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イスの夏休み⑧

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む陽の光で目が覚めたリーゼンは、ゆっくりと体を持ち上げる。


 朝には強いリーゼンだったが、この日ばかりは少し眠たそうにしていた。


 主な理由は2つ。夜遅くまでイス達と話していたという事と、夜中に娘達の寝顔を見に来た母親のせいである。


 強くなり、人の気配を敏感に感じ取れるようになったリーゼンは、カエナルが夜中に態々自分の部屋にやってきた事を察知して起きてしまった。


 静かに騒ぐカエナルに、いらだちを覚えながらも寝たフリを続けていたリーゼン。


 寝るのが遅かった事もあり、明らかな寝不足に陥っていたのだ。


 「まさか、寝ている姿を見に来るとは思わなかったわ。後で絶対に文句を言ってやる」

 「おはようなの」

 「おはよう。イスちゃん。ごめんね昨日はお母様が」

 「大丈夫なの。寝顔を見に来てただけなの」


 リーゼンが起きたと同時に目が覚めたイスは、元気よく体を起こすと普段見れない寝癖まみれのリーゼンに新鮮さを覚える。


 普段はしっかりと整っている髪がボサボサになっている姿は、あの可憐で真面目なリーゼンのイメージとはかけ離れていた。


 特に、未だ眠たげな顔はいつも以上に可愛らしい。


 イスは隣で眠るメレッタを起こさないようにベッドから出ると、大きく伸びをして全身を解した。


 「イスちゃんは元気そうね。私はまだまだ眠いわ」

 「リーゼンとは体の作りが違うの。その気になれば、何年も寝なくても私は大丈夫なの」

 「........それは凄いわね。根本的に違うのね」


 リーゼンは人間とドラゴンの違いに驚きつつ、ベッドで眠るメレッタに視線を向ける。


 小さく口を開けて規則正しい呼吸をしながら眠るメレッタは、想像以上に可愛かった。


 突如として居なくなったイスを探しているのか、その手を動かして何かを探している。


 リーゼンは興味本位でその手を握ると、メレッタはその手を引き付けて抱き枕のようにリーゼンを抱き抱えた。


 普段のリーゼンならば反応できただろうが、寝起きで頭が回っておらず、完全な不意打ちだった為、リーゼンはされるがまま抱き枕となる。


 「ちょっ、メレッタちゃん?」

 「おぉ、とっても俊敏だったの。捕食者並の速さだったの」

 「それ、私が餌ってことじゃない。それにしても、いい匂いがするわね........何か特別なケアでもしてるのかしら?」

 「リーゼンちゃんもメレッタちゃんもいい匂いがするの」

 「あら、イスちゃんも女の子特有のいい匂いがするわよ?優しく落ち着く匂いが」


 リーゼンはそう言って、メレッタの首筋に鼻を当てる。


 メレッタの抱擁は想像以上に固く、とてもでは無いが振り解けそうになかった。ならば、この間少し楽しもうとリーゼンは気持ちを切り替える。


 「ホント、メレッタちゃんは可愛いわね。寝顔を見て喜んでたお母様の気持ちが少し分かるかも」

 「ん........んぇ?」


 ここでようやくメレッタも目を覚ます。ボヤっとしながら目を覚ますが、朝が弱いメレッタは自分がリーゼンを抱き抱えている事に気づかず、もう一度リーゼンを強く抱き締めて寝ようとした。


 これには、流石のリーゼンも苦笑いを浮かべる。


 夜、話していた時に朝に弱いとは聞いていたが、ここまで寝ぼけているとは。


 リーゼンは再びリーゼンの胸の中に顔を埋めるメレッタの頭を優しく撫でながら、耳元で囁く。


 「おはよう。メレッタちゃん」

 「んぇ?........ほはようごはいまふ........ぐぅー」

 「........この子、“おはよう”って言いながらまた寝たんだけど」

 「器用な子なの。メレッタちゃん、朝は苦手って言ってたし」

 「普段はどうやって起きてるのかしらね?お母さんに叩き起されてるのかしら?」

 「そうなんじゃない?一人暮らしとかしたら、朝起きれなくて大変そうなの」


 再び目覚めたメレッタだったが、リーゼンの顔を見て挨拶すると再び胸に顔を埋めて眠る。


 メレッタは、本当に朝がダメな子だった。


 リーゼンは、少し強めにメレッタの頬を叩きながらモーニングコールを辞めない。


 このままメレッタの寝顔を見続けるのもいいが、朝食の時間が迫ってきている。せめて、その時間までには起きていて欲しかった。


 「起きなさーい。もう朝よー」

 「んん........あと5分........」

 「ダメよ。メレッタちゃん、そう言って2.3時間は普通に寝そうだもの。ほら、起きて」

 「んみゅ」

 「全く、おねむしてる子にはお仕置なの」


 駄々をこねる子供のようにリーゼンから離れないメレッタ。リーゼンが困っていると、イスが仕方がないと首を横に振りながらメレッタの首筋に指を当てる。


 凍りつく世界の冷気がメレッタの首筋を襲い、メレッタ小さな悲鳴をあげて身体を震わせた。


 「ひうっ!!」

 「おはよーなのー。もう朝なのメレッタちゃん」

 「お眠なところ悪いんだけど、もうすぐ朝食だから起きてね」

 「あ........おはようございます。あれ?リーゼンちゃん?確か、イスちゃんが真ん中に居たはずなのに........」

 「メレッタちゃんが私を抱き枕にしてきたのよ?避けるまもなく抱き締めてくるから、そのままにしておいたの」

 「そうだったんだ........うわぁ、すごくいい匂いがするよ。イスちゃんもそうだったけど、女の子の匂いって感じだぁ」

 「メレッタちゃんもいい匂いがするわよ。さて、そろそろ起きましょう。料理人が朝食の準備をしてくれているわ」


 上目遣いでこちらを見てくるメレッタの頭を優しく一撫でしたリーゼンは、ベッドから起き上がるとイスと同じように伸びをして体を解す。


 そして、陽の光を遮っていたカーテンを勢いよく開けて朝日を全身で受け止めた。


 「いい朝ね!!今日も楽しくいきましょう」

 「今日は何するの?」

 「何しようかな?昨日はけっこう外に出て遊んだから、家でゆっくりする?」

 「いいんじゃないかしら。幸い、ジン先生が遊べるものを沢山イスちゃんに持たせたから、暇になることは無いわ」

 「おー、なら、人生ゲームとかやってみるの。2人とも気に入ると思うの」

 「人生ゲーム?よく分からないけど、面白そうね」

 「二人で戦うのかな?」

 「これは3人で遊べるの。擬似的な人生を歩むゲームなの」


 お泊まり会二日目。


 今日以上に仲を深めた少女達は、明るい声で朝の準備を進める。


 リーゼンは寝癖を直し、メレッタはメガネを探し、イスはその様子を興味深く見ていた。


 「寝癖、直すの大変そうなの」

 「ホント大変よ。羨ましいわ。イスちゃん、一つも寝癖がついてないんだもの」

 「朝起きて髪を整える事はあるけど、滅多にやらないの」

 「それでそのサラサラ髪を維持できるのは羨ましいわ........メレッタちゃんも殆ど寝癖がついてないし。もしかして、わたしは寝相が悪いのかしら?」


 こうして、イス達は朝の準備を終えて朝食を食べ終えると、日が沈むギリギリまでお泊まり会を楽しむのだった。


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