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第一回戦第六試合ミミル

 補習科四年生、最後の出場者はミミルとなった。


 無事に勝ち抜けてきた仲間達はミミルの応援に行こうと、会場を移動する。


 そんな中、ミミルは大きな欠伸をしながら眠たげな眼で第五回戦を眺めていた。


 「遅いねー。応用科と応用科の戦いなのに、とてもゆっくりに見えるや。先生達が遊び半分でやってた鬼ごっこ?の方が断然速い」


 応用科の魔導師と剣士の戦い。


 その様子を見ていたミミルは率直な感想を口に出す。


 昔ならば、彼らの動きを目で追うのが精一杯だっただろう。しかし、自分よりも数段早い相手と常に戦ってきたミミルにとって、今の彼らの動きはコマ送りにすら見える。


 ミミルはこんな所で自分の成長を感じながら、もう一度欠伸をかみ締めた。


 「ブデ達みたいに何か警戒しなきゃ行けないものもないし、このぐらいなら簡単に勝てるかな。補習科のみんなは私の速さに対応してくるから面倒なんだよねー。エレノラとか特に」


 ミミルはそう呟くと、そろそろ試合が終わりそうだと悟って準備運動を始める。


 軽く体を解し、足の調子を確かめた。


 「うん。問題なし。一瞬でカタをつけに行くかな」


 ミミルはそう言うと、試合が終わったことを確認する。


 次の対戦相手は、魔導師のようだ。


 全身がボロボロになった剣士が担架で運ばれていき、魔導師は肩で息をしながら舞台を降りる。


 そして、入れ違うようにミミルは闘技場へと足を踏み入れた。


 思わず耳を塞ぎたくなるような歓声を聞きながら、ミミルはこの世界で最も尊敬する頭のおかしい先生たちを探す。


 観客たちの中で異様な雰囲気を纏っている教師達と同級生はすぐに見つかった。


(応援に来てくれてる。ビビットもいるから、もう終わったんだ)


 ミミルは、自分も仲間の後について行かなければと思い対戦相手に視線を移す。


 相手は短剣を2本腰に提げた双剣使い。応用科の生徒であり、そこそこ強い生徒だった。


 金髪のツインテールを揺らしながら、対戦相手であるエリアはニヤリと笑う。


 「今日はツイてるわね。初戦が補習科だなんて。2回戦の魔導師もそこまで強くないし、三回戦出場までは貰ったも同然だわ。あなたもそうは思わない?」

 「ホント、ツイてないね。私が相手じゃなきゃここで負けることもなかっただろうに」

 「あら、言うじゃない。私の剣技を見ても尚、そんなことが言える口があるといいわね」

 「ないと思うよ。意識を失ってるだろうからね」

 「........?急に素直ね」


 ミミルは相手を沈める宣言をするが、言葉が足らなすぎて伝わっていない。


 エリアが純粋すぎた事もあるが、二人の間にはなんとも言えない空気が流れてしまった。


 審判はミミルの言いたいことを理解していたものの、エリアがそれを理解していないことを悟るとさっさと試合を始めようと手を振り上げる。


 学生同士の煽り合いは、この大会の恒例行事のため少しの間喋らせるのだが、上手く噛み合わない時もあるのだ。


 「これより、第一回戦第六試合、補習科ミミル対応用科エリアの試合を始める!!それでは、試合開始!!」


 天に掲げた手を振り下ろし、試合開始の合図を告げる。


 それと同時に、エリアは腰に提げた剣を抜き放ちミミルに襲いかかろうとした。


 が、視界が歪み全身の力が抜けていく。


 「........へ?」


 足を踏み出して耐えなければならないのに、足が前に出ない。エリアはそのまま地面へと倒れ込み、くらい闇の中に意識を落としてしまう。


 彼女が最後に見た光景は、いつの間にか自分の目の前にまで来ていたミミルの姿だった。


 「そこまで!!勝者、補習科ミミル!!」


 僅か数秒の決着。


 これまでにない程早すぎる決着に、観客達は今まで以上に大きな歓声を上げた。


 「五月蝿い。さっさと帰ろ」


 ミミルはそう言うと、自分の勝利を喜んでくれている仲間達と教師陣に手を振ってから舞台を降りる。


 こうして、“絶望の出世壊し(ディストピア)”の伝説は幕を開けた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 四年生全員が第1回戦を突破したことにより、俺は一先ず胸を撫で下ろす。


 いやー良かった。自分が教えてきたことをしっかりと実践でき、結果を出せたようで。


 大会となると、いらない力が入っていつものような実力が出せないなんて言うのはよくある話だ。


 しかし、メンタル面も鍛えられてきた彼らは普段通りに戦い、順当に勝利を収めている。


 いやー良かった(2回目)。いやほんとに。


 「ミミル、瞬殺だったねぇ。試合開始と同時に近づいて顎に後ろ回し蹴りをゴン!!下手したら首の骨がイッちゃってそうだったよ」

 「流石にそこら辺は手加減するだろ。本気でやってたら、メリケンサックをつけて顎を砕いてたよ」

 「メリケンサック、木でもかなりの威力出るからねぇ。私達の場合は素手の方が力が出るけど」

 「それもそれでおかしいんだけどね。本来は何か握ってた方がパンチの威力は上がるから」


 ミミルの試合は、一瞬だった。


 試合開始の合図と同時に対戦相手に近づき、後ろ回し蹴りで正確に顎を撃ち抜く。


 相手は剣を抜いて構え始めていたが、それよりも早くミミルは攻撃を仕掛けていた。


 しかも、ご丁寧に死角を利用してるから相手から見れば一瞬消えたように見えた事だろう。


 教えた事がちゃんと成果に出ていて何よりだ。


 「これで皆1回戦を突破。次の対戦相手とかも少し見たけど、縛りアリで勝てそうだね」

 「だな。むしろ、補習科以外の生徒に負ける気がしない。本戦はきっと面白いことになるぞ」

 「まぁ、それはそれとして、ブデには驚いたけどね」

 「あれは予想外すぎる。普段真面目で言葉遣いも丁寧なブデが、あそこまで口が悪くなるとは思わなかった」


 第一回戦第三試合に出場したブデだが、対戦相手がブデをいじめている相手だった。


 結果的にブデがフルボッコにして勝利を収めたが、その時のブデの煽りと言ったら驚く他ない。


 魔物相手にすら“死ねゴミクズ”なんて言葉使わなかったのに.......先生悲しいよ。


 「それだけブデもイラついてたってことだろうな。ボコボコにした後少しスッキリしてたし」

 「ブデは怒らせちゃダメなタイプだね。普段全く怒らない子が怒る時は、マジで怖いから」

 「全くだ........俺達ブデに恨まれてないよな?」


 虐めたりはしていないが、戦い方を教える際にボコボコにした記憶が幾つもある。


 ブデは優しい子だし、本人も納得してこの授業を受けてきたら恨まれてないとは思うが、実際のところ本人が何を思っているのかは分からないのだ。


 花音は俺から目を逸らすと、棒読みのセリフで言う。


 「........多分大丈夫じゃないかな?多分」

 「不安しかねぇ........今日はしっかり媚びとくか」

 「まぁ、私達に牙を向いた瞬間に殺すけどね」

 「違う、そう言う問題じゃない」


 相変わらず思考が極端すぎる花音にツッコミを入れつつ、俺は今日の賭けで儲けた分をしっかりと本人たちに還元しようとサイド心に誓うのだった。


 ちなみに余談だが、サラサ先生は貯金のほぼ全てを生徒達に賭けていたらしい。


 もし、外れたらどうする気だったんですかねぇ........生徒を信頼しすぎでしょ。

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