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大会前日

 武道大会前日。


 学園は、今までに見た事がないほど鮮やかな装飾で彩られていた。


 年に一度の大行事、学生や教師たちの気合いが入るのも無理はない。


 この一大イベントに乗っかり、出店の準備をする商売根性逞しい人達もかなりおり、大通りでは明日の準備をする人々で溢れかえっている。


 学園も今日は休講。明日のために生徒たちは英気を養い、教師達は明日の為の準備に駆り出された。


 勿論、臨時講師としてこの場にいる俺達も例外では無い........はずなのだが、補習科の授業はこんな日にも行われていた。


 「........今日ぐらい休みでも良くね?」

 「まぁ、補習科だからね。そのおかげで、私達は明日の準備をしなくてもいいんだし」

 「ちょっと準備のお手伝いとかしたかったな。私、中学の頃の文化祭とか手伝おうもしても断られてきたし........」

 「シュナちゃん?涙が出てるよ?」


 サラッと悲しい過去を告げて涙を流す黒百合さん。


 中学の頃から高嶺の花だったのは知っているが、それ、高嶺の花って言うよりハブられてね?


 俺や花音ですら“手伝おうか?”と言えば、あれやってこれやってと言われたのに。


 一体何をやったらそんな悲しい事件が起こるんだ........


 涙を流す黒百合さんは、ラファからハンカチを受け取って涙を拭く。


 あまりに不憫すぎて、俺も花音も弄るに弄れなかった。


 なんて言葉を返そうか困っていると、サラサ先生がやってくる。流石はサラサ先生。ナイスタイミングだ。


 「毎年、補習科の子達はこの時期になると暗い顔をするんだけど、今年は違うね。みんなキラキラと目を輝かせて、明日が来るのを待ってるみたい」

 「そりゃ、自分達の強さを証明するいい機会だからな。自分たちが強くなった事は自覚してるだろうし、後はどこまでやれるか。それが楽しみなんだろ」

 「ジン先生達のおかげだね。私のこの時期はよく普通科や応用科の先生から嫌味を言われて少し凹むけど、今年は全くそう凹まないよ」

 「そりゃよかった。明日はきっと嫌味を言えるぞ。“あれ?応用科の生徒が補習科の生徒に負けるんですか?教え方が悪かったんですかね?生徒達は頑張っているんだから、これは教師の教え方が悪いに違いありません。あ、先生のことを言ってる訳じゃないんですよ?ただ、生徒の実力を引き上げるのは教師の役目ですよねって言ってるだけで”って」


 多分、こんな事言っらブチギレるだろうな。


 俺も普通科や応用科の先生に嫌味を言われたことがあるので、ブデ達が勝った暁にはしっかりと煽ってやろう。


 「凄い勢いでキレられそう。仁は相変わらず人を煽るのが上手いね」

 「ちなみに、花音ならなんて言う?」

 「え?ニッコリと笑って“いい戦いでしたね”とだけ言っておくかな。きっと怒りを押し殺した声で返事をくれるよ。そしたら、ニヤニヤしながら何も言わずに帰る」

 「お前もいい性格してるよ。俺より屈辱的じゃねぇか」


 普通科と応用科の教師は元冒険者だ。何年居るかは分からないが、プライドが高くよく補習科をバカにしてくる。


 流石に俺達に面と向かって喧嘩を売ることは無いが、“世界最強の傭兵だからと言って、教え方が上手なわけじゃないよね”と言うのを遠回しに言われたことはあった。


 俺達相手にすらそんなことを言うのだから、サラサ先生にはもっと直接的に言っているだろう。


 キッチリとお礼参りをしてやらないとな。


 そんな事を思っていると、黒百合さんな涙を拭いたハンカチをしまいながらラファが僅かに殺気を出して舌打ちする。


 「チッ........2回ぐらい本気で殺そうかと思ったよ。あのハゲ、シュナちゃんに下劣な視線を向けやがって」

 「あー、確かに気持ち悪い視線だったよね。私は慣れてるからいいけど」

 「なれるもんなのか?」

 「慣れる慣れる。気持ち悪いことには変わりないけど」


 心底嫌そうな顔をしているのを見るに、黒百合さんは割と本気で嫌がっているのだろう。


 だが、男という生き物の大半は下半身で物事を考えてしまうのだ。同じ男としては気持ちが少し理解できるものの、俺も気をつけなければと気を引き締める。


 何より恐ろしいのは花音だからな。昔、相手が浮気したらどうするかという話で花音は“浮気相手を殺して自分が居ないと生きていけないように監禁する”と言うとんでもない事を言っていた。


 しかも、それがさも当然みたいな感じて言うので余計に恐ろしい。


 浮気をする気もなければ花音以外の人に靡くこともないが、花音の場合は相手が俺に惚れててもこのやり方をするからな........怖すぎる。


 黒百合さんもそこら辺は何となく察しているのか、距離を縮めすぎるということは絶対になかった。


 「皆いい動きだね。1年前とは大違いだよ」

 「そうだな。かなり強くなった。明日が楽しみだ。組み合わせとかは決まってるのか?」


 武道大会4日前には、出場の応募をしてある。


 補習科の4年生は全員出場する。


 予選、決勝トーナメント合わせて、2日かけて行われるのだが、未だに組み分けがどのようになっているのかは分からなかった。


 子供たちに調べさせれば一発で分かるが、今は監視やら他の情報収集で手がいっぱいであり、他の事を調べる余裕は無い。


 サラサ先生は首を縦に振るが、その後首を横に振った。


 「既に決まってるけど、当日にならないと組み合わせは分からないよ。昔、お金で買収した生徒がいて問題になったことがあるらしくて」

 「あぁ、八百長をしたのか。確かに、今後の人生を決めるレベルの大会ともなれば、相手に金を掴ませることもやる奴は出てくるわな」

 「それでも八百長は数年に1回ぐらい出てくるんだけどね。バレた瞬間に退学だけど」


 大会の成績によっては、騎士団からオファーが来ることもあるのだ。


 金で成績を買おうとする輩が出てきてもおかしくない。


 特に、今年で卒業する四年生はこの大会の重要度が他の学年と違って桁違いだからな。


 本戦に出られるだけで、価値がある。


 そんな大会だからこそ、不正は横行するのだろう。


 「予選は4試合勝てば本戦に行けるんだってけ?」

 「そうだよ。毎年出場人数が変わるから、運の悪い子だと5試合勝たないといけない事もあるけど」

 「トーナメント形式だもんな........応用科の生徒とかは全員出てくるだろうし、普通科からも大勢出てくる。そうなると250人近く出てくるわけだ」


 一学年の半分ぐらいはトーナメントに参加するとなると、全学年を合わせたら1000人以上も参加するのか。


 学年別もあるとは言え、かなりの人数である。


 ちなみに、学年別に出る生徒は無差別級には出れない。無差別級もまた然りである。


 四年生組とメレッタが戦うことは無いということだな。


 「多いねぇ。場所は足りるのかな?」

 「これだけ広い学園なんだから、足りるだろ。会場もあちこちに立てられてるしな」

 「毎年15~6の会場が立てられるよ。試合の進行も早いから、一日で予選は終わらせれるんだ。まぁ、それだけ生徒の実力差が顕著ってことだけど」

 「それはしょうがない」


 こうして、明日に備えて軽く運動する生徒たちを見ながら俺達は明日の武道大会に胸を躍らせるのだった。


 そして、その日はやってくる。


 生徒たちの晴れ舞台だ。

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