準々決勝ビビットvsブデ
準々決勝に進出を決めた補習科の生徒達。
エレノラを始めとする3人は、この試合も圧倒的な実力で相手を薙ぎ倒し準決勝へと駒を進めた。
しかし、準々決勝第四試合ばかりはそうもいかない。
なせなならば、対決するのは同じ補習科同士だからである。
「一年前まではこの舞台に立ってブデと戦うとは思ってなかったよ」
「僕もだよ。やっぱり先生は凄いね」
準々決勝の舞台へと上がったビビットとブデ。
彼らの耳に観客の歓声は聞こえない。
2人は既に、目の前にいる相手を倒すことだけに集中しているのだ。
実況が2人の紹介をしているが、二人ともそれを無視して話を進める。
お互いに僅かに漏れだした闘志に、学園長が思わず1歩下がる。
「悪いけど、この先に行くのは僕だよ。ブデじゃない」
「その言葉、そっくりそのまま返ふよ。この先に進むのは、僕だ」
巻き起こる闘志。かつて落ちこぼれと言われた彼らだが、今はそんな姿の欠片もない。
ビビットは剣を構え、ブデはハルバードを構えると試合開始の合図を待った。
(これはまた能力を使う羽目になりそうですね........疲れる)
既に何度も異能を使って疲れている学園長だが、今日を頑張れば休みが待っている。
生徒のためにも、今は頑張り時だった。
学園長は手を天に掲げると、そのまま下に振り下ろした。
「それでは、試合開始!!」
試合が始まるが、お互いに動かない。
お互いに手の内が殆ど分かっているこの状況では、下手に攻撃を仕掛けると手痛い反撃を貰ってしまう。
先ずは、相手の出方を伺い、それに合わせて相手の体制を崩す事が重要であった。
(やっぱり動かないな。ブデも僕がカウンター狙いなのは分かっているのか)
(動かないか。お互いにカウンター狙いかな?)
二人とも動かない中で、少しだけ剣を動かしたりハルバードを前に出したりして相手を誘う。
だが、お互いに何度もやってきた仕掛けは通用しない。
甘い餌に飛びつく程、2人は弱くないのだ。
『全くもって動きませんね。今までの試合とは随分と違った始まり方です』
『お互いに隙を伺っているな。チラチラと隙を見せて誘っている。下手に飛びつけば、喰らわれるのは自分だと理解しているのだろう。実に高度な駆け引きだ』
動きが起こらず、退屈し始める観客達に実況と解説が場を盛り上げようとする。
しかし、彼らも出来れば早めに戦って欲しいと思っていた。
高度な駆け引きなのは分かるが、素人目から見ればただじっとしているだけ。
見ていて楽しいかと言われれば、NOである。
だが、2人にとって観客達の気持ちなどどうでもいい。目の前の相手に勝つことこそが、この場において正義である。
ジリジリと距離を詰め始める二人。
その間にも幾つも餌を撒くが、そのどれにも食いつくことは無い。
それでも、ハルバードの間合いに入った瞬間、ブデが動いた。
「ふっ!!」
放たれたのは、常人では目に追えないほどにまで速い突き。
モーションが少なく、攻撃までの出が早い一撃をブデが放つ。
「........っ!!」
ハルバードの間合いに入った瞬間にブデが攻撃を仕掛けてくることが読めていたビビットは、これを必要最低の動きで回避すると、カウンター気味に剣を振るう。
ブデがハルバードを引き戻すよりも速く、ブデの腹を横凪に切り払おうとした。
が、ブデもこれを回避。
少し後ろに飛び退くことで、剣の間合いから離れる。
が、ブデの体に衝撃が襲った。
「んぐっ!!」
吹き飛ぶほどでないが、バランスを崩す威力。
剣を確実に避けたのにも関わらず、その逆方向から襲ってきた衝撃の正体をブデは即座に理解した。
(風魔法!!剣を振るのはフェイクか!!)
ブデは異能があるためダメージはない。だが、衝撃を吸収するものでは無いので体制が崩れる。
そして、ビビットはその隙を見逃さない。
素早くブデの懐に入り込むと、風を纏わせた剣でブデを斬り裂く。
脇腹に一撃を貰い、ボールのように吹き飛ぶブデ。
初めて攻撃が決まり、観客たちは盛り上がるがビビットの顔は渋かった。
本来は、真っ二つに切り裂くつもりだった。だが、ブデの耐久力があまりにも高すぎたのである。
「鉄の剣で切ってるのに、切れずに吹き飛ぶってどんな耐久力をしてるんだ?ブデも先生達みたいに人外になりかけてるよ」
「ゴホッ、そりゃ、耐久が僕の十八番だからね。切れはしなかったけど、痛かったよ」
「いや、それがおかしいんだって」
何事も無かったかのように立ち上がるブデは、殴られた脇腹を軽く擦りながらハルバードを構える。
ビビットも剣を構えるが、先程のように様子見をすることは無かった。
「風よ」
魔法による牽制。
ブデの体に幾つもの風の玉が当たるが、ブデは気にした様子もなく前へ前へと進んでいく。
ビビットもこの程度でブデを止められるとは思っていないが、それでも牽制しておいて動きを制限した方がいいとの判断だ。
(あれだね。クソゲーって奴だ。先生が言ってた)
ビビットはブデの理不尽さにウンザリしながらも、攻撃を何度も加えていく。
対するブデはその全てを受け止めながら全身。先程のような不意打ちでなければ、ブデの体勢も崩れることは無い。
(何とかしないと、僕がジリ貧で負ける。ブデの耐久力を舐めてた)
手合わせをしている際、ビビットはブデに本気の攻撃を当てたことは無かった。
一応ラファエルと言う世界最高のヒーラーがいるとはいえ、友人を殺す気で斬り裂くバカはいない。
........爆撃をするものはいたが。
それにより、ブデの耐久力を見誤ったのがビビットの敗因である。
ブデはハルバードをビビットに向かって投げ、その顔を貫こうとする。
「あぶ!!」
武器を投げると言う予想外の攻撃に、ビビットは体制を崩してしまった。
その隙を、ブデは逃さない。
「ヤベッ」
「終わりだよ」
最速でビビットに近づくと、そのまま体重を生かしたタックルをビビットにかます。
ビビットもガードを試みたが、僅かにブデの方が早かった。
肋骨が全て折れたのではないかと思われるほどの衝撃がビビットを襲い、後ろに向かって吹き飛ぶ。
ブデは更にそこから、吹き飛ぶビビットに追いついてもう一度タックルを食らわせた。
「ごふっ........」
ビビットはブデとは違って、耐久力がそこまで高くない。
体重を生かしたブデの一撃に、耐えられるほどビビットは頑丈ではなかった。
壁に背中をうちつけ、気を失うビビット。
羊の執行猶予の発動を確認した学園長は、どっと魔力が持っていかれる感覚を味わいながら手を上げて勝者の名前を叫ぶ。
「そこまで!!勝者ブデ!!」
こうして、準々決勝第四試合、補習科同士の戦いは決着したのであった。




