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三学期

 夏休みが終わり、二学期は特にこれと言った騒動もなく平穏に過ぎていった。


 俺達と敵対しているバカ息子や頭の足らない令嬢が少しちょっかいをかけてるくことこそあれど、どれも驚異とはなり得ない。


 大抵は子供達の圧倒的力の前に握りつぶされ、証拠だけを残して消えていった。


 既にふたつの商会を潰せるだけの証拠は揃っているものの、武道大会にて観衆の面前でフルボッコにされると言う最後の仕事が残っているので放置したままだ。


 最後の学園生活を楽しむといいよ。リーゼンお嬢様が結構イラついているので、その後どうなるかは想像したくないが。


 「はぁ!!」

 「そうだ。しっかりとフェイントを入れていけ。動作一つ一つに意味を持たせろ。相手に情報を与え続けて惑わせろ」


 冬休みも明け、三学期に突入し、武道大会まであと一ヶ月を切った。


 最後の花を咲かせるべく、四年生達はいつも以上に頑張っている。


 ブデの放った突きを避けつつ反撃しようとするが、ブデはこれを回避。


 その見た目からは想像ができないほど俊敏に動くブデは、回避すると同時にハルバードを投げつけてきた。


 「おっと?!」

 「ふっ!!」


 予想外の攻撃に少し過剰に反応した俺の好きを見逃すことなく、ブデは懐に入ってこぶしを突き出す。


 二学期から教え始めた体術もしっかり使ってくるとは、やるじゃないか。


 俺はブデの拳を足で横に流すと、ブデの勢いを使ってそのまま転ばせる。


 奇襲が失敗したブデだったが、ブデは急いで立ち上がると俺の追撃に備えて構えを取った。


 最初の頃に比べて、格段に強くなったな。金級とまでは行かないが、銀級冒険者の上位並の強さになっている。


 この学園の生徒どころか、教師が相手でも問題なく戦えるだろう。


 「やるじゃないかブデ。武器を投げてくるとは思わなかったぞ」

 「先生が“相手の虚をつけ”ってよく言ってましたからね。ハルバードを投げれば、少しは怯むかなと思って。結果は軽くあしらわれましたが」

 「いや、いい判断だ。多対一では使えない戦法だけど、タイマンなら十分に効果があるさ。あとは、武器の回収方法を考えておくといい。遠くに弾き飛ばされると、その後の戦いが不利になる場合があるぞ」

 「はい!!考えておきまふ」


 ブデは元気よく返事をすると、地面に転がるハルバードを拾い上げる。


 最初はランニングをするだけでもゼーハー言っていた子が、たった1年足らずでここまで強くなれるとは。


 その子に合った戦い方と基礎能力の向上に勤めれば、才能の無い生徒でもここまで強くなれると言うのに。


 俺はそう思いながら他の生徒たちに目を向ける。


 「いい動きだねぇ。最初と比べて自分の動きについていけてるし、ちゃんとフェイントもかけれてる。でも、ちょっと単調かな?ほら、そこ」

 「うわぁぁぁ?!」


 圧倒的速さで花音を攻撃するミミルだったが、足を掴まれて宙に投げ飛ばされていた。


 これが出会ってまもない頃なら、地面に激突していた事だろう。だが、今のミミルならば空中で体制を整え、柔らかく地面に降り立つことが出来る。


 「先生やっぱり強すぎー。勝てないよー」

 「そもそも勝とうと思わないでよ。仮にも私達は世界最強なんだから。戦いの基礎を1年学んだだけのペーペーに負けたら名折れだよ」

 「それはそうだけどー。生徒に花を持たせようって気は無いのー?」

 「それは武道大会でミミル自身が持つものだよ。大丈夫。その花を持つ資格はあるから、あとは手を伸ばすだけさ。頑張れ」

 「頑張るけど、その時は先生も応援してくれる?」

 「もちろん!!教え子の晴れ舞台を応援しない先生は先生じゃないよ」


 花音の言葉に、ミミルは笑顔を見せて喜ぶ。


 武道大会が楽しみだな。落ちこぼれと言われた生徒達が、大会を荒らしまくるその日が待ちきれない。


 そんなことを思っていると、ドーンと空気を揺らす爆発音が響き渡る。


 普通ならば何事かと音のする方に視線を向けるのだが、ここの生徒達は皆慣れているので反応すらしてなかった。


 人間、慣れって恐ろしい。


 「マジでウザったい戦い方だね........ちょっとイラついてきたかも」

 「そうですか?ラファ先生にそう言われると嬉しいですね。ほら、足元地雷がありますよ」

 「へ?うわっ!!」


 ドーン、ドーンドーン!!


 ことごとくラファは地雷を踏み抜き、エレノラの思うがままに動かされて誘導される。


 この補習組の中で1番変わった戦い方をするエレノラは、その技術を磨きに磨き上げてきた。


 魔物を爆破することに快感を覚えてしまうド変態だが、その実力は補習科の中ではトップ。


 威力を度外視した爆弾を使えば、俺たちにすら傷を与えることができるだろう。


 そんなエレノラは、その戦い方が実に嫌らしい。


 煙爆弾を展開して地面に地雷を仕込み、相手がそれを確実に踏むように爆弾を投げて誘導する。


 投げられた爆弾も当たると俺達でも少し痛いので、反射的に避けてしまう瞬間がどうてしも出てくる。


 そんなればエレノラの独壇場だ。


 避けた先の地雷を踏み、ダメージを貰うと同時にさらなる爆弾が降ってくる。


 それを避けてしまうとさらに地雷に突っ込み爆破され........の無限ループだ。


 俺達ならば力技でどうとでもなるが、これがブデ達となるとどうしようもない。


 何度か生徒同士で戦わせたことがあるのだが、エレノラの圧勝だった。


 皆が自分なりにエレノラの対策をして戦いに望んだのだが、エレノラの爆弾はとにかく種類が多すぎる。


 風魔法で吹き飛ばそうすれば、地面に埋め込まれた地雷を避けれないしなんなら風に対して強い構造の爆弾も降ってくる。


 俺はよく分からないが、エレノラ曰く“魔術で空気抵抗を無くす”らしい。


 なるほどわからん。


 他にも、素早い動きでエレノラに近づく選択を取った生徒(ミミル)もいたが、そもそもエレノラは体術も強い。


 袖に仕込んだナイフによる武器への対処と、純粋に強い格闘術。さらに前方のみに爆破をさせる特殊爆弾などを駆使されるとどうしようもない。


 唯一そこそこ戦えていたのはブデだけだったが、ブデも高い耐久力でのゴリ押し戦法だった。


 まぁ、それでも勝てなかったんですけどね。


 最初こそ、エレノラがこの中ではいちばん弱かったのだが、上手い感じに化けたな。


 「ほら、次は右」

 「うへぇ!!」

 「次は左」

 「ほわっ!!」

 「下からもありますよ」

 「ちょっ!!」

 「あ、上からもあります」

 「いてて!!」


 やりたい放題されるラファ。ラファはこう言う読み合いが苦手だからな........


 オセロとかやってても、大体ゴリ押ししてきて負けてるし。


 「もぉ!!こうなったら突撃だよ!!」

 「うわっ、私が一番困るやつじゃないですか。最高威力の爆弾を持ってしても“痛い”だけで済む相手にどうしろと?」


 エレノラはそう言いつつも爆弾を投げまくるが、やはり覚悟を決めて突撃してくるラファを止めるには至らない。


 「よっと」

 「へ?」


 肉薄すればこちらのものと言わんばかりに、ラファはエレノラが目で追えない速さで投げ飛ばす。


 地面に背中をつけたエレノラが何が起きたのか分からず、フリーズしていた。


 「うん。教えることは無いかな。私には無理!!」

 「教師がそれでいいんですか?」


 特殊すぎるエレノラの戦い方に何か手を加えることが思いつかなかったラファは、全てを諦めて胸を張るのだった。

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