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やる気十分

 ギャンブルにハマらないと豪語する黒百合さんに、皆で疑いの目を向けながらも俺達は学園にある職員室にやってきた。


 既に中には気配がしており、サラサ先生がいる事が分かる。


 相変わらず来るの早いな。


 「おはようございます」

 「おはよー」

 「おはようございます」

 「おはようです」

 「あ、皆おはよう!!いよいよだね!!」


 職員室に入れば、満面の笑みのサラサ先生が出迎えてくれる。


 笑顔の裏に燃え滾る闘志のオーラが見え、正直生徒達よりも気合いが入っているように見えた。


 「そうだな。遂に生徒達がその力を証明する時が来た」

 「楽しみだね。毎年補習科の生徒で大会に出る子は居なかったから、本当に楽しみだよ。ジン先生達のお陰だね」

 「いやいや、サラサ先生が今の今までしっかりと基礎を教えてきたお陰だよ。流石に完全なゼロの状態からだったら、ここまで強くはならなかっただろうし」

 「えへへ、そうかな?でも、ジン先生達の方が働きが大きかったと思うよ」


 少し照れくさそうに頭を掻きながら、サラサ先生はそう言う。


 ホント、サラサ先生はいい人だな。


 ぽっと出の新人教師がデカい顔して生徒たちを教えていたら、嫌味の一つや二つ飛んできてもおかしくないのに。


 俺がサラサ先生の立場だったら、嫌味を言ってしまいそうだ。


 生徒達が伸び伸びと成長できたのは、サラサ先生の心が海よりも広かったからだろう。


 俺も仕事がしやすかったし、花音達もサラサ先生の事が好きだった。


 俺達が学生の頃にサラサ先生の様な人の授業を受けて入れれば........なんて話を何回したか覚えてないぐらいには。


 「サラサ先生、よっぽど生徒が大会に出てくれるのが嬉しいんだねぇ。生徒以上にやる気に満ち溢れてるよ」

 「四年生は大変だな。一回でも勝ったらまたサラサ先生に抱きつかれて、絞め落とされそうだ」

 「サラサ先生のハグってかなり強いらしいからねぇ........エレノラが言ってたよ。サラサ先生の抱擁はオーガに抱きつかれてるかと錯覚するぐらい強いって」

 「死ぬじゃんそれ」


 嬉しさのあまり力加減を間違えるのは分かるが、それで生徒を絞め落とすのは辞めてあげて欲しい。


 サラサ先生は純粋に喜んでいるから、止めに止めづらいし。


 「今日は心を鬼にしてでも止めるか。多少のハグはともかく、絞め落とされたら敵わん」

 「だね。サラサ先生の唯一の欠点だし」


 ハグが強すぎる事が欠点の教師か。


 ちょっと可愛いな。


 そんなことを思いながら暫くサラサ先生と話していると、生徒達が登校してくる時間となる。


 今日は教室に荷物を置いた後、ホームルームをすること無く各々が普段授業で使っているグラウンドに集合することとなっている。


 職員室から出て、あちこちに行く生徒たちを見れば、自分の武器を持ってグラウンドに集まる生徒がチラホラ見えた。


 その生徒たちの中に交じって、神官やシスターもいる。


 彼らは今日行われる大会で怪我人を治すために、各会場に配置されるのだろう。


 武器は本物を使用することになってるしな。


 「毎年1人2人は大怪我を負う子が出てくるらしいが、今年はその心配も要らないか。ラファが居るし」

 「学園長曰く、腕を切り飛ばされる程度までは治せるらしいね。アゼル共和国にいる回復系魔法や異能を使える人を片っ端から集めてるらしいし」

 「おかげで死人はゼロ。実力が如実に現れる予選は、回復系の魔法や異能でゴリ押しか」

 「本戦になれば、学園長が能力を使うんだよね?」

 「子供達が調べた限り、去年まではそうだな。今年は知らんが」


 この武道大会では、毎年多くのけが人が出てくる。


 そりゃ、本物の武器を使っていれば嫌でも怪我はするだろう。木剣ですら怪我をするんだから。


 予選では、生徒達の実力がハッキリと現れるため余裕を持って戦えることが多い。


 ギリギリのしのぎを削る戦いは滅多に起こらないし、実力差があれば寸止めや手加減もできるので回復系魔法や異能で事足りるのだ。


 しかし、本戦は実力が高く拮抗した者が多い。


 そうなれば手加減が一切できないので、我らが学園長が能力を使用する。


 今の武道大会が安全に行われているのは、学園長のお陰と言っても過言では無い。


 毎年、この日になると学園長は死んだ魚のような目をするのだとか。


 丸1日能力を使用してるとかなり疲れるからな。慣れてないと特に。


 そんな事を考えていると、ぞろぞろと補習科の生徒達がやって来た。


 皆元気に挨拶をしながら、グラウンドに入っていく。


 今日のグラウンドは大会仕様となっており、石の闘技場がど真ん中に設置されている。


 予選は早めに終わらせる為に、場外とかもアリのルールだったはずだ。


 「おはようございます。先生」

 「おはようエレノラ。調子はどうだ?」


 俺に挨拶をしてきたエレノラに、今日の調子を聞く。


 エレノラは、何度か仕込みナイフの起動を確認した後、自信に満ち溢れた顔で頷いた。


 「万全です。今なら先生に一発食らわせてらやれるのではないかと思うぐらいには」

 「ハッハッハ!!そりゃ凄い。俺達に一撃くらわせてやれるほど調子が良ければ、この大会も優勝できるだろうよ」

 「優勝してやりますよ。今の今まで爆弾をバカにしてきた連中を、爆殺してやります」

 「うん、殺すのはダメだぞ?」

 「分かってますよ。言葉の綾って奴です。先生は、毎度私を危険人物にしたがりますね」


 実際危険人物だからね。


 頬をふくらませて怒るエレノラだが、君は十二分に危険人物だよ。


 俺や花音達に爆弾が効かないからって、威力実験に付き合わせたり休みの日にこっそり魔物を爆破しに言ってる奴を危険人物と言わずになんと言う?


 子供たちから報告が来た時はマジで驚いたぞ。冒険者登録もしてないのに、単なる趣味で魔物を爆破しに行くやつが居るなんて思いもしなかった。


 しかも、子供達の報告曰く、ゴブリンを爆破しては息を荒らげて興奮してたみたいだし。


 この子、本当に社会に出して大丈夫なんですかね?


 俺は不安でたまらないよ。


 エレノラは卒業後も俺に教えを乞いに来るらしいが、正直戦い方よりも道徳を教えた方が世のためになるのでは?と思ってしまう。


 ふとした瞬間にテロリストになっそうで怖いわぁ........


 「........先生がものすごく失礼なことを考えていることだけは分かりますね」

 「事実だ。魔物を爆破することに快感を覚える様な子の将来を心配するのは、教師として当たり前だと思うがな」

 「人は爆破しても気持ちよくないんでしませんよ?」

 「それ、逆に言えば爆破して気持ちよかったら人も爆破するって言ってるのと同意義だからね?ダメだよ?気持ち良かろうが気持ちよくなかろうが、人を爆破するのは」

 「分かってますって。大丈夫です。この大会でちゃんと証明しますよ」


 いや、強さの証明をしてくれよ。


 やはりどこかズレてる変人のエレノラに、呆れ顔をしつつ俺はもう時期始まる武道大会予選に心を踊らせるのだった。

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