準決勝エレノラvsミミル
ビビットvsブデの試合は、ブデがビビットの想定を上回り勝利した。
少しの休憩を挟んだ後、準決勝が始まる。
エレノラは数ある爆弾の内幾つかを取り出すと、手の上で転がして遊んでいた。
「ミミルか........きっと対策を積んでいるんだろうな」
エレノラの戦い方は、いわば初見殺しに近い。
応用の仕方によっては無限の戦い方があるとはいえ、その中でも使い慣れた戦術の方が戦い安いのは事実である。
そして、同じ補習科として四年も過ごしているミミルには手の内がバレていた。
「それでも勝つのは私ですけどね。対策を積まれたら爆破するまで。それが私です」
エレノラにとって、この大会に優勝する事はさほど重要では無い。
出世街道を歩むつもりもなければ、名声が欲しいわけでもなかった。
だが、優勝する価値はある。エレノラが優勝したい理由は二つ。自分の面倒を見てくれた教師陣への恩返しと、その中でも1番面倒を見てくれた世界最強の傭兵に褒められたいのだ。
エレノラが出会ってきた人の中で、1番狂っていて尊敬できるあの世界最強に“おめでとう”と言われたいのである。
「エレノラ選手、出番です」
係員に呼び出され、部屋を出るエレノラ。
「頑張ってね」
「ライジンもね」
同じ部屋で待機していたライジンに背中を押されながら、エレノラは爆弾をマジックポーチに仕舞って会場はと向かう。
そこには、係員が逃げ出したくなるほどの闘志が渦巻いていた。
(ミミルには悪いけど、完封させてもらうよ。私は、先生に褒めてもらいたいからね)
闘技場に足を踏み入れれば、観客達のノイズがエレノラの耳に入ってくる。
エレノラはその煩さ顔を顰めながらも、やる気満々のミミルと対峙した。
「エレノラ、今日は私が勝つよ」
「できるといいね。でも、勝つのは私だ」
この時点で、勝敗が決したようなものだった。
普段見せないエレノラの気迫に1歩引いてしまった時点で、ミミルの勝ちは消えてしまったと言っても過言では無い。
元々強い者が、本気で勝ちを拾いに行く。
ミミルと言えど、本気で殺しにくるエレノラの殺気には勝てないのだ。
長ったらしい紹介を終え、学園長が手を天に振り上げる。
「それでは、試合開始!!」
振り下ろされた手と共に、動き出したのはミミルだ。
エレノラに爆弾を設置させる暇を与えれば、勝ち目が無いということはミミルも分かっている。
爆弾を使われる前に、エレノラを倒す。
それが、最善策である。
「遅いですよ」
しかし、エレノラもそれは理解していた。
エレノラは後ろに飛んで距離を取ろうとすると同時に、ひとつの爆弾を地面に転がす。
ミミルがエレノラの手に視線を集中しているのはわかっている。エレノラは、それを逆手にとって足に仕込んだ爆弾を使ったのだ。
それは、高速で接近するミミルの足元にドンピシャで落ちる。
ドーン!!と、ミミルの足元で爆発する爆弾。
ミミルは、左足に襲ってきた衝撃を受け流すことが出来ない。
「........っ!!」
「分からなかったでしょう?ちゃんと隠して投げてますからね」
投げたと言うには少し語弊があるが、態々敵にそれを教える必要は無い。
エレノラは、体勢の崩れたミミルに向かって追撃の爆弾を幾つも投げる。
本来なら、この時点でエレノラの勝ちだ。
エレノラの使う爆弾には、ミミルを一撃で殺せるようなものまである。
しかし、それを使うと観客席まで被害が及ぶので、エレノラは威力の低い爆弾を使わざるを得なかった。
どうしても勝てないのであれば使うが、使った後に先生から怒られるのは明白である。
今までも何度も怒られてきたエレノラと言えど、怒られる事に慣れている訳では無いのだ。
「痛いねー!!」
「........一応、常人なら死ねる威力なんだけどね。それ」
さも当然のように爆破に耐える同級生に呆れつつも、エレノラは爆弾を投げる手を止めることは無い。
爆煙によってミミルの視界を防ぎつつ、ミミルが動くであろう場所に爆弾を仕込む。
気づけば、ミミルはどこに動いても爆破に巻き込まれるようになってしまった。
(多分、あちこちに爆弾が........痛た!!エレノラ、容赦無さすぎ!!)
何度もエレノラ戦ってきたミミルも、自身の周りに爆弾が設置されている事は既に察している。
その場から動かなければ爆弾を踏み抜くことは無いが、その場に留まれば爆弾が雨のように降ってくる。
ミミルは動かざるを得ない。
ミミルは覚悟を決めると、爆弾を投げながら少しづつ下がるエレノラに向かって一直線に駆け出した。
最初の踏切で、石でできた地面が抉れる程の脚力。
仕込まれているであろう地雷源を飛んで回避しながら、近づくミミルはここに来てようやくエレノラに肉薄した。
「捉えたよ」
拳を握り締め、エレノラの顔面に向かって拳を突き出そうとするミミル。
その際に見たエレノラの顔は、笑っていた。
「待ってたよ。そう来ると思ってた」
ポロッとエレノラとミミルの間に落ちる爆弾。
この激戦の中でゆっくりと落ちる爆弾は、空中で閃光を撒き散らす。
ドォォォォォォォン!!
今までの爆破とは桁の違う爆破音が響くと、ミミルの意識は暗き闇の中へと落ちていった。
「方向指定型の超威力爆弾です。ここからなら、観客席に被害は行かない」
全てはエレノラの手のひらの上だった。
近接戦闘の手段しか持たないミミルは、いやでも接近してくる。量産型の爆弾を強引に突破してくるのも分かっている。
ならば、観客席に被害が行かない様な距離まで離れてから、今まで組手で使った事がない爆弾で仕留めればいい。
全ては、エレノラのシナリオ通りだった。
爆破の衝撃で吹き飛ばされ、観客席の壁にめり込むミミル。
ピクリとも動かないミミルを見て、学園長は慌てた様子でエレノラの勝利を告げる。
「しょ、勝者!!エレノラ!!」
ドッと湧き上がる歓声の中、エレノラはミミルの元に向かって壁からミミルを救出する。
気絶したまま傷が癒えていく様を見て、エレノラはミミルを殺してないことにホッとした。
「さて、次は決勝ですか。ライジンが上がってくれれば、楽なんだけどな」
ミミルをお姫様抱っこしたエレノラは、観客達の拍手に見送られながら闘技場を後にする。
「ブデを仕留める爆弾は殆ど使えないし........やっぱり秘策用の爆弾を使うしかないかな。一発しかないから、外すと終わるけど」
独り言を呟くエレノラはすれ違ったライジンに“頑張れ”とだけ告げると、おそらく上がってくるであろうブデとの対戦に備えて予備の爆弾を作るのだった。




