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昼休憩

 第一回戦を突破した四年生達は、その後も順調に勝ち進めた。


 第二回戦、第3回戦も危なげなく勝った生徒達。


 これが応用科や普通科ならばさほど驚かれないが、落ちこぼれと言われる補習科がここまで勝ち進めば話題となる。


 今や、補習科の生徒達はこの大会の主役となっていた。


 「聞いたか?補習科の生徒達がなんて呼ばれてるか」

 「絶望の出世壊し(ディストピア)だね。この大会の結果次第では今後の就職先が決まることも多いから、その未来をぶち壊す皆をそう呼んでるんだっけ?」

 「そうだ。中々いいネーミングセンスだよな。厨二病っぽくて俺は好きだ」

 「かっこいいよね。ただの“絶望”じゃなくて、“絶望の出世壊し”ってところが」

 「私には分からない感性だねー。まぁ、かなり恐れられてることだけはよく分かるけど」


 武道大会1日目の昼休憩。


 俺達は生徒を連れてリーゼンの経営している飲食店、“荒野の湖”に来ていた。


 休憩時間は2時間程。どこで昼飯を食べようかと考えている時に、丁度イスたちに出会ったのだ。


 イス達が“荒野の湖”で昼食を食べると言うので、俺達もそれに便乗させてもらった形である。


 やっぱり持つべきは権力者の友人よ。こういうところで融通が効くのは、権力者の特権だ。


 この店のオーナーともなれば尚更。


 「遠慮せずにしっかり食えよ。今日は死ぬほど儲けてるから金の心配なんてしなくていいから」

 「はい........ところで先生。僕達に賭けてたんでふか?」

 「めっちゃ賭けた。あまり賭け過ぎると倍率が落ちるから、金貨1枚とかしかかけてないけど、それでも死ぬほど儲けたぞ。一回戦は特に凄かったな。エレノラなんて倍率67倍だ」

 「うへぇ、金貨1枚賭けたら67枚帰ってくるんですか。普通に働くのが馬鹿らしくなりますね」

 「全くだ。第一回戦だけで金貨200枚近く稼げたからな。賭博はサイコーだぜ」

 「仮にも生徒に賭博を進めようとする辺り、先生は頭が狂ってますよ。いいんですか?自分の教え子が借金まみれのギャンブル中毒になっても」


 かなりの金額を儲けてウハウハ俺にジト目を向けるエレノラ。


 大丈夫大丈夫。そもそも君達ギャンブルやるような性格じゃないでしょ。


 ブデは真面目だし、ミミルやビビットは得よりも損で考える人間だ。ライジンはこういう賭け事は怖くて出来ないタイプだし、エレノラは爆弾以外に興味が無い。


 ね?誰もギャンブルに手を出さないでしょ?


 むしろ、俺は黒百合さんの方が心配である。


 補習科の生徒達の倍率がかなり高かったので、同じように金貨を賭けていた黒百合さんもタコ勝ちしている。


 これで勝利の味を覚え、ギャンブルにのめり込んでしまうと抜け出せなくなってしまう。


 俺や花音は基本ギャンブルは勝てない物と知っているし、どこぞのイカサマ婆さんに色々と仕込まれているのでのめり込むことはまず無い。


 が、今まで真面目に生きてきた反面、この世界ではだいぶはっちゃけている黒百合さんは悪い方向に転がる可能性が高かった。


 頼むからギャンブル中毒者になるんじゃないぞ。いやホントに。


 俺が黒百合さんの心配をしていると、ビビットがニコニコのサラサ先生に話しかける。


 「サラサ先生も賭けたんですか?」

 「もちろん!!この日のために貯金を全部もってきたよ。そして、全額賭けたわ!」

 「........それ、僕達が負けたらヤバいやつなんじゃ」

 「大丈夫。みんな強くなったんだし、負けるとは思ってないから」

 「いや、そう言う問題じゃなくて........」


 貯金のほぼ全てを賭けた事に軽く引くビビット。


 ビビットは得よりも損で考える人間の為、サラサ先生の行動が理解できないんだろうな。


 もし負けたらと考えてしまう時点で、君はギャンブルに向いてないよ。


 まぁ、俺も軽く引いたが。


 俺の場合は万が一外れたとしても、まだまだ沢山の金がある。しかし、サラサ先生は貯金全てを賭けているのだ。


 結構真面目に働いてきているサラサ先生の貯金額はかなりのもので、大金貨をポンとエレノラに賭けて居たな。


 それが67倍になって帰っくるのだから、サラサ先生もウハウハだろう。


 というか、サラサ先生が大金貨を賭け、俺や黒百合さんが金貨を賭けても倍率が67倍ってヤバくね?


 何人が賭けたのかは知らないが、少なくとも67倍になって帰ってくるだけの金が賭けられていたという事だ。


 もしかしたら、俺達以上の富豪がとんでもない金額を賭けていたのかもしれないな。


 俺は見ず知らずの富豪に感謝しつつ、やってきた料理に手をつける。


 実は、この店で料理を食べるのは初めてだったりする。


 行こう行こうとは思っていたのだが、俺も花音も行列に並ぶことが好きでは無い人間なので後回しにされてきたのだ。


 昔、某夢の国に行った時も、並ぶのが嫌すぎてアトラクションに1個も乗らずに帰ってきたしな。なんなら、買い物もしてない。


 龍二が“何しに行ったんだよ”と呆れ果てていたが、全くもってその通りである。


 「美味いな。流石はリーゼンの経営する店だ」

 「でしょ?元宮廷料理人がつくる自信作よ。先生の口に会ったようで良かったわ」

 「イスが絶賛してたのもわかるな。特に、肉の焼き加減が絶妙だ」

 「一つ一つ丁寧に焼いてるからね。それでいながらなるべく早く提供できるようにするのは大変だったのよ?その為に態々肉を焼く専用の調理台を用意したぐらいだし」

 「凄いな。いやほんと。5年前の話だろ?」

 「そうね。あの頃は手探り状態で大変だったわ。喧嘩も良くしたしね」


 いやほんとすげぇわ。このお嬢様。


 5年前と言えば7歳ぐらいだろ?7歳の少女が、店を立てて経営を始めるとか行動力が半端じゃない。


 俺が7歳の時は、某遊戯な王様のカードで青眼青龍をアドバンス召喚して遊んでたぞ。


 懐かしいな。あの頃は強いカードを入れとけば勝てると思ってたよ。攻守0のモンスターとか雑魚だと思ってたし、最強サイクロンを使っていた。


 ルールが難しすぎるんよ。コンマイ語は今後も理解できる気がしない。


 「リーゼンは凄いな。昔の自分を思い出して嫌になるよ」

 「そういえば、先生が子供の頃の話を聞いたこと無かったわね。聞いても大丈夫かしら?」

 「んー、少しぐらいは」


 リーゼンには俺が異世界からの来訪者というのを伝えていない。


 話しても問題ない範囲で少し話してあげるか。もしボロが出そうなら花音が止めてくれるはずである。


 隣で美味しそうにエビチリ“らしきもの”を食べる花音に視線を向ければ、花音は全てを察したように小さく頷いた。


 いつも通り思考を読んでくるな。言葉要らずで助かるが。


 「そうだな、俺がガキンチョの頃は──────────」


 こうして、俺は昔を懐かしみながら思い出話をし始める。


 どうやら生徒達も俺と話しが聞きたかったようで、静かな時が流れるのだった。

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