本戦第一回戦第八試合ブデ
水龍殺しのビビットが勝ち上がり、次はブデの番となる。
観客達の熱気は相変わらずで、ビビットの水龍殺しを見てさらに盛りあがっていた。
「次はブデか。ハルバードを使うからかなりパワフルな戦いが見られるだろうな」
「補習科の中でも1番のパワーファイターだもんね。耐久力も高いし、攻撃力も高い。ゲームに居たら嫌われるタイプの戦闘スタイルだよ........まぁ、エレノラの方が火力が高いし近接も強いんだけどね........」
それを言ったらお終いである。
エレノラに関しては爆弾とか言うチートじみたアイテムで、全てを吹き飛ばすからな。
持続火力と瞬間火力。共に補習科の中ではエレノラが1番出るだろう。
しかも、それでいながら戦い方がいやらしく接近しても、エレノラは普通に近接戦も強いので中々倒れない。
あれ?エレノラってラスボスだっけ?
それでも、エレノラを除けばブデが1番の火力を出せる。たった一撃でオークを両断できるだけの力を持ち合わせたブデに、恐れるものは無いはずだ。
「いい感じにブデは化けたからな。ランニングをするだけでヒーヒー言ってたあの頃とは違うんだよ」
「1年前までは耐久力だけが取り柄だったからねぇ。そこに火力も加われば、面倒な相手になるよ。私達のように、一撃で山を破壊できるだけの火力があれば別かもしれないけど」
「それができるのがエレノラか........やっぱりアイツはこの世界のバグだな。俺達よりも狂ってる」
ブデの評価をすると、何故かエレノラのイカレ具合が露呈する。
おかしいんだよ。俺達相手にそれなりに戦えている時点で。
仮にも世界最強よ?それを相手に爆弾とか言う武器1つで渡り合えるエレノラは、やはりこの世界のバグだ。
その内、厄災級魔物相手すらも一撃で終わらせそうなとんでもない爆弾を開発しそうで怖い。
『さて、第1回戦もいよいよラストです!!第一回戦第8試合!!第二回戦にコマを進めるのはどちらなのか?!』
実況が観客を盛り上げると、その言葉に合わせてブデと対戦相手が闘技場に入ってくる。
ブデはハルバードを担ぎ、相手は槍を担いでいた。
槍というか、薙刀に近い武器だな。
『その槍は突くだけじゃない!!時として相手を切り裂き時として相手の攻撃を受け止める!!今日も赤き花が散る姿を見ることが出来るのか?!四年生応用科レッド!!』
名前の通り赤髪赤目の少年は、ブデを睨みつけて目を離さない。
確か、ブデを虐めていたやつの1人だったはずだ。
あの処刑待ちのベルルンの取り巻きとは別の奴で、この試合ばかりは負けられないのだろう。
残念ながら、天地がひっくり返ろうとも負ける未来しかないが。
『対するは、最後の絶望の出世壊し!!その体格からは想像もできないほど素早く動き、相手をねじふせる姿はまさしくオーガ!!予選では剣を持っていましたが、本戦にはハルバードを持ち込んでいます!!幼き鬼神が全てを壊すのか?!四年生補習科ブデ!!』
ブデはつまらなさそうに相手を見た後、こちらに向かって手を振る。
ブデの頭の中に、対戦相手であるレッドの事は全く無いようだ。
既に勝ちを確信しており、次のビビットとの戦いをどうするのかを考えている目である。
多分、一撃で試合が終わるな。
「それでは、試合開始!!」
学園長の合図とともに動き出したのはレッド。
彼は薙刀を横に大きく振りかぶりながら、ブデに向かって走っていく。
対するブデは、ハルバードを大きく上に構えると正面からそれを迎え撃った。
「あ、終わった」
「ブデの勝ちだねぇ」
どうやらレッド君はブデの攻撃を避ける気が無いらしく、正面から受け止めようとする。
しかし、それは悪手中の悪手だ。
補習科の生徒ですら、ブデの振り下ろしは避けるというのに、
ガギン!!
とハルバードと薙刀がぶつかり合う。
少しは拮抗するかと思われたが、想像以上にブデの一撃は重かった。
薙刀をへし折り、そのままの勢いでレッドの頭をかち割る。
学園長の異能があるから問題ないが、もし無ければ今頃レッドは真っ二つに割られていた事だろう。
ドゴォォォォン!!
地面までハルバードを振り下ろしたブデの一撃は、闘技場を陥没させる。
よく漫画でありがちな、地面を殴って地割れを起こすと言うのをリアルでやって見せたのだ。
あまりの衝撃に、観客席まで揺れが伝わってくる。
立ってみていた俺達は、僅かにふらついた。
「とんでもない一撃だな。俺と手合わせした時より重くなってんじゃないか?」
「あれを受け止めたら手が痺れそう。普通の人間が喰らえば、跡形もなく吹き飛ぶかもね」
想像以上の一撃を放ったブデに驚く俺と花音。
俺達ですら驚くのだから、何も知らない観客たちの驚きは相当なものだろう。
舞い上がった煙の中、静寂に包まれる会場。
煙が晴れると、そこには地面にひれ伏したレッドと既に帰ろうとしていたブデが居た。
「勝者!!ブデ!!」
学園長の勝利宣言に、ワッと盛り上がる観客席。ブデは、俺達の方に軽く手を振るとそのまま控えに戻って行った。
実にクールな去り方である。俺も大会とか出る機会があれば、あんな立ち去り方をするのもいいかもしれない。
『い、一撃で終わりましたね。凄まじい威力でした』
『あれを学生が行うと言うのが信じられん。とんでもない威力だ。毎年解説席に座らせてもらっているが、今年ほど面白い戦いはない。と言うか、何故彼らは補習科なんだ?応用科ですら足りない程優秀だろうに』
うんうん。分かってるじゃないか解説のおっさんよ。
補習科の生徒に限った話では無いが、人にはそれぞれ得意分野がある。
それを生かした戦い方を身につけつつ、必要最低限の基礎さえしっかりとできるようになればここまで強くなれるのだ。
エレノラのように大きく化ける者もいるが、順当に行けばビビットのような強さは手に入るのである。
やっぱり教える人が優秀だと生徒の成長も凄まじいな!!俺だけの功績では無いのはもちろんだが、それでも鼻が高くなってしまう。
「学校の先生は、この快感を味わうために教師をやっているのかもしれんな」
「部活とかはそうかもしれないねぇ。でも、それを自慢する嫌味ったらしい教師になるのはダメだよ?」
「分かってる。慢心は身を滅ぼすからな。生徒に口うるさく言っている事を教師ができていないなんてお笑いものだ」
俺はそう言いつつも、あの応用科と普通科のハゲ共は煽ってやろうと心に決める。
あの心の広いサラサ先生ですら、難色を示す相手なのだ。
少しぐらい煽っても怒られはしないだろう。大丈夫。学園長は俺たちの味方だ。
「これで全員第二回戦に出場決定だな。問題は、ビビットとブデ、どちらが準決勝にコマを進めるのかだが」
「こればかりは分からないねぇ。二人とも手の内は知り尽くしてるし、高度な読み合いが起きそうなのは分かるけど」
「どちらが先に相手の不意を付けるかの勝負になりそうだな」
俺はそう言いつつ、補習科の生徒同士の戦いを楽しみに待つのだった。




