準決勝ライジンvsブデ
エレノラが決勝進出を決め、残る対戦も後二つとなった。
順当に勝ち上がってきたライジンとビビットを下し登ってきたブデの対戦は、誰も勝者を予想することは出来ない。
陽の光が傾き始めた頃、二人は闘技場へと足を踏み入れた。
何度目になるか分からない空にも響く歓声を聞きながら、ブデはライジンとの勝負に勝つための勝利条件を考える。
ブデにとって、ライジンやミミルの様なすばしっこい相手は天敵だ。
補習科の中でも動きが重鈍なブデにとって、攻撃を当てられない素早さを持つ者は捕まえづらい。
その中でも、ブデに対して明確に回答を持っているライジンとは、ブデも出来る限り戦いたくない相手であった。
最も、ほぼ有効打を持っていないにも関わらず何故か毎回ボコられるエレノラが一番戦いたくは無いが。
「よろしくね。ブデ」
「こちらこそ。今日は負けないよ」
お互いに闘志剥き出して睨み合う。
観客には伝わらないこの闘志だが、唯一近くにいる学園長だけは二人の闘志を見て軽く引いていた。
また能力を発動させることになると悟った学園長は、全身のダルさを気合いで堪えつつ天に向かって手を上げる。
残り二戦を頑張れば、休みがやってくると言うことだけに希望を持って。
「それでは、試合開始!!」
手を振り下ろすと同時に、ライジンは雷魔法を放つ。
指先から放たれた一撃はあまりにも速く、ブデが避ける間も無くブデの全身を痺れさせた。
「っく........!!」
ブデはその能力によって、相手の攻撃の殆どが効かない。
しかし、体内へ直接攻撃してくるものには自慢の身体があまり役に立たないと言う明確な弱点がある。
雷魔法もその内の1つだ。
かなり威力を落とせるものの、体内に入ってくる電流まで防ぐことは出来ない。
ブデは痺れる体を無理に動かして、前へ出た。
「正面から撃ち合うと負けるからね。悪いけど、僕はまともに戦う気は無いよ」
ブデが前に出れば、ライジンはブデから距離をとる。
そして、隙を見つけて雷魔法を何度も叩き込んだ。
ライジンも、ブデの一撃は警戒している。
この補習科の中で最もパワーを持つブデ相手に、肉弾戦を挑む程馬鹿ではない。
更に、電流で動きの鈍っているブデに追いつかれる程ライジンの足は遅くない。
ブデが弱るまで逃げながら雷魔法を当て続け、最後の最後でトドメの一撃を刺すのがライジンの作戦だった。
空気中を迸る電撃。
ブデはハルバードを避雷針代わりにして防御を試みるが、それでも手を伝って痺れがやってくる。
圧倒的に不利な状況だ。
(このままだと負ける........分かってはいたけど、厄介な相手だ)
一応、対策らしい対策はブデも立ててはいるものの、慣れない事を実践だやらせてくれる程相手も甘くない。
それに、ブデの対策の殆どは、そのフィジカルで耐えると言う何とも脳筋すぎる戦法が大前提であった。
何度も何度も雷撃を喰らいながらも全身してライジンを捕まえようとするブデと、ブデに捕まらないように一定の距離を保ちつつ逃げ撃ちをし続けるライジン。
闘技場で行われる鬼ごっこは、戦いというものを知らない観客にとっては少しつまらないものだった。
『追いかけっこが続きますね』
『ライジン選手はブデ選手の一撃を警戒して魔法での攻撃を優先しているな。対するブデ選手は、それを耐えながらライジン選手を捕まえに行く。実にわかりやすい戦いだ。ブデ選手がライジン選手をつかまえるか、その前に力尽きるか。それによって、勝ち負けが決まると言っても過言では無い』
『なるほど。彼らは同じ補習科としてお互いの手の内を知っているでしょうし、尚更やりにくいでしょうね。お互いに』
『だろうな。どうやら雷魔法はブデ選手に効くようだが、高火力の魔法を放たないのを見るとその間に使わまるのだろう。これは、我慢大会だ。長くなるぞ』
解説の言う通り、試合は長引いた。
逃げ続けるライジンと耐え続けるブデ。
体の内部に攻撃が来るからと言ってブデの動きが格段に鈍ることもなければ、魔法の撃ちすぎでライジンの魔力が切れることもない。
勝利への天秤はずっと並行を保っており、勝敗は本人達ですら分からない接戦を極めた。
しかし、この天秤が永遠に平行を保つことは無い。
物事には必ず終わりが来る。
(いい加減倒れて欲しいな!!)
焦りと苛立ちを含んだ綻び。
ライジンは、中々倒れないブデに対して強めの雷魔法を使った。
否、使ってしまった。
今まではほぼノータイムで放たれた魔法に、ほんの僅かな隙間ができる。
ブデに対して出来た焦りは、ライジンにとって大きな隙を生み出してしまった。
そして、ブデはその隙を逃さない。
「今今今ァ!!」
僅かな隙を突いたブデは、地面を思いっきり叩きつける。
今までは許されてこなかった動きだが、自分に魔法が届くまでの僅かな間にブデは闘技場を破壊する。
ドゴォォォォン!!と言う爆音を奏でながら、会場は地震が起きたかのように揺れる。
石でできた会場はバキバキに割れ、その衝撃はライジンの体勢を完全に崩した。
「うわっ!!」
体勢を崩せば、魔法を正確に放つのは難しい。
それでも、ライジンはブデ目掛けて正確に魔法を放って牽制を続けようとする。
しかし、この1度のチャンスをブデは手放さなかった。
飛んできた雷をブデはハルバードでガードする。
その際、電撃が体内に来ないように、ブデはハルバードを手放したのだ。
「やばっ」
「捕まえたよ」
2発目の魔法が飛んでくるよりも早く、ブデはライジンに近づく。
手を出せば届く範囲。ブデの間合いに入ったのだ。
ライジンは慌てて後ろへと下がろうとするが、ここで悲劇が起こる。
ブデが砕いた闘技場の足場は非常に悪く、幾つもの段差がそこにはあるのだ。
人は後ろにも目をつけることは出来ない。
後ろへと下がろうとしたライジンの足を、その段差は沼のように絡めとった。
後ろへと倒れるライジン。
ブデは、その巨体を生かしたタックルをライジンにお見舞いすると、ライジンは地面に転がりながら吹き飛ぶ。
砕かれた闘技場の破片を撒き散らしながら吹き飛んだライジンは、ブデの一撃をまともに食らって立ち上がる事すらできなかった。
「勝者!!ブデ!!」
能力の発動を確認した学園長が、ブデの勝利を宣言する。
一瞬の決着。
長々と鬼ごっこを続けていたブデとライジンの派手な決着を見て、観客たちは大いに盛り上がった。
「ライジンが焦ってくれて良かった。でも、これでエレノラに戦法がバレちゃったな」
ブデは勝利の余韻を味わいながらも、決勝戦の相手となるエレノラに対しての策を使ってしまったと苦い顔をする。
ライジンに使うつもりではなかった策をここで使わされたのは、ブデにとって痛手だった。
「決勝、勝てるかな........」
ブデはそう呟きつつ、若干痺れる身体を労りながらライジンを背負って闘技場を後にするのだった。




