決勝エレノラvsブデ②
酒に酔った黒百合さんに絡まれたり、サラサ先生が黒百合さんの酒を飲んで騒ぐとこ数分。
ついにその時がやってきた。
既に出来上がっている二人の相手はラファに押し付け、俺は闘技場に入ってきたエレノラとブデに拍手を送る。
よくぞここまで来た。後は自分達の強さを証明してくれ。
「二人ともやる気満々だねぇ。いつも以上に闘志が漲ってるのが分かるよ」
「そうだな。ブデは特にやる気があるように見える。エレノラは割と普通そうにしてるけど、それでも抑えきれない闘志が見えるな」
爆弾をジャラジャラと弄ぶエレノラと、ハルバードの石柄を地面に突き刺すブデ。
この2人がどのように戦うのか、なんとなく想像がつきつつも俺は楽しみで仕方がなかった。
『やって参りました!!武道大会の最後を締めくくる最後の対決!!いやー、素晴らしいものが沢山見れましたね!!』
『今年はいつも以上に面白いものが見れたな。特に、補習科の快進撃が素晴らしかった。私も見ていて心が踊ったよ』
『私もです。ですが、楽しい大会もこれにて終わりを迎えます。では、今日の主役達を紹介しましょう!!』
ノリノリで実況をする彼は、エレノラとブデの紹介を始めた。
あまりにもインパクトの強い試合をしてきた二人の紹介は、今まで以上に熱が入る。
『ほぼ全ての試合を一瞬で終わらせてきた彼女は、この試合も一瞬でたたんでしまうのか?!距離を取れば爆破され、近づいても爆破される!!この理不尽の押しつけは、誰の手でも崩せない!!圧倒的な弾幕を前に、人々は彼女をこう呼んだ!!絶望の出世壊しが一角、“爆殺魔”エレノラ!!』
サラッと二つ名が付いているエレノラは、少し嫌そうな顔で実況席を見る。
エレノラ、2つ名自体があまり好きじゃないんだろうな。
結構カッコイイと思うんだが、本人は普通に名前で呼んで欲しいのかもしれない。
「順当な二つ名だねぇ。多分、広めたのは後輩達だろうけど」
「皆裏ではエレノラの事を“爆殺魔”っていう言ってたもんな........そりゃ二つ名が広がる訳だ。錬金術の生徒達の中でも同じように囁かれてたみたいだし」
エレノラと言えば爆弾。爆弾と言えばエレノラと言うほどには定着してたからな。
物を爆破する姿が、それだけ多く確認されていたということである。
正直、自業自得感は否めないので、エレノラは大人しくその二つ名を受け入れなさい。
『対するは、その肉体は数多の攻撃を跳ね返す!!龍を屠る剣ですら斬り裂ぬ肉体と、その巨漢からは想像もできないほどの素早さ!!もちろんパワーもイカレてる!!そのハルバードから振り下ろされた一撃は、敵を砕き大地をも砕く破砕者!!故に、人々は彼をこう呼ぶ!!絶望の出世壊しが一角、“破砕無双”ブデ!!』
へぇ、ブデにも二つ名があるのか。
当の本人も、この二つ名が初耳だと言わんばかりに困惑しており、“え?僕の事?”と言わんばかりにキョロキョロと首を動かしている。
そして、ちょっと嬉しそうだった。
「破砕無双なんてかっこいい二つ名だな。ブデにはお似合いだと思うぞ」
「いいねぇ。無敵の破砕者。私も“黒鎖”とかじゃなくてあんな感じが良かったなー」
ブデの二つ名を羨ましがる花音は、口をとがらせながら文句を言う。
二つ名って、その人を代表する特徴のようなものだからな。
戦場で鎖を振り回しては、相手を殺して回っていた花音に相応しい名前ではある。
本人が気に入るかどうかは別として。
「さて、そろそろ始まるな」
「学園長も心做しか顔がキリッとしてるねぇ。これで最後だから、頑張ろうって感じかな?」
「多分そうだろうな。決勝の舞台で死に顔を晒す訳にもいかないだろうし」
手を振りあげた学園長は、気合いで声を張り上げると試合開始の合図を取る。
「それでは、試合開始ぃ!!」
こうして、この1年の締めくくりとなる最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
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「それでは、試合開始ぃ!!」
若干上擦った声を張り上げながら試合開始の合図をした学園長の声を聞き、ブデは即座に動き出す。
今まではカウンター戦法を取ってきたが、エレノラ相手にカウンター戦法は通じない。
待ちの姿勢を取れば、ブデが力尽きるまで爆弾の雨が降ってくることになるだろう。
(距離を詰めて、爆弾を仕込まれないようにしないと!!)
何度もエレノラと戦ってきた補習科からすれば、エレノラ相手に初手は距離を詰めると言うのは定石である。
かつて様々な方法でエレノラに挑んだが、これが最も安全且つ効果があったからだ。
エレノラが爆弾を仕込む隙を与えない。これが、エレノラと戦う上での鉄則である。
「いきなり凄い距離を詰めるね。爆弾をゆっくり仕込めないじゃん」
エレノラはそう言うと、ブデに向かって威力の高い爆弾を投げつける。
強い衝撃を与える事で爆発する爆弾であり、ビー玉サイズの癖にその威力はオークの頭を易々と吹き飛ばせる火力だ。
ミミルと戦っていた時は、威力が強すぎて殺してしまう可能性があったので使わなかった爆弾だが、相手が部でとなれば話は別である。
剣すらも通さない肉の壁は、この程度の爆破は余裕で耐えてくる。
少しはダメージが入っているだろうが、ブデ相手となると雀の涙程だった。
(やっぱり余り効いてないか。もうちょっと威力が強いのも使えるんだけど、観客を巻き込みそうなんだよね)
高威力の爆弾は、その殆どが周囲を巻き込む物だ。
一応、爆破範囲の狭い爆弾もあるにはあるが、その分利便性に掛ける。
エレノラは仕方がないと、小さくため息を着くと爆炎に紛れて爆弾をいくつも仕込んでおいた。
いつ使えるかは分からいなが、仕込んでおいで越したことはない。
以前、組手をした後に回収し忘れて仁を爆破してしまったりもしたが、今はそんな事どうでもいい。
(使えるのは........これとこれと、あとこれかな?毒ガスは流石に使えないし、この超高威力の爆弾も使えないね)
エレノラは、爆弾を適切に選びつつ後ろに下がってブデから距離を取りながら爆弾で牽制を続ける。
その間にもちゃっかり爆弾を仕込んでいる辺り、エレノラに油断はない。
対するブデは、身体に襲ってくる衝撃を能力で耐えながらエレノラに向かって真っ直ぐ進み続ける。
後ろ向きで走るエレノラよりも、前に向かって走るブデの方が圧倒的に速い為、このまま行けば追いつけるだろう。
(痛い痛い。これ、僕じゃなきゃ死ぬやつじゃないの?........あ、先生は例外か)
割と余裕で爆弾の雨を耐えるブデ。その肉体強度は、龍の鱗にも匹敵する。
耐えて耐えて耐え続け、エレノラを捕まえようと前に進む。
そして──────────
「射程内に入ったぞ!!」
「あれだけの爆弾を受けて怯まないとか、自信なくすね」
ハルバードの届く位置にまで、接近をするのだった。




