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予選決勝エレノラ

 昼休憩も終わり、準決勝から始まった武道大会。


 補習科の生徒達は準決勝も危なげなく勝ち上がり、本戦に出れるまで残り一勝となった。


 ここまで来ると補習科だからと言って侮る様な人は殆どおらず、賭けの倍率も2~3倍にまで落ち着いている。


 むしろ、対戦相手の方が倍率が高かった時もあったぐらいだ。


 「決勝戦は同時にやらないんだな」

 「今日1番の見せ場だからねぇ。みんな見たいんでしょ。時間もまだあるし」

 「私達としては、一人一人応援できて有難いよね。最初はエレノラちゃんからだっけ?」

 「そうだ。あの倫理観の薄い爆弾魔からだ。相手は応用科の双剣使いでかなり強いらしいが、エレノラが余裕で勝つだろうな。前の試合を見た感じ、エレノラには遠く及ばない」

 「隠し球とか持ってれば別かも?まぁ、エレノラも隠し球を持ってるけどね」


 隠し球って言うか、隠し爆弾だけどね。


 補習科の生徒たちは、俺の助言通りこの予選で本気を1回も出していない。


 しかも、ちゃんと次の試合のことも考えて体力管理もしっかりとしていた。


 元々基礎をやり続けてきた子達だ。体力に関しては、かなりのものである。


 俺は今か今かと決勝戦を楽しみに待つ観客達の熱気を感じながら、エレノラが舞台に上がってくるのを待つ。


 「エレノラは特に手を抜いてるよねぇ。仕込みナイフも使ってないし」

 「使うと相手を殺しそうなんだろ。同じ補習科の連中は対応できるけど、不意打ちのナイフって意外と反応できないからな。あと単純にエレノラは体術が強いってのもあるけど」

 「離れてると爆弾で吹っ飛ばされて、近づけば体術を織り交ぜながら爆弾で吹っ飛ばされる。クソゲーかな?」

 「実際、かなりクソゲーだな。エレノラは逃げるのも上手いし、爆弾の仕込み方が絶妙だ。俺たちでもいつ仕掛けたか分からん時があるからな」

 「爆弾のことしか考えてない割に、戦闘IQも結構高いんだよねぇ。今回は爆弾を使わないだろうけど」


 そんなことを話していると、エレノラと対戦相手が闘技場に入ってくる。


 ワッと湧き上がる歓声。会場を揺らすほど大きな歓声が響き渡り、この武道大会1日目の中で最大の盛り上がりを見せる。


 やはり決勝戦と言うのは、それだけ盛り上がれるものなのだろう。


 俺の前でエレノラを応援するサラサ先生なんかは、喉がはち切れんばかりに声を張り上げていた。


 その声に気づいたのか、エレノラはこちらを見ると軽く手を振る。


 サラサ先生は、アイドルに向かって手を振るオタクに負けず劣らずの黄色い声を上げながら大きく手を振った。


 「サラサ先生、すげぇ楽しそうだな」

 「自分の教え子が初めて大会に出てるからね。この5年間、ずっと生徒達に日の目を浴びせてあげられなかった分、ここで爆発してるんじゃない?」


 なるほど、それはありそうだ。


 俺達は1年程しか生徒たちを教えてないが、それでもかなりの思い入れがある。


 俺たちですらそうなのだから、四年間ずっと補習科の生徒達を見てきたサラサ先生が生徒達にかける思いは相当なものだろう。


 だからといって、貯金を全額賭けるのはどうかと思うが。


 「これより、予選決勝戦第1試合、補習科エレノラ対応用科デュアルの試合を始める!!」


 湧き上がる歓声の中、審判が手を挙げる。


 俺は心の中で“頑張れ”と応援しつつも、“やりすぎるなよ”と心配していた。


 「それでは、試合開始!!」


 審判の手が振り下げられたと同時に動き出したのは、エレノラだった。


 ゆらりと身体を落としたかと思えば、一瞬でも相手に肉薄している。


 対戦相手であるデュアル君は、エレノラの接近に対して僅かに遅れながらも剣を突き出すが、そんな遅い突きではエレノラを捉えることなどできやしない。


 エレノラは突き出された剣を少しだけ横にずれて避けると、ガラ空きの腹に向かって拳を突き出した。


 歓声が大きすぎて聞こえないが、恐らく人の腹を殴ったとは思えない音が鳴っているはずだ。


 アッパ気味に繰り出されたエレノラの拳が、デュアルの鳩尾を正確に捉えて足を浮かせる。


 「仕込みナイフを使ってたら今ので終わってたな」

 「試合が終わるって言うか、生命活動そのものが終わりそうな勢いだけどね。ナイフを使ってたらお腹にトンネルができてたと思うよ」


 そりゃ、仕込みナイフを使わない訳だ。


 使う必要がない上に、使えば相手を殺して反則負けになるんだから。


 相手の腹に拳をねじ込んだエレノラは、浮き上がった相手の顎に向かって膝蹴りを叩き込む。


 体がくの字に曲がっていたデュアルの体は、背筋がしっかりと伸びた状態になった。


 この時点でエレノラの勝ちだろう。人間の急所たる鳩尾に一撃、更に顎を砕く勢いで一撃食らわせているのだから。


 デュアルの意識はもう既にくらくなりかけている。


 が、エレノラは容赦がなかった。


 背筋を伸ばし天を向いたデュアルの脇腹に向かって、エレノラは後ろ回し蹴りを叩き込む。


 人間が曲がっては行けない方向で体がくの字に曲がり、舞台を転がりながら地面にひれ伏す。


 ピクリとも動かなくなったデュアル君と、観客達。


 静かな時が流れる中で、審判が手を挙げてエレノラの勝利を宣言した。


 「そこまで!!勝者、補習科エレノラ!!」


 ドッと湧き上がる観客達。サラサ先生もエレノラを応援する後輩達も、エレノラが本戦出場を決めておお喜びする。


 うん。まぁ、それはいいのだが........


 アレ大丈夫か?多分肋骨の数本がへし折れてるぞ。


 「ちょっとやり過ぎかな?最後の一撃は絶対余計だったよね」


 花音も同じことを思ったようで、担架で運ばれるデュアルの方を見ている。


 死にはしないだろうし、この世界には治癒系の魔法や異能も存在している。後遺症も残らないだろうが、痛みは覚えるのだ。


 これを克服できるかどうかは、本人次第だろう。


 「だろうな。試合前に何か言われてたのかもしれん。エレノラ、ちょっとスッキリした顔してたし」

 「あぁ、それはありそうかも。補習科ってだけでいつも何か言われてるもんね。エレノラは意外と友達思いだから、そこら辺で少し怒ってたのかも」

 「意外とは余計だろ。普通にいい子だろ?」

 「運動場の壁を何度も爆破してぶっ壊しても?」

 「........問題児なのと、性格が優しいはまた別の話だから」


 エレノラ、爆発させることに快楽を見いだして手当り次第爆破させる癖がなければ、かなりいい子なのになぁ。


 爆弾つくって爆破させる事のインパクトが強すぎて、どうしても頭のおかしい子と言う評価になってしまう。


 もう少し........こう、お淑やかさを身につけて欲しいものだ。


 「何がともあれ、これで本戦出場が決まったな。明日が楽しみだ」

 「明日はエレノラも爆弾を使うだろうからね。歓声以上に大きい爆発音がいっぱい聞けるよ。しかも、本戦は学園長が頑張ってくれるから威力が強い爆弾も使うかもよ?」

 「........観客席まで爆破しないことを祈るか」


 俺はそう言いつつ、次気出てくるライジンの試合までのんびりと過ごすのだった。

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