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第一回戦第三試合ブデ

 武道大会が始まり、エレノラが大金星を上げて会場がザワつくのを見たブデは、自分の試合に集中していた。


 エレノラが手加減しても余裕で勝てる。


 これは、この後戦う四年生達に大きな自信を与える。


 ブデも、この試合で負ける気がしなかった。


 「頑張れよ、ブデ」

 「はい。少なくとも、本戦に行くまでは負けないでふ」

 「その意気だ」


 仁はブデの背中を軽く叩くと、観客席に消えていった。


 ブデが尊敬するちょっと頭のおかしい先生の激励を受け、ブデは胸を張って会場に入る。


 湧き上がる歓声と熱気。


 辺りを見渡せば、自分を教えている先生と家族が応援に来ていた。


 残念ながら、サラサ先生はここには居ない。それだけブデが勝てると確信しているのか、ライジンの方を純粋に応援したいのか。


 その真偽は分からないが、少しだけブデは寂しく感じる。


 仁や花音、その他の補習科の生徒達に応援させるのも嬉しいが、この4年間自分達を教え続けてくれたサラサ先生に1番この勇姿を見せたかった。


 「まぁ、サラサ先生は人間だから無理か。ジン先生ですら分裂できないんだし」


 今年から自分達を教えてくれている頭の可笑しい先生ですらできない事を、サラサ先生ができるわけがない。


 ブデはそう思い直すと、一際大きな声で応援する両親に視線を向けた。


 恐らくだが、少額は自分に賭けているだろう。ここでしっかりと勝って、大金を是非とも手にしてもらいたい。


 ついでに言えば、その大金の一部で美味しい料理を作って欲しい。


 そんな事を考えていると、対面の対戦相手がやって来た。


 「ハッ、あのデブがこんなところに来るんじゃねぇよ。忘れたのか?俺に手も足も出なかった雑魚がよ」


 剣を肩に担いで、ブデをあからさまに見下す少年。


 彼は、ブデを虐めていた者の1人だ。ベルルンの取り巻きでは無いものの、明らかに弱そうなブデは他の生徒からもよく虐められる対象となっている。


 ココ最近は大人しくなったが、だからといって恨みが消える訳では無かった。


 「今の内に降参するなら許してやるぜ?地面に頭を擦り付けながら“許してください、アレン様”って言えばな」

 「さっさと死ねよゴミクズが」

 「........あ?」


 ニヤニヤとしながらブデを煽るアレンと名乗った少年だが、普段のブデらしからぬ言動に眉を吊り上げる。


 普段真面目だからといって、汚い言葉を吐く訳では無い。


 仁に“煽られたら煽り返せ”と言われていたので、今までの思いを全てこの言葉に乗せたのだ。


 唇の動きから言葉を読み取った仁と花音も、普段真面目なブデからそんな言葉が飛び出すとは思わず目を見開いていたが、今のブデにとってはどうでもいい話である。


 いつもの様に縮こまるだけだと思っていたアレンは、ようやく言葉の意味を理解すると怒りを露にした。


 「テメェ、生きて帰れると思うなよ。ぶち殺してやる」

 「やれるもんならやってみろ。叩き飲めしてやる」


 お互いに湧き上がる殺気。


 間近で話を聞いていた審判は“これ大丈夫か?”と内心不安になりつつも、毎年このような煽り合いはあるので予定通りに事を進めた。


 「準備はいいか?」


 審判の声に、2人とも無言で頷く。


 審判は手を上げると、試合開始の宣言を始めた。


 「これより、第一回戦第3試合、補習科ブデ対応用科アレンの試合を始める!!それでは、試合開始!!」


 審判が手を振り下ろしたと同時に動き始めたのはアレンだ。


 剣を大きく振りかぶり、ブデの脳天をかち割らんと距離を一気に詰める。


 ブデは剣を構えることもせずその様子を眺めていた。


(遅い。先生達の動きの方が断然速かった。この程度なら遊んでても避けれる)


 世界最強と一学生を比べるのも酷な話だが、実際仁達の動きの方が断然早い。


 世界最強の教師は、生徒がギリギリで対応出来る速さでいつも攻撃してくるのだ。


 時には、反応すら許されない速度の攻撃も飛んでくる。


 それと比べれば、アレンの剣なんてアリが歩いているのとさほど変わらない。


 「ハッ!!大口叩いた割にビビって動けねぇか!!そのまま死ねぇ!!」


 しかし、昔の補習科のブデのままだと錯覚しているアレンにブデの考えは分からない。


 ブデが恐怖のあまり動けなくなったと勘違いした彼は、素直に剣を振り下ろした。


 「剣を使うまでもないね。やっぱり先生がおかしいだけな気がしてきた」


 ブデはそう呟くと、アレンの剣を紙一重で回避する。


 部では余裕を持って会費しているつもりだが、素人から見ればギリギリで反応できた様に見え、会場が僅かにどよめいた。


 「チッ、運がいいな」

 「今のを運だと思ってる時点で、アレン、お前の負けだよ。あまり僕達を舐めすぎない方がいい」

 「ほざけ!!豚の分際で人の言葉を話してんじゃねぇよ!!」


 隙だらけのアレンに攻撃を仕掛けるのではなく、ブデは距離をとる。


 そして、ブデは剣も使う必要は無いと判断し、鞘に剣を戻してその場に置いた。


 完全な舐めプだ。


 これだ負けたらブデは一生お笑い者として生きていくことになるだろう。しかし、勝てばアレンが笑いものにされる。


 今まで自分を笑ってきた分、今度は笑われるのだ。


 「やっぱり棄権するのか?今なら──────────」

 「お前相手に“(これ)”を使う必要は無いって事だよ。かかってこい。一方的にボコしてやるよ。降伏するなら今だよ?地面に頭を擦り付けて“許してください、ブデ様”って言えば、許してやらんこともない」


 全身の力を抜いて、明らかにアレンを見下した態度で挑発する。


 流石のアレンも、この舐め腐ったブデの態度にはブチ切れたようで、全身の血管が浮かび上がるほど力が入った。


 「殺す!!」


 剣を振り上げ、先程と同じようにブデとの距離を詰めるアレン。


 しかし、舐めプしてるとは言え本気になったブデはその動きを許さなかった。


 「遅い」


 その体型からは想像もできない程の速さでアレンの懐に入り込むと、慌てて剣を振り下ろすアレンよりも早く右拳が相手の頬を捉える。


 ゴキ、と鈍い音がブデには聞こえたが、大きな歓声によって審判の耳には届かなかった。


 そして、アレンが吹き飛ぶよりも早く反対側の頬に左拳をぶち込む。


 ブデノ重い体重が乗ったその拳は正しく大砲。幾ら応用科の生徒と言えど、耐えられるはずもない。


 この時点でアレンは気を失いかけていた。


 だが、審判は止めない。


 正確には、ブデの攻撃が早すぎて止めるのが遅れたと言うべきか。


 審判がと目に入る2秒間の間に、ブデは積年の恨みを晴らすかの如く殺意を込めたこぶしを5発も繰り出してきた。


 間違って殺さないように急所を外しつつ。


 顔面の骨が3箇所、両腕が2箇所そして肩を1箇所骨折したアレンは、深い闇のなかに落ちていく。


 「そ、そこまで!!勝者、補習科ブデ!!」


 あまりに一瞬すぎて、何が起きたのか分からない観衆が多くいる中、ブデの両親と仁達は盛大に喜ぶ。


 担架に乗せられ、医務室に運ばれていくアレンを横目に見ながらブデは満足そうに先生と両親に向かって手を振るのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に顔面再起不能っぽいダメージが… 回復出来る範囲なのかな?回復魔法がんばれ!(笑)
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