組み合わせ
武道大会の予選と本戦は、共にトーナメント形式だ。
予選はそれぞれのブロックに別れてトーナメントを行い、そのブロックの優勝者が本戦に出場することが出来る。
敗者復活戦なんてものは無いので、1度負けたらおしまいと言う中々に厳しい戦いだ。
大会役員から手渡されたトーナメント表を見ていた俺は、ブデのブロックに居るあのバカ息子の名前を見つける。
「あのバカ息子はブデと同じブロックか。順当に勝ち進めば決勝で当たるな」
「お、ブデが叩きのめすんだね。いいんじゃない?今まで殴られてきた分、いっぱい殴り返せるよ」
「ブデも相当やる気みたいだし、これはご愁傷様ってやつだな。隣でミミルが羨ましがってるけど」
ブデも自分のブロックにベルルンの名前を見つけ、全身から漲る闘志を発している。
やる気満々。ベルルンと戦うことになった際は、全力でボコしに行くだろう。
ベルルンは、戦いにおける才能が多少あるかもしれないが、1年間真面目に訓練に取り組んできたブデには遠く及ばない。
自分の力を過信し、自らを磨きあげることを忘れた剣は錆びるだけなのだ。
ちなみに、ミミルが羨ましがってるのは、彼女が死ぬほどベルルンの事が嫌いだからである。
なんでも、ウサギの獣人を馬鹿にする様な発言を何度もされたのだとか。
もし、どこかでベルルンと戦うことになれば、顔の形が分からなくなるまで殴りつけると言っていたのを見るに、その怒りはかなりのものだろう。
良かったなベルルン。命拾いしたぞ。
「補習科の生徒は全員綺麗にバラけたな。上手く行けば本戦に全員出場できるぞ」
「組み合わせ次第ではTOP5が補習科になりそうだねぇ。そしたら、心の底から煽ってやれるよ。あのハゲ共を」
「程々にな。応用科で1番強いって言われてるやつとも当たらないみたいだし、今回のトーナメントは運がいい。本戦に行けたも同然だ」
後は皆が普段通り戦えることを祈るのみ。
力が入りすぎてから回る事がなければいいが........オークを相手するよりはかマシなので多分大丈夫だろう。
唯一、心が弱いライジンは不安だが、その他の生徒たちはメンタルも強い。大勢の観衆の中でも普段通りにやれるはずだ。
「最初に戦うのはエレノラだな。第1回戦第1試合。その後は第3回戦でライジンとブデが被ってる」
「会場も違うから、一緒に応援はできないね........」
「まぁ、5人も教師は居るんだし、分けて応援に行けばいいさ。生徒達もそこら辺は分かってくれてるだろうしな」
予選トーナメントは16の会場で行われる。そうなれば、対戦時間が被ってしまう生徒も出てくるわけで、全員の応援を見ることは厳しそうだった。
俺はブデの試合を見に行こうかな。1番教えてたのはブデだし。
ライジンの方はラファと黒百合さんが言ってくれるだろう。サラサ先生は........本人に任せる。
トーナメント表に一通り目を通した俺は、ワイワイとトーナメント表を見て盛り上がる生徒達に向かって手を叩いた。
“注目”と言う意味が込められたその音に、補習科の生徒達は静かになる。
「サラサ先生、なんか激励の言葉をよろしく」
「え?今の流れはジン先生が言うんじゃないの?」
「俺達も言うよ。でも、最初はサラサ先生じゃないと」
この4年間、補習科の生徒達を教えてきたのはサラサ先生だ。
俺達とは絆の深さが違う。
ブデ達4年生も、サラサ先生の言葉を聞こうと静かにこちらを見る。
「えーと、四年生のみんなは普段通り頑張ってね!!大丈夫。いつも通りにやれば、絶対に勝てるから!!ほかの生徒も、4年生の応援をしてあげてね!!」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
簡潔に、それでいて分かりやすく激励を飛ばすサラサ先生。
あまりこう言う事には慣れてないのか、サラサ先生は少し恥ずかしそうだった。
「言いたいことは全部サラサ先生が言ってくれたから、俺からは“頑張れ”とたけ言わせてもらおう。四年生共。この大会の主役は自分達だと言うことを、示してやれ」
「「「「「はい!!」」」」」
「がんばー!!応援してるよー!!」
「頑張ってね」
「ファイトー!!」
ちょっと格好つけて激励を飛ばす俺と、適当すぎる花音達。
しかし、その言葉は本心であり生徒たちにも伝わった。
四年生達の顔つきは鋭くなり、全員がその心の中で静かに闘志を燃やす。
これなら相手が誰であろうと、負けることは無いだろう。ついでに、トーナメントの勝ち方も教えてやるか。
「エレノラ、予選では体術だけを使って勝ってみろ。爆弾は温存だ」
「え?なんでですか?」
「そりゃ決まってるだろ?対策を立てられないようにするためだよ。負けそうなら爆弾を使ってもいいが、圧勝できるなら爆弾を使うな。相手に情報アドバンテージを渡すことなく勝ち上がれ」
「えぇ........せっかく合法的に人を爆破できるチャンスだったのに」
「........」
小さな声で呟いても聞こえてるぞ。
全く、この爆殺魔は爆破のことしか考えられない呪いにでもかかってるのか?
真面目に将来が不安だ。
「それと、ブデ、お前は予選は剣だけを使え。大丈夫、今のブデなら何をやっても勝てるからな」
「わかりました。負けそうな時以外は、剣と拳で戦いまふ」
「ライジンとビビットは魔法禁止。体術だけで勝ち上がって見ろ」
「魔法無し........勝てますかね?」
「大丈夫大丈夫。俺達相手に戦ってきたんだから、余裕だよ。もちろん、負けそうなら使ってもいいけどな」
「分かりました。できる限り体術で戦います」
「ぼ、僕も頑張ります!!」
「その意気だ。んで、ミミルは走る速さをセーブして戦え」
「本気を出すなってことー?」
「そうだ。本気の速さを見せてやる程、相手は強くない。この速さが最高だと思い込ませろ」
「りょうかーい。先生の要望通りで勝ち上がってあげる」
各生徒に軽いアドバイスをして上げた後、最初に戦うエレノラの会場まで皆で一緒に行く。
トーナメントってどれだけ相手の対策を講じれるかが鍵になるからな。特に、予選で手札を全て見せる必要は無い。
舐めプかもしれないが、今の彼らは舐めプをしても十分に勝つことの出来る地力があった。
あれだな。舐めプされる方が悪いって奴だ。
「爆弾を使えないとなると........あぁ、アレも使えない。ナイフは........いいや使わなくて。加減を間違えて殺しそうだし」
「サラッと怖いことを言うな。加減はしてやれよ」
「先生相手に戦ってきたので難しいかもしれないですね。間違って殺してしまったら、全部先生のせいにしておきます」
「頼むから加減をしてくれよ?もし加減をミスったら卒業後の話はナシだ」
「死ぬ気で手加減します」
食い気味でそう答えるエレノラ。
コイツ、悩みとかあるんだろうか。
初戦を前にして普段通りすぎるエレノラを頼もしく思いつつも、普段通りすぎて逆に怖いとも思いつつ、俺は教え子が光を浴びるその時を待つのだった。




