予選決勝ライジン
エレノラが本戦出場を決め、1つ試合を挟んだ後ライジンの番が回ってくる。
ライジンはあまりメンタルが強い子では無いが、この大会でそのメルタルの弱さを克服しつつあった。
自分の強さというのが、メルタルを大きく支えているのだろう。
実際、少しづつ強くなっていくと同時にライジンの目線は前を向き始めている。
強さとしての成長面では、エレノラやブデよりも劣るものの精神面では1番大きく成長した子だ。
逆に、エレノラはこれっぽっちも精神面は強くなっていない。あの子の場合は最初から精神力がカンストしてる。
「次はライジンか。相手は風魔法を使う魔導師だったか?」
「だね。ライジンは魔導師とよく当たるね。この5回の戦いの中で四回は魔導師と戦ってるよ」
「ライジンも魔法を使うけど、今回は禁止してるからな。ヤバかったら使ってもいいとは言ってるけど、使う気配がなかったし」
「それだけ強くなってるってことだよ。昔のライジンなら、ビビって魔法を使ってたと思うね」
だろうな。
ライジンの魔法は少し特殊で、火、水、風、土、光、闇、無の属性に当てはまっていない。
ライジンの魔法は雷。一応、風魔法に分類されてはいるが風魔法を一切使えないので雷魔法という方が正しいだろう。
初めてライジンど戦った時は、この雷魔法を使ってすばしっこく逃げ続けていたのを覚えている。
某狩人×狩人に出てくる実家が暗殺一家の少年の様に、全身に雷を纏わせて高速で動くのだ。
ちなみに、かなり速い動きをしていたのだが持ち前の心の弱さが足を引っ張り、いたずらに体力を減らし続け、最終的にガス欠で倒れてしまった。
今のライジンからは考えられないが、一年ほど前は本当に弱かったのである。
尚、足の速さだけで言えば実はミミルの方が速い。
ウサギの獣人ってすげー。
「お、ライジンが入ってきたな。耳がぺたんとなってるのは多分観客が煩過ぎるからか」
「少なくともビビってはないね。まぁ、私達の殺気にもちゃんと耐えた子がこの程度でビビるわけないんだけど」
犬の耳をペタンと閉じ、闘技場に入ってきたライジンは俺達を見つけると手を振る。
またもやサラサ先生が、アイドルオタクに負けず劣らずの黄色い声援を発して興奮していた。
サラサ先生、喉大丈夫か?第一回戦から割とそんな感じで騒いでたでしょ。
俺は、明日のサラサ先生がガラガラ声で来るんじゃないかと心配しつつ、舞台に目を向ける。
相手は風魔法使いの女の子。自分を浮かせて相手の攻撃が届かない位置から一方的に魔法を降らせると言う、対処法を持ってないとクソゲー確定な戦い方をする子だ。
その戦い方が間違ってる訳では無いし、基本的に戦闘においては高所が有利。だが、見ている観客としてはあまり楽しくないのだろう。
前の試合ではあまり盛り上がっていなかった。
「ライジンはどう戦うのかね。“対策は考えてます”って言ってたけど」
「幾つか考えつくけど、やっぱり初手で決めに行くんじゃない?飛ばれる前に捕まえればいいだけだしね」
「やっぱり?ライジン、普通に足が速いから相手が動く前に捕まえれそうだしな」
そんなことを話していると、審判が手を振り上げる。
それと同時に会場は静まり返った。
「これより、予選決勝戦応用科フライ対補習科ライジンの試合を始める!!それでは、試合開始!!」
審判が手を振り下ろしたと同時に両者ともに動き始める。
フライは素早く魔法を発動して空中に逃げようとし、ライジンは空に飛ばれるのを阻止しようと走り始めた。
「捕まったな。ライジンの方が速い」
「ビビットならライジンの接近に対応しながら空を飛べるんだろうけどね。あの子、近接はあまり得意じゃないみたい。ライジンが速すぎて焦ってるよ」
ライジンはフライが空に逃げる前に捕まえると、そのまま腹に一撃拳を突き出す。
が、フライはこれに何とか対応した。
避けることは出来なかったが、持っていた杖でライジンの拳をガードしたのである。
へぇ、火事場の馬鹿力と言うべきか。明らかに実力以上の力が出てたな。
しかし、ガードしたとは言ってもその威力を受け流せた訳では無い。
重い拳はフライを吹き飛ばし、彼女はバランスを崩して舞台を転がった。
「いい反応してるな。後は受け流す技術があれば完璧だった」
「んー、ライジンの勝ちかな。近接戦闘じゃ、ライジンの方が圧倒的に有利だし」
急いで立ち上がり、追撃を仕掛けてくるライジンに魔法を放つ。
即座に撃てる魔法を使ったみたいだが、魔力の練り上げが足らず完全無詠唱の魔法なんぞライジンに効くわけも無い。
ライジンは目に見えずらい風魔法を避けることもせず、真っ直ぐ突き進むと再びフライを掌底で殴りつけた。
フライはこれも気合いでガード。
中々根性が入ってるな。あの子。先程の反省を活かして、後ろに体を引きながらガードしている。
恐らく、かなり戦闘センスが高いのだろう。
しっかりと鍛えれば、近接戦闘もこなせる万能魔導師になれたかもしれない。
が、ライジンも馬鹿ではない。
ライジンは放った掌底を更に押し込むと、体重が後ろ向きになっていたフライを思いっきり吹き飛ばす。
腕を伸ばしきってから更に一撃を加えるとある武術の技だ。
俺が教えたことをしっかりと使っていることに軽い感動を覚えつつ、吹き飛んだフライの行く末を見る。
予選のルールは戦闘不能になるか場外に出るか勝敗が決まる。
ライジンは、2つある勝ち筋の内後者を選んだ様だ。
吹き飛ばされたフライは、二度襲ってきた衝撃で身体が痺れて魔法が上手く使えない。
訓練すれば簡単に使えるようになるが、彼女はその訓練が足りていなかった。
魔法が使えず、身体が完全に浮き上がった状態では自分を止めるすべはない。
フライはそのまま場外まで放り出されると、観客席の壁に背中を打ち付けてようやく止まった。
「そこまで!!勝者補習科ライジン!!」
ライジンの勝利を告げる審判。
会場はドット湧き上がり、エレノアの時の様に耳を塞ぎたくなるほどの歓声が聞こえる。
「お、吹き飛ばした子を心配してライジンが駆け寄ってるな」
「やっぱりライジンはいい子だねぇ。エレノラだったらそのまま帰ってたよ」
「おいおいエレノラとは言え、相手にリスペクトがあれば挨拶ぐらいするだろ。多分」
「多分って言ってる時点でダメなんだよなぁ」
あの爆破以外に興味のない子が相手をリスペクトする?そんなのあるわけないじゃないですか。
教師である俺達や仲間の補習科の皆ならともかく、応用科や普通科の生徒をエレノラがリスペクトする姿が想像できない。
だってあの子、教師すら爆破の実験相手として見てる節があるからな。なるなら補習科のみんなも。
やはり、エレノラには道徳をしっかりと学ばせようと再び心に決めると、俺は心優しいライジンに拍手を送るのだった。




