2人の戦いは、間違いなく決勝の舞台に相応しい。
始めは歓声を上げていた観客達も、気づけば黙って試合の行く末を眺めているだけだった。
唯一、小さく声を上げているのはこの爆撃の余波を喰らう学園長ただ1人。審判を務める彼は、攻撃に巻き込まれないように逃げ回りながら能力が行使された事を確認しなくてはならなかった。
「うぐっ」
「ほらほら、そこにも爆弾があるよ」
爆弾を耐えつつ、エレノラに攻撃を仕掛けるタイミングを待つブデだが、何をやってもエレノラの手の平の上で転がされる。
わざと右に良ければ交わせる爆弾を投げ、ブデを右に動かすとそこには最初に仕込んだ爆弾がブデの足を爆破する。
ブデも耐えられない訳では無いが、徐々に積み重なっていくダメージに顔を顰めていた。
(まだ今じゃない。もっと効果的に一撃を食らわせられる時じゃないと........)
(何か狙ってるね。出してくる前に勝負をつけるか、無理やり引き出して対応しないと面倒になりそう)
ブデの行動をある程度読んでいるエレノラと、一発逆転を狙うブデ。
しばらくエレノラに弄ばれる時間が続くが、僅かな隙を見逃さなかったブデがようやく動いた。
「オラぁぁぁぁ!!」
「お?おぉ?!」
地面を勢い良くハルバードで叩き付けるブデ。
ライジンにも使ったこの作戦は、本来エレノラ用に立てた作戦である。
エレノラの高精度な爆弾の嵐は、地面に仕込まれた爆弾使用することが多い。そして、その爆弾達は重さを感知して爆破することが多かった。
これが厄介極まりない。ならば、地面ごと破壊して爆弾の位置を変えてしまえば、エレノラはこの戦い方ができなくなる。次いでにエレノラの動きも封じてしまえば、次の攻撃は確実に当たる。
会場ごと揺らすブデの一撃は、狙い通りエレノラの体制を崩すことに成功した。
ここで決めなければ、ブデに勝ちはない。
そう思ったブデは、一気に距離を詰めてエレノラにハルバードを叩き込もうとする。
エレノラはまだ体制が崩れたまま。この状況では、防御はできても回避は出来ない。
勝った。ブデは自分の勝利を確信しつつも、油断せずにハルバードを振り下ろす。
だが、その手にエレノラを切り裂いた感触は残らなかった。
「え?」
「残念。新爆弾、幻影爆弾だよ。魔術を内部に仕込んだ爆弾さ」
後ろからかけられる声。
いつの間にとブデは思いつつ急いで後ろを振り返ろうとするが、エレノラがそれを許すはずもなかった。
「バーン」
ブデの足元から、とてつもない衝撃が襲う。
先程使った方向指定の爆弾が足元にいくつも置かれており、それが同時起動したのだ。
爆弾の向いていた方向は上。
ブデは天高く打ち上げられ、体内に入っきてきたダメージによって気絶する。
空高く打ち上がったブデは重力にしたがって下へと落ちていき、地面に身体を思いっきり叩きつけた。
「ちょっとヒヤッとしたけど、私の勝ちだね」
余裕そうな顔で、気を失ったブデを担ぎ上げるエレノラ。
エレノラと言えど、友人をそのまま放っておくことは無い。
「学園長、終わりましたよ」
「分かってる........そこまで!!勝者エレノラ!!」
学園長の宣言によって、大会の優勝者は決まる。
ドッと湧き上がる歓声と拍手の中、エレノラはブデを担いで舞台裏へと消えるのだった。




