予選決勝ブデ
エレノラに続き、ライジンも無事に本戦にコマを進めることが出来た。
相手に何もさせずに圧勝したライジンは、対戦相手と一緒に闘技場から消えていく。
割れんばかりの拍手が会場に響き渡った後、次の選手達が闘技場へと入ってきた。
「次はブデの番だな。相手はあの馬鹿が相手だ」
「因縁の対決だねぇ。ブデが万が一にも負けてら、死ぬほど皆から怒られそう」
「怒りますよ。と言うか、私がブデをシバキ回ます」
俺たちの会話に後ろから入ってきたのはエレノラだ。
ライジンの時は大人しく応援していたのに対し、ブデと対戦相手であるベルルンが出てくると僅かに殺気立つ。
相当怒ってるな。やはり、日頃からの鬱憤が溜まっているのだろう。
「本当は、わたしが処刑したいぐらいです。私があの場に居たら、先生の言いつけを守らずに爆弾を使って全身を粉々にしてますね」
「全身粉々って、殺してるじゃねぇか。ダメだぞ?流石に」
「大丈夫です。死なない程度に殺すので」
それ、絶対手が滑って殺すやつ。
良かった。エレノラがベルルンの馬鹿と戦うような組み合わせにならなくて。
エレノラと戦うことがあったら、まず間違いなくベルルンは死んでエレノラは失格になっていた事だろう。
エレノラは、自分が失格になるとか一切考えずに目の前の相手を殺すと言う確信があった。
「ブデなら殺すことは無いから安心出来るな。そこら辺はわきまえてるだろうし」
「まぁ、死ぬより痛い目を見るだろうけどねぇ。この戦いが終わったあとも」
普通に犯罪者であるベルルンは、この試合で負けてしまえばその後は無い。
既に何度も何度も暗殺者やらを送り込んできたり、嫌がらせを行ってきているのだ。
その証拠は全て集めており、あの元老院のクソジジィすらも動かしている。
この国の実質的最高権力者が動くとなれば、例え犯罪を一切してなくとも犯罪者としてその首を撥ねることが出来るだろう。
唯一出来ない存在は、俺達ぐらいだ。
ベルルンがどのような結果を出そうと、彼は既に詰んでいる。ウチの可愛いイスと、一番弟子のリーゼン相手に喧嘩を売ったのが間違いだ。
次いでに、イスをブチ切れさせたあの馬鹿お嬢様もこの世から去る事になる。あっちに至っては、親に関しても情状酌量の余地は無いので家族諸共豚箱にぶち込まれることだろう。
今夜が楽しみだな。
「ブデもやる気満々だねぇ。初戦の時より怒ってるよ」
「何か言いあってるな。あ、馬鹿がキレた」
「お顔真っ赤だねぇ。茹でダコみたい」
どうやら、前哨戦はブデの勝ちのようで、ベルルンは歯ぎしりをしながら剣を構える。
この大勢の観客達の前で、盛大な恥をかく準備が出来たようだ。
対するブデは、腰に下げた剣を抜くどころか、鞘ごと外して場外に投げ捨てる。
ブデの奴、ベルルンに赤っ恥をかかせるために武器を一切使わない気だ。
それでも余裕で勝てると思うが。
「これより、予選決勝戦、補習科ブデ対応用科ベルルンの試合を始める!!」
会場の熱気がピークに差し掛かったのを見計らって、審判は試合開始の合図を始める。
ブデは余裕そうに拳をペキペキとならし、ベルルンは顔に血管を浮かび上がらせながらその剣を強く握る。
「それでは、試合開始!!」
審判が手を振り下ろすと同時に、ベルルンが動き出した。
恐らく“死ねぇぇぇ!!”と叫びながら、剣の間合いまで素早く近づく。
確かにほかの応用科の生徒よりも動きは早い。しかし、この程度の速さはブデにとって欠伸が出るほど遅かった。
振り下ろされる剣。ブデは、避ける素振りも見せることなく、振り下ろされた剣先を軽く摘む。
「うわ、仁がよくやってた奴じゃん。ブデも真似してるよ」
「おお、やっぱりカッコイイな」
「アレやられると結構メンタルに来るんですよね........こっちは本気でやってるのに、退屈そうに剣を摘まれた人の気持ちとか考えたことあるんですか?先生」
「摘まれる方が悪い」
「そういうと思いました」
期待通りの返答が来て、小さくため息を着くエレノラ。
摘まれる方が悪いと思うんだ。戦いにおいては、強い奴が偉くて弱いやつが悪いのである。
ベルルンの剣先を摘んで攻撃を受け止めたブデは、そのまま隙だらけのベルルンに追撃をすることなくベルルンを押し返す。
まさか剣を摘まれると思ってなかったベルルンは、驚きが隠せずその場で止まってしまった。
「そりゃ、格下だと思ってた相手に舐めプを噛まされたら驚くわな。この時点で勝敗は決したも同然だけど」
「もう勝ち目はないねぇ。後はこの舞台でどれだけ恥を晒せるかだよ」
ブデが止まったベルルンに対して“かかってこい”とジェスチャーを送る。
明らかに舐められたベルルンは、再び顔を真っ赤にすると馬鹿の一つ覚えのように剣を振りまくった。
が、ブデからすれば何度攻撃されようが意味は無い。
簡単に剣の軌道を読んで、剣を軽く摘み防いでいく。
最初はブデの対応に盛り上がっていた観客達だったが、次第に同じ絵面を繰り返されるこの状況に飽き始めていた。
「なぁ、いつまでこれが続くんだ?」
「あの剣を振ってるやつ弱すぎだろ。明らかに実力差があるじゃないか」
「ベルルンって言えば、あのベルン商会の息子だよな?」
「そうだな........もしかして金で買収してたんじゃないか?じゃなきゃここまで簡単にあしらわれないだろ」
「うっわ。試合を金で買うのか。やっぱり商人の息子は金で物事を解決するんだな。羨ましいぜ。無駄な事に使える金が沢山あって」
「応用科ってのも、本当は家の権力にもの言わせたんじゃないか?アイツこそ補習科に行くべきだろ」
あまりに圧倒的な実力差が徐々に観客達に不信感を抱き始める。
ブデのヤツ。まさかこれを狙ってやってた訳じゃないよな?
観客を味方につけ、プライドの高いベルルンのプライドをへし折る。
実に効果的なやり方だ。
俺がベルルンの立場だったら泣くかもしれん。
「流石に狙ってはないよな?」
「多分ね。まぁ、ベルルンが雑魚ですよって観客に伝えようとはしてたかもしれないけど、ここまでブーイングが出てくるとは流石のブデも思ってないと思うよ。その証拠に、ブデも少し戸惑ってる」
確かにブデをよく見ると、ベルルンの剣を摘みながら観客たちのブーイングに驚いでいる。
良かった。ここまで腹黒いのかと一瞬焦ってしまった。
意図せずやっている時点でかなりのものだが。
ブーイングはもちろんベルルンの元にも届き、彼の怒りは更に上がっていく。
が、怒りに身を任せて振るう剣は更に遅くなり、ブデは欠伸を噛み殺しながら剣を摘み続けた。
それから15分後、ガス欠となり動くことすら厳しくなったベルルンが剣を落とす。
全力で剣を振り続けた為に、剣を持つ握力すらも残ってなかった。
そして、ようやくブデはここで攻勢に出る。
本当なら、両足ぐらいへし折るつもりだっただろう。
しかし、観客の容赦ないブーイングを浴びすぎたベルルンの心はバキバキにへし折れ地に落ちていた。
だって途中から“帰れ!!帰れ!!”と帰れコールが始まってたぐらいだからな。
俺なら嬉々として殴り飛ばすが、心優しいブデはそこまで非情では無い。
ブデはもはや動くことすらできなくなったベルルンの腕を掴むと、思いっ切り場外に放り投げる。
受け身すら取れず背中に土を付けたベルルンの顔は、色んな感情がごちゃ混ぜになったなんとも言えない顔だった。
「そこまで!!勝者、補習科ブデ!!」
悪を倒した正義のヒーローを褒め称えるかのように、今までで1番大きな歓声が湧き上がる。
ブデもベルルンを思惑とは違うとは言え、ボコボコにできてスッキリしたのかその顔は晴れやかだった。




