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本戦第一回戦第三試合ミミル

 エレノラがシュルナを瞬殺し、静寂に包まれた第一試合。


 あまりにも一方的すぎる上に、相手に活躍をひとつもさせなかった第一試合とは裏腹に、第二試合はかなり盛り上がった。


 第一試合であんな悲惨な試合を見せられたと言うのもあるだろうが、それでも見ていて楽しい試合だった。


 お互いが死力を尽くし、最後まで勝利を掴み取ろうとする姿は学生ならではの輝きがある。


 「結構面白い試合だったな。お互いに実力が互角だからか、見ていて楽しかった」

 「そうだねぇ。強い弱いはさて置き、見ていて楽しい試合だったのは間違いないね。残念ながら、エレノラに一矢むくいる要素が一つも無かったけど」

 「それを言ったらおしまいだよ。第2回戦のオッズは低いだろうけどな」


 熱い戦いを見せてくれた2人の少年は、温かな拍手で称えられる。


 その後に起こるであろう一方的な戦いから目を背ければ、俺も拍手を送ってやりたい気分だった。


 「次はミミルか。本戦ではメリケンサックと本気の速さを使っていいって言ってるから、多分瞬殺で終わるな」

 「ミミルの速さに対応出来る程の生徒は補習科以外には居ないだろうからねぇ。補習科の生徒たちみたいに実力を隠していたのなら話は別だろうけど、見た感じそうでもなさそうだからミミルの勝ちは確定かな」

 「対戦相手が何秒耐えられるかの賭けをした方がまだ楽しいな。勝ちが確定している賭けはハラハラ感がない。まぁ、勝敗の分からない賭けは余程のことがなければしないんだけどさ」

 「朱那ちゃんとかはしそうだよねぇ。オッズの高いとこのにバカでかいお金を賭けそう」


 一応、今回も賭けは行っているが、補習科の実力が徐々に露呈してきたことでオッズは落ち着いている。


 それでも二倍ぐらいはオッズがあるので、当たればそこそこの金にはなった。


 黒百合さんとかかなりでかい金を賭けてるしな。エレノラが勝ったときは、静寂に包まれた会場の中で1人喜びを爆発させていたし。


 本格的にギャンブル狂いになるのは流石に困るので、程々にと釘をさしてはあるが心配である。


 アレだな。賭け麻雀でも今度やって、痛いめを見させてやるとしよう。


 デカピンやれば、アホみたいに黒百合さんが負けてくれるはずだ。


 同じ傭兵団から金をむしり取っている気がして嫌だが、黒百合さんがダメ人間になるよりかは行く分かマシである。


 「1000点1000円って、こっちの価格だとどのぐらいになるんだ?」

 「大体大銅貨1枚ってところだね。そう考えると、安いかも?」

 「........やる時は1000点銀貨1枚(日本円にして約1万円)でやるとしよう。それなら財布にダメージも行くだろ」

 「いいねぇ。悪い遊びを覚えた子供にお仕置ってね」


 そんなことを話していると、闘技場にミミルと対戦相手が入ってくる。


 ミミルは完全武装をしており、やる気満々だった。


『さぁ!!武道大会本戦第一回戦第三試合!!ここで出てくるのは絶望の出世壊し(ディストピア)が一角!!獣人特有の身体能力で全てを叩き潰してきたこの選手は、今日も出世街道を壊すのか?!補習科四年生ミミル!!』


 盛り上がる実況に合わせて、こちらに手を振るミミル。


 その目はやる気に満ち溢れ、僅かに殺気を纏っているのが分かった。


 やる気十分。多分、相手を瞬殺する気だ。


『対するは!!その槍で数多の敵をなぎ倒し、時として数多の敵を貫いたこの男!!今大会唯一の3年生、応用科ハリーズ!!』


 へぇ、3年生がこの大会の本戦に残っているとは珍しい。


 子供の1年というのは、かなり大きな差となるのだが、それをものともしないだけの実力があるのだろう。


 しかし、相手が悪すぎる。


 ミミルが相手となれば、その快進撃は幕を下ろすこととなるのだ。


 「ミミルはどう戦うのかね?」

 「んー、普通に殴りに行くんじゃない?それだけで勝てるし」

 「まぁ、そうだろうな。メリケンサックをしてるから一撃殴るだけで骨が折れるだろうし、なんなら槍を受け止める事だってできるから、正面から殴りに行くか」

 「それでは、試合開始!!」


 ミミルがどのように試合を畳むのかを話していると、学園長が試合開始の合図を行う。


 今日だけで10回近く異能を使っている学園長には、かなり疲れが見えていた。


 お疲れ様です。まだ後10試合以上あるんで、頑張ってください。


 試合開始の合図と共に先に動いたのはハリーズだ。


 その槍を構えて、ミミルに急速に接近すると鋭い突きを放つ。


 確かにその突きは三年生とは思えない速さをしていたが、ミミルにとっては欠伸が出る程にまで遅い一撃。


 ミミルは槍を紙一重で避けて懐に入ると、ハリーズの顎を的確に撃ち抜いた。


 あれは無理だな。脳を揺らされて立っていることすら困難である。


 膝から崩れ落ち、槍を落として地面に倒れるハリーズ。


 試合時間僅か5秒で、全てが決着してしまった。


 「そこまで!!勝者ミミル!!」


 あまりに早い攻防故に、目で終えていた観客が少なかったのだろう。


 エレノラの時よりはザワついていたが、歓声らしき歓声は起こらなかった。


『ぉぉっと!!決着?!あまりにも早すぎる決着です!!正直、私はハリーズ選手が付きを繰り出したところまでしか見えませんでした!! 』

『実に素晴らしいカウンターだ。私の目で追うのが精一杯だったが、ハリーズ選手の突きを紙一重で躱し、顎に一撃パンチを食らわせたようだな。無駄のない綺麗な一撃。あまりに鮮やか過ぎて、見とれてしまったよ』


 解説席の解説でようやく何が起きたのかを理解した観客達は今年の武道大会のレベルが高いという事にザワ付きを隠せないでいる。


 それにしても、あの解説はかなり目がいいな。目で追うのが精一杯とは言っているが、常人ならばそもそも目で追うのすら難しいだろうに。


 「最低でも金級冒険者ぐらいの実力がありそうだな。あの解説」

 「視野も広いし、結構強いだろうねぇ。ちゃんと解説してるし」


 第二試合の時は、試合中にしっかりと解説を入れて観客たちに何が起きているのかを短く分かりやすく説明していたしな。


 エレノラとミミルの試合はあまりにも早すぎる決着で、解説する暇もなかったが。


 「実況者殺しとか言われそう」

 「何も実況させて貰えないもんねぇ........でも、補習科の子達同士で戦えば、盛り上がると思うよ」

 「だな」


 俺は花音の言葉に頷くと、機嫌よくこちらに手を振るミミルに拍手を送るのだった。


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