初対面の人を信頼しろとか無理だよね
キレる花音を沈めたあと、俺達は寝てしまったダークエルフのシルフォードを拠点に運んだ。
宮殿内には風呂も常備されているので、気絶したままだが軽く汚れを落としてもらいった。もちろん、俺は参加していない。
服はアレで汚れているので、アンスールが趣味で作っていた服を借りて着替えさせ、ベッドに寝かせる。
泣き疲れたのもあるだろうが、元々結構体力を消耗してたっぽいな。
よく見ると、所々に怪我をした後がある。悪魔が故郷を焼いただのなんだの言ってたな。
「悪魔ねぇ......」
シルフォードが目覚めるのを待つ間俺は、神聖皇国の書庫で読んだ悪魔についての記述を思い出していた。
72柱の悪魔。大魔王アザトースが作り出した眷属であり、未だに世界の裏で蠢くこの世界の敵である。
72柱と言われている通り、72体の悪魔が存在するらしく、そのうち確認されているのは38体だ。
討伐されているのは5体で、その悪魔達は死ぬと塵のように消えてしまう為、死体は無い。
なぜ38体しか確認されていないのに72柱の悪魔と言われているかと言うと、悪魔にはそれぞれに与えられた数があり、確認された中で1番大きい数が72の為、72体いるのでは?と考えられているからだ。
もしかしたら、100体以上いるかもしれないし、72体よりも少ないかもしれないな。
悪魔の強さとしては、その全てが最上級魔物以上の強さを持っている。中には厄災級並に強い悪魔もいるそうだ。
下手したら、俺達より戦力ありそうだよな。揺レ動ク者のメンバーは、厄災級の中でもかなり上位に位置する者達だが、少数だ。厄災級という分類だけで見れば、向こうの方が数は多いだろう。
「この後どうするの?」
シルフォードが目覚めるのを待つ俺の隣で、大人しく座っている花音が話しかけてくる。
先程まで、小指を折ろうとしていた少女とは思えない落ち着きようだ。ガラリと性格変わりすぎでしょ。
「どうするもこうするも、とりあえずは話を聞かないとなんとも言えないな。少なくとも、悪魔関連の話なんだ。俺たちにも関係がないとは言えない」
「悪魔って大魔王の眷属だよね?」
「あぁ、俺達が戦争を起こす前に何とかしなくちゃいけない相手だ。最悪の場合は揺レ動ク者を動かすが、出来ればやりたくないな」
復讐を始める前に、大魔王にこの世界を支配されたら意味が無い。俺達だけではどうしようもない時は、揺レ動ク者を動かすつもりだが、それをやると正教会国側に俺達の存在を知らせることになる。出来ればそれはやりたくない。
「悪魔も大魔王も、光司君と朱那ちゃんが何とかしてくれるでしょきっと」
「龍二は?」
「龍二はアイリスちゃんと宜しくやってそうだから、死ね」
辛辣すぎませんかねぇ。龍二は今頃何をしているのだろうか。アイリス団長と宜しくやってんのか?今度、情報収集がてらちょっと様子を見に行ってもいいかもな。
そんな事を考えながら花音と話していると、シルフォードがようやく目を覚ます。
「ん......んん........」
仮面は......もういいや面倒だし。
目を覚ましたシルフォードは、自分が先程までいた場所とは違う場所にいると気づき、俺に質問をしてくる。
仮面を被ってないからか?それとも寝起きだからか、初対面の時よりも警戒心がかなり薄れている。薄れているだけで、警戒はしているが。
「ここは.....どこ?」
「ここは俺達の拠点だ。覚えているか?俺達に捕まったのを」
「覚えてる。仮面を被った奴がいた。その中身が貴方達?」
「あぁ、そうだ。色々と聞きたいことがある。質問させてもらうぞ」
「えぇ」
先程と変わって、随分と大人しいな。逃げれないと悟ったのか、それとも隣でほんの少しだけ殺気が漏れている花音が怖いのか分からないが、素直に話してくれるのであれば、俺も楽だしいいか。
「改めて自己紹介からしようか。傭兵団の団長をやってるジンだ。宜しく」
「シルフォード。宜しく」
俺の差し出した右手を、しっかりと握り返す。
「それで、なぜシルフォードはこの森に来たんだ?ここら周辺にダークエルフの集落とかはなかったはずだが........」
俺の質問に、シルフォードはポツポツと語り始めた。
「集落はもっと遠くにある。悪魔が来て集落にいた仲間たちはほぼ全滅。私と2人の妹は運良く逃げ出した。そこから何ヶ月も人の目を避けながらここに来た」
「そしたら俺達に見つかったと?」
シルフォードはこくりと頷く。とりあえずその妹達も保護するか?先程からシルフォードの意識が外に向いているのは、それが原因だろうしな。
「もう少し詳しく聞きたいが、まずはその妹2人の保護をしよう。場所は?」
「.........ここから北に行ったことろにある小さな洞窟」
あぁ、あそこか。確か近くに川も流れてて、サバイバルするにはもってこいの立地だったはずだ。少し遠いが、日が沈む前に行って帰って来れるだろう。
「なぜ殺さない?」
シルフォードの妹達を迎えに行こうと、椅子から立ち上がると、シルフォードが若干こちらを睨み付けながらそう言ってくる。
何言ってるのこの子。俺達がシルフォードを殺す理由はないじゃん。あ、もしかして、どっかの誰かさんがキレて殺そうとしてたのを言ってる?
「私はダークエルフ。かつて女神を裏切り、大魔王に寝返った存在。人間からしたら私達を殺したいはず」
別に花音のことについて言っている訳ではなく、今の俺の対応に疑問を持っているようだ。
俺は異世界人だから、別にダークエルフと聞いても「へーそうなんだ」しか思わないが、やはりこの世界の住人にとっては人類の裏切り者へのヘイトは高いのだろう。
それが例え、裏切った者達の子孫だとしても。
「生憎、俺達の傭兵団は問題児ばかりでな。お前程度なんとも思わん。それに、ちょっと人手が足りないから恩を売っとけばウチで働いてくれるかなって。シルフォード、共通語は読める?」
「読める」
「妹達も?」
「読める」
よっしゃ。なら情報精査の仕事やってもらおう。もう勝手にメンバーに入いることになっているけれども、俺達の拠点を知った時点で決定事項だ。
それにシルフォードもワケありみたいだし、お互いwin-winの関係を築けるだろう。
シルフォードの妹達を迎えに行きたいのだが、まだ警戒されてるっぽいんだよな。素直に質問には答えてくれているが、どこか疑っているように感じる。
まぁ、初対面の人間を信頼しろと言うのが無理な話か。それに、相手はダークエルフを魔物として狩る人間だもんな。
ところで今思ったのだが、シルフォードとその妹達をメンバーに加えると、ますます魔物率増えることね?
見た目だけなら肌の濃い人間だが、この世界では魔物に分類されてるし。吸血鬼と同じ扱いなのだろう。
俺は人間が欲しいと思う反面、もういっその事突っ切った方がいいのでは?とくだらない事を考えながら、宮殿を出ていくのだった。




