夏休み
毎日のように授業がある学園ではあるが、ちゃんと長期休暇がある。
日本の学校と同じように夏休みと冬休みという概念があり、今日から学園は夏休みに入ることとなった。
とは言っても、俺達は仕事が普通にあるのだが。
イスは朝からリーゼンとメレッタに会いに行くために家を出ており、1泊2日のお泊まり会をするらしい。
少し心配ではあるが、リーゼンめメレッタが居るならば問題ないだろう。
因みに、学園では休みに入る前に試験があるのだが、イスは全教科ほぼ満点と言う化け物じみた点数を取ってきた。
やはり、我が子の脳味噌は次元が違う。
家で多少勉強しているのは見ていたし心配もしていなかったが、全教科95点以上をもぎ取ってくるとは聞いていない。
しかも、全部応用科のテストであり、難易度もそれなりのものだった。
もちろん、上級クラスの中での順位はトップ........という訳ではなく2位。
イスよりも点数を取った奴がいるのかよと戦慄したが、イス本人は別にトップを目指している訳では無いので大して気にしてなかった。
トップの点数は一教科だけ99点で、残りは全部満点。
パーフェクトがすぎる。
もちろん、イスが学年2位を取ってきた日はエリーちゃんの店でパーティーを開き、エリーちゃん達にこれでもかとイスの事を自慢しておいた。
俺はちょっとよく覚えてないが、珍しく酒を飲んだ俺がずっとイスがいかに凄いかを語っていたのだとか。
イスがドラゴンだという事は言ってないらしいので、ただただ親バカである。
そんなことがありながらも、夏休み初日。
日本よりは過ごしやすいカラッとした天気の中、俺達は補習科の運動場に足を運んでいた。
「暑いな。ジメッとした暑さじゃないのが救いだが」
「日本は湿度が高すぎて気持ち悪いからね。アゼル共和国の気候は穏やかだから、とっても過ごしやすいよ。日本に戻れないぐらいには」
「熱を溜めやすい森の中でも比較的涼しいからな。素晴らしい国だよほんと」
アゼル共和国は比較的気候が穏やかな国であり、夏も大して暑くなく、冬もそこまで寒くない。
拠点にしているアスピドケロンの麓でも、かなり過ごしやすかったこの国を選んだのは正解だったと言えるだろう。
更に、アンスールの糸で作られたこの服は通気性抜群であり、夏は涼しく冬は魔力を込めることで暖かくなる仕様がある。
もう6年以上着込んでいるこの服も、前の世界にいた時に欲しかったな。デザインが厨二病すぎて外では着れないだろうけど。
夏であるにも関わらず長袖長ズボンである俺達を見たサラサ先生は、人では無い何かを見るような目でこちらを見る。
サラサ先生はノンスリーブの服を着ており、その活発的な雰囲気によく似合っていた。
「暑くないの?それ」
「少し暑い程度だよ。俺達の故郷よりかは断然涼しいし、この服も特注のものだからね。クソみたいに暑くても大丈夫なんだよ」
「いいなぁー。私、暑さには弱いからこの時期はいつも大変だよ。肌も焼けるし、いい事が一つもない」
「それは確かにそうかも。夏は嫌な季節だ」
あの島にいたならば、月一で気候が変わる上にとんでもなく暑いんだけどね。
サラサ先生があの島に行ったら寒暖差で悲鳴をあげそうだと思いつつ、のんびりと生徒たちを待っていると、エレノラが顔を出した。
今日から補習科は1年生も混ざってやることとなる。テストの点数があまり良くなかった1年生の生徒達が、補習科の授業に混ざるのだ。
今年は倍近い生徒が学園に入ってきた為、補習科の生徒も多い。
1学年大体5~6人なのに対して、1年生は11人の補習生がいるのだ。
「おはようございます。先生」
「おはよう。エレノラ。相変わらず爆弾を弄ってるんだな」
「それが私ですから。昨日、研究室の一角を吹っ飛ばして怒られました」
「それ、いつもの事じゃね?」
「察しがいいですね。ですが、今年はまだ5回目です」
いや、既に誤解も研究室を吹っ飛ばしてんのかよ。
錬金術(爆版に限る)の天才と言われるエレノラだが、やはり問題行動は多いようだ。
研究所に居た先生も頭抱えてるよ。ただ、あのおっさん、この前廊下でばったり会った時にエレノラがちゃんと補習科の授業を上手くやれているかの心配をしていたな。
問題児ではあるものの、教師から愛されているらしい。
........まぁ、留年してもう1年研究所を吹っ飛ばされるのが嫌なだけかもしれんが。
「なんの研究所をしてて研究所を吹っ飛ばしたんだ?」
「ナイフを刺したと同時に起爆したら強そうってことで、爆薬仕込みのナイフを作ってたんですよ。作ったはいいのですが、剣先に衝撃が行くと爆発する仕様にしたのがダメだった様でして、机の上に放置していたら誰かが机を揺らして床に落ちてしまったんですよね」
「で、そっからボカーンというわけか」
「はい。今度は魔力を込めないと起動しない様に改良したいと思います。投げナイフとして使えばいいかなと衝撃性の方を作ってみたのですが、あの様子だと戦闘中の衝撃で私が爆発に巻き込まれそうですし」
「うん。そうっちの方がいいと思うよ。間違いなく」
ナイフに爆薬を仕込むという発想自体は悪くない。だが、そのやり方が不味かったな。
幸い、人に被害が及んでないので良しとしよう。お叱りはナシだ。
この頭のイカれた爆弾魔がちゃんと社会で通用する常識人にするのも、俺の仕事である。
この子、来年からは俺の家に来て教えを乞うって言ってるんですけど、実験の場所として庭を貸せとか言わないよね?
........物凄く言いそうだ。もしくは、近場の森の中で実験してそう。
森を爆破するぐらいなら、俺の目が届く場所で実験して貰った方が安心出来る。
もしかしたら、来年から我が家で爆破する音が鳴り響くかもな。
俺はそう思いながら他の生徒達も待っていると、ぞろぞろと補習科の生徒たちがやってきた。
既に補習科の授業を経験している2年生以降の生徒は堂々としており、今日から補習科の授業を受ける1年生達は不安気な表情を浮かべている。
イスの友人であるメレッタは、イスとリーゼンのシゴキによって無事に試験を突破したのでこの場にはいなかった。
補習受けてたら、今日リーゼンの家でお泊まり会なんてできないしな。
イスがどのようにメレッタに戦い方を教えているのか気になって、こっそりベオークから聞いたが、正直俺よりも教え方が上手い気がした。
魔力操作の基本、戦いにおける考え方、武器種によっての間合いなどなど。
むしろ俺が参考にするべきなんじゃないかと言うほど、レベルの高い教え方だったと言う。
ただし、ベオーク曰く“アレは戦い方と言うよりは、人の壊し方を教えているようにも見えた”とか何とか。
学園での戦闘訓練は対人以外殆どやらないので教え方としては間違ってはいないが、人外を相手する際の戦い方も教えてやれよとは思う。
とはいえ、ちゃんと実力はついているのだし俺が口を出すことでもないだろう。
イスの邪魔をして嫌われたくないし。
俺はそう思いつつも、今日の授業を始めるのだった。




