武道大会1週間前
武道大会が始まるまで残り1週間となった。
学園は今まで以上に生徒達が慌ただしく動き、武道大会で自分達の強さを証明する為の訓練を続ける。
補習科の生徒達も同様。とても張り切っていた。
「いい感じに仕上がってきたな。これなら誰かが優勝してもおかしくない」
「四年生が出るのは全学年が参加できる大会だったね。1年とかも出るんでしょ?」
「1年生の中でも特に優れた生徒は出るだろうな。イスとリーゼンお嬢様は出ても結果が分かりきってるから、出ないって言ってたけど」
「イスは誰にでも勝てるし、リーゼンちゃんはイス以外には勝てるからねぇ。エレノラがリーゼンにワンチャンあるぐらいで」
「直感を駆使されたら厳しいだろうけどな」
やる気に満ち溢れた生徒達が各々の武器を振るって訓練するのを見ながら、俺は我が子と教え子の事を考える。
イスとリーゼンお嬢様は、メレッタが強くなれるように色々と教えてあげていた。
子供達の話を聞く限り俺より教え方が上手い気がするが、一旦それは置いておいて。
メレッタはあの頭の足らないバカ令嬢を、公衆の面前で完膚なきまでに叩きのめせるまで強くなっている。
問題は、そのバカ令嬢が武道大会に出てくるのか?という話だが、どうやらリーゼンが煽りに煽ったらしい。
やる事なす事全てを握りつぶされ、苛立ちに支配されていたレナータは売り言葉に買い言葉という訳で、その煽りに乗ってしまったのだ。
ご愁傷様。
今の今まで見下してきた相手にボコボコにされた挙句、その後に待っているのは親子共々破滅の道だ。
少年法なんて無いこの世界では、子供だからと言って優しくしてもらえる訳では無い。
親子仲良く牢屋にぶち込まれ、地方で猛威を奮っていた商会はリーゼンお嬢様の手中に収まるだろう。
証拠は腐るほどあるしな。
勿論、あのバカ息子もである。
彼の場合は、自分が強いというプライドがあるので絶対に武道大会に出てくる。
父親も、息子の晴れ舞台が見たいので止めることは無いだろう。
彼は補習科の四年生全員から恨みを買っているので、誰かと当たればフルボッコにされる。
個人的には、ブデ当たりと当たって欲しいな。
サンドバックにされて虐められてたらしいし、その日ぐらいはサンドバックの気持ちになって貰ってもいいだろう。
「ドッペルお手製の武器も渡せたし、あとは生徒達を信じるだけだな。運動会とかでクラスを応援する先生はこんな気持ちだったのかな?」
「かも知れないね。懐かしいな。中学の時のリレー大会」
「........あぁ、うちのクラスが50mの合計タイムがダントツで遅かったのに優勝したやつな」
「先生、すっごい喜んでたよねぇ。その日出張で居なかったけど」
「俺らから“先生の呪い”なんて言われてたな。予選はカーブでコケたやつが居てギリギリ通過して、決勝では団子状態になってたところで1番前のやつがコケて全員を巻き込み、少し離されてた俺達だけ巻き込まれずに1位に躍り出てそのまま逃げ切り。2回も俺達の都合のいいように相手がコケたから、主張で居ない先生が他のクラスの生徒達に呪いをかけたんじゃないかって噂してたな」
本当に懐かしい。もう6~7年前の話だ。
俺も花音もそこまで体育祭は好きでは無かったが、あの日ばかりは盛り上がったのを覚えている。
ちなみに、同じクラスでアンカーを走っていた龍二はその日、三人から告白されていた。
第一走者の俺には誰一人として来なかったのに........
話は変わるが生徒達には今日、ドッペルお手製の武器を渡した。
以前、課外授業を行った時に渡した武器よりも更に質のいい武器だ。
武道大会では、本物の武器が使われる。
特殊すぎる場合を除いて、武器は個人で調達しなければならない。
普通の生徒は市販の剣を買ったりするが、折角の晴れ舞台なのだ。先生が用意してあげても怒られないだろう。
本当は純ミスリルでできた武器でも作ろうかと考えたのだが、あまり高価すぎると生徒達に圧をかけてしまう。
まぁ、俺が自腹で武器を作って渡している時点で圧をかけているだろうが、メンタルの強い生徒たちの事だ。あまり気にしてないだろう。
なので、バレない程度にミスリルを混ぜた合金を使い、ドッペルに各々の武器を仕立ててもらった。
ブデはハルバード。ライジンは短剣を2本。ビビットはよくある普通の剣を。ミミルはメリケンサックと脛当を。エレノラは袖に仕込むナイフを2本。
こっそり子供達が採寸した情報を元に、ドッペルが過去に居た伝説の職人となって使った武器は、最早国宝として扱われてもおかしくないほど鮮やかな装飾まで施されていた。
某二丁拳銃持ちのロットさんが“なんの戦術的優位も無い”とか言いそうな程にまで、細部に施された装飾。
ドッペル曰く“この職人の拘り”らしいが、正直要らねぇとは思う。
「そう言えば、イスもドッペルに武器を作ってくれるようにお願いしてたな」
「メレッタの為に作ってくれって言ってたね。でも、あれは武器って言うのかな........?」
イスもメレッタの為に武器の作成をドッペルに頼んでいる。が、正直アレは武器と呼べるものでは無い。
だって鉄の塊だもん。ドッペルがそれっぽく見えるように装飾してくれているが、誰がどう見ても太い円柱型の鉄だった。
おそらくメレッタの異能に合った武器なのだろうが、あれを武器と呼ぶならフォークやスプーンも立派な武器だ。鉄パイプならまだ分かるけど、人並みにデカイ鉄の柱を武器と呼ぶのはちょっと........
俺は困惑しながらイスの要望通りに武器を作っていたドッペルを思い出しながら、メレッタがどの様に戦うのか少し見てみたい気持ちに駆られる。
生徒たちの試合と被らなければ、見に行くのもいいだろう。
メレッタとは何度か顔を合わせたことがあるし、知らない中じゃないから応援に行っても変では無い。
「1週間後が楽しみだな」
「だね。1年足らずでここまで成長した生徒達が、その実力を証明する時が楽しみだよ」
「あ、先生、危ない」
花音と話していると、爆弾が飛んでくる。
最初の頃なら少し過剰に避けたものの、慣れた今となっては手で弾くだけだ。
勿論、他の生徒に当たらないように、空中に弾くのである。
ドーン、と空中で破裂する爆弾。
俺は呆れながらエレノラに視線を送った。
「またか」
「いえ、今のはブデが爆弾を弾いたために起こった事故です。私は悪くありません」
「うん。胸を張って言うことでは無いよね?」
「........?私の過失では無いので」
「話が噛み合ってないね?」
俺、卒業後もこの子を教える事になるのだが大丈夫なのだろうか。
可愛らしく首を傾げながらも、その手に持った爆弾をジャラジャラと弄ぶエレノラを見て、俺は少し不安になるのだった。




