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六番大天使

 夏休みも終盤に差し掛かった頃、俺達は本拠点であるバルサルの近くの森に帰ってきていた。


 毎週のように帰ってきてはいるが、今の生活は首都が主なのでこちらが別荘という感覚になってきている。


 イスが学園を卒業するまではこの生活が続くはずだから、もう暫くはこの違和感と戦うことになるだろう。


 「あれ?スンダル髪型変えた?」

 「あら、気づいてくれるとは嬉しわね。久々に気分転換してみたのよ。どう?似合うかしら?」


 ぶらぶらと森の中を歩いていると、吸血鬼夫婦と出くわす。


 このアル中共は、俺がこの家にいないからと言って毎日の様に酒を飲んだくれていた。


 吸血鬼で厄災級魔物出あるからと言って、酒に酔わない訳では無い。


 先々週辺りに、酔っ払って家の一部を破壊した時は流石に罰を与えたものである。


 酒は飲んでも呑まれるな。


 この格言を作った偉人は偉大だな。


 俺はそんなことを思いつつも、サイドテールにまとめ上げられた漆黒の髪をしみじみと眺める。


 年齢を考えれば、間違いなくそんな事をする歳ではないが、見た目は20代にしか見えない美貌を持っていればそんなことは関係ない。


 俺は純粋に褒めておいた。


 「似合ってるぞ。普段のおしとやかな雰囲気とは違って、活発的な感じがしていいんじゃないか?」

 「流石はカノンを褒め慣れてるだけあって、言葉のチョイスが的確ね。ストリゴイなんて、“いいんじゃないか?まぁ、我は髪を下ろした方が好きだがな!!”って言うのよ?........ねぇ?」

 「ふ、フハハハ........乙女心というものが分かっておらず、大変申し訳ございませんでした」


 スンダルに睨まれ、捕食者に怯える小動物のように縮こまるストリゴイ。


 あの反応から見るに、それはもうミッチリと扱かれたのだろう。


 女の人ってマジで怖いからな。特に、髪型を変えた時なんかは、褒め方を間違えると死ねる。


 俺が相手なら基本的なんでも許してくれる花音ですら、褒め方を間違えると怒るのだ。


 女の人、コワイ........


 俺は睨まれて縮こまるストリゴイを助けるために、会話を続ける。


 普段は堂々としているストリゴイが、ここまで小さくなっているのは見るに絶えなかった。


 「で、なんでまた急にイメチェンを?」

 「シルフォードとラナーに言われてね。年頃の女の子だからか、髪型の話について最近よく相談を受けるのよ。そうしたら、ちょっと昔を思い出して若返ってみたわ」

 「へー、シルフォードとラナーがねぇ........トリスは?」


 年齢の話に触れるのは自殺行為なので、そこは華麗にスルーしつつシルフォード達の話を聞く。


 年頃の女の子........シルフォードもラナーも50年近く生きてるダークエルフなんですけど。とは、突っ込んでは行けない。


 「あの子はそんな事に欠片も興味が無いわ。ケルベロスと遊べればいいって感じね。偶に話に交じってるけど、目が死んでるわ」

 「あぁ、うん。なんとなく想像ができるよ」


 トリスは男勝りな所があるからな。身なりとか全く気にしない元気な子というイメージが強い。


 身なりに金をかける暇があるなら、沢山食べて遊びたいってる思ってそうだ。


 トリスノ末っ子感が凄いと思っていると、スンダルは少し困り顔で頬に手を当てる。


 僅かな仕草でも様になるのは、やはりかつては王妃だったからだろうか。


 「でもねぇ、シルフォードはともかくラナーはちょっと歪んでるのよね」

 「歪んでる?」

 「ほら、私達の傭兵団って基本人外ばかりじゃない。シルフォードはエドストルが居るから、ちゃんとした恋愛ができるのだけれど、ラナーはどうもジャバウォックの事が好きみたいでね........」

 「友人として好きの“好き”じゃなくて、恋愛の“好き”って事か?」

 「多分ね。まぁ、個人の自由よ?世の中には動物と結婚するような人も居るって聞くのだし。でも、歪んだ愛って大抵ロクな事にならないわ」


 歪んだ愛と言うか、歪んだ性癖ですね。それは。


 どうしてウチの傭兵団にはこう言う、世間一般から見た異常者が多く集まるのだろうか。


 元々は普通だったはずの黒百合さんも歪んでるし、ラナーも歪んでる。なんなら、花音も歪んでいるだろう。


 間違っても言わないが、スンダルもまぁまぁ歪んでいる。ストリゴイの事を愛しているのは知っているが、君、ストリゴイを下に引くことに快感を覚える経ちでしょ。


 本人(ストリゴイ)から聞いてるぞ。


 俺は、ストリゴイもジャバウォックも大変だなと思いつつ、スンダルに言葉を返す。


 「結局は本人同士の問題だな。不仲じゃなきゃそれでいいさ」

 「そう?ならいいけど」


 本人同士が幸せならそれでいいだろ。他人に迷惑をかけない限りは。


 俺は、この傭兵団の恋愛事情がまぁまぁ終わっていることに気づき、合コンでも開こうかと割と本気で考えるのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 七大天使(グレゴリウス)の1人、“六番大天使(サリエル)”は静かに本を閉じると、天井を眺める。


 天使達の勢力争いに使われているこの城の中で、唯一気の抜ける場所である自室は六番大天使(サリエル)にとって安息の地だった。


 「やってらんねぇよ。大天使になったってのに、面倒事ばかりが出てきやがって。俺は官僚じゃないっての」


 六番大天使の派閥は2番目に大きい派閥であり、今最も勢いのある天使達の集まりだ。


 日和見主義者達とは違い精力的に動くことをアピールする事で、若い天使たちの心をつかみここまで上がってきた。


 古くからの天使達からは嫌われているが、若い天使からは好かれる。


 それが六番大天使である。


 「あぁ、五番の若造も七番のジジィもこちらが動こうとすると牽制してきやがて。クソほど面倒い。俺が天界の王となった日には、こいつらは絶対に殺してやる」


 六番大天使は、天界の王となりたかった。


 かつてはスラム街で木をかじる程の貧しい生活を強いられていた少年だが、5歳の時に発現した天使の異能のお陰で今ここにいる。


 あれほど貧しい思いは二度としたくない。例え他者を蹴落としたとしてでも、自分の幸福を掴む。それが、六番大天使という男だ。


 その為ならば、手段を問わず。自分たちを崇める人間を利用し金を集め、古臭い考えを持つ天使達を影で殺す。


 今の考えに反するもの達の粛清も、彼が行ってきた。


 “女神の使徒”と呼ばれ、神聖視される天使とは到底思えない行動。

 

 だが、若者からの支持は厚く、表では天使のことを考える良き天使として振舞っていた。


 「四番をこっちに引き込めれば形成が傾く。だが、奴らもそれが分かってるから邪魔をして来る。救いは、一番と二番が介入してこないことだな。日和見主義者と言われるだけはあるぜ」


 六番大天使はそう言うと、休憩は終わりと言わんばかりに書類を取りだして仕事に取り掛かる。


 彼はまだ知らない。天使すらも圧倒する人でありながら人ならざる存在が、牙を向いていることに。


 かつての己の行いが自分の首をして始めていることに、まだ気づいていない。


 それを知るのは、もう1年後の話だ。


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