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将来が不安

 イスがぶちギレて学園を凍らせると言うトラブルがあったものの、その日の授業は問題なく進んで行った。


 学園内では今日の朝に起きた騒動によって話は持ち切りだったものの、誰一人として被害が出ていないのでそこまで大事にはなっていない。


 子供達が頑張って、学園内だけで被害を押えたのもあるだろう。


 少なくとも、街では学園の異変なんてなかったかのように人々が生活をしていた。


 後で子供達を褒めておかないとな。抑えてなかったら、おそらく街ごと凍っていたはずだ。


 そんなこんなありながら、今は四年生の授業。


 一昨日オークを単独で倒した生徒達は、自信を持って今日の授業に取り組んでいる。


 「その調子だぞブデ。随分様になってきたじゃないか」

 「あり、がとう、ござい、まふ!!」

 「無駄も随分となくなってきたし、身体強化も十分実践レベル。後はハルバードの使い方をしっかりと理解することだな」

 「ぜぇぜぇ、はい!!」


 俺に打ち込んでくるブデの攻撃を捌きつつ、俺は今後の課題を告げる。


 ブデ達の実力は既に銀級冒険者以上のものになっており、この学園でも有数の実力者となっているだろう。


 少なくとも、普通科の有象無象相手程度は簡単に叩きのめせてしまう。


 応用科の生徒相手でも、その殆どには勝てるだろう。


 もちろん、相性差などもある為、勝てない相手もいるだろうが。


 ブデはその体格からは想像ができない程素早く動きつつ、俺の隙を付いて攻撃を繰り出す。


 体重の乗ったハルバードではあるものの、厄災級魔物の攻撃には遠く及ばない。


 速さも威力も劣る攻撃を俺は片手で受け止めると、そのまま逆にブデを持ち上げて放り投げた。


 「うわぁぁぁぁぁ?!」

 「こうやって武器を掴まれた場合は、こんなふうに投げ飛ばされる可能性もある。相手の方が力が強い場合は、武器を捨てる判断もできるようになろうな」


 ボールのように地面で何度もバウンドするブデは、慌てて体制を整えると今度は拳を使って俺に襲いかかる。


 まだ戦闘終了の合図は出していない。ブデの判断は正しかった。


 俺はブデから繰り出された拳を軽くいなすと、踏み込んだ足を軽く払って転ばせる。


 ハルバードの扱いはだいぶ様になってきているが、体術に関してはまだまだ素人だった。


 「即座に殴り掛かる判断は悪くないが、動きが直線的すぎる。相手が格下なら余裕で通じるけど、格上に対しては最低限のフェイントは入れような」

 「最低限の、フェイントって、どんな感じでふか........?」

 「最初は視線だけでもいい。戦闘に慣れているやつってのは、視線を見て相手の攻撃がどのように来るのかを判断するんだ。まぁ、場合によっては違うけどそれは例外として、今のブデは攻撃する場所一点を見ていただろ?今からそこに殴りますって言うのがバレバレだ。やるなら、その一点を見つめつつ、他の場所に攻撃をしろ。それだけで、相手も警戒してくれる」

 「なるほど。目線を意識するのでふね。意識してやってみまふ」


 俺はブデにハルバードを返すと、再び掛かってくるように手招きする。


 ブデは言われたことを意識しながら、俺に向かってハルバードを突いて来た。


 目線は腹なのに、向かってくるハルバードは顔面。


 言われてすぐに実行できるだけのセンスはあるんだよなぁ。


 俺は改めて学園のレベルの高さを認識しつつも、ハルバードを避けてブデがギリギリで避けれる速さのパンチを繰り出す。


 ブデは素早く突き出したハルバードを引きながら、身体を横にして俺の拳を避けると短く持ったハルバードで腹を攻撃してきた。


 視線を確認したが、攻撃する場所にのみ目線がいっている。この目線の技術はすぐには身につかないので、最初の一撃だけでも意識してやった事は褒めてやろう。


 俺はハルバードを避けようと身をかがめたその時、後ろから何か来ていることを察知して避けるのを辞める。


 場所的に、俺が避けるとブデに当たる。


 そして、飛んできているものがなんなのか大体予想がついていた。


 ドーン!!


 ブデを庇うように後ろから飛んできた何かを背中で受け止めると、衝撃が体に伝わってくる。


 ブデの振るったハルバードは片手で受け止めているので、襲ってきた衝撃は一つだけだ。


 「せ、先生?!」

 「大丈夫、大丈夫。ちょっと誰かに押された程度だから」


 急に爆発した俺を見て、ブデは焦りながら心配する。


 元々優しい子なので、こういう時本気で心配してくれるその心は結構嬉しい。


 そして、俺はその原因となった生徒を睨みつけた。


 「エレノラ!!俺がいたから良かったものの、ブデに当たってたぞ!!」

 「ごめんなさい先生。ちょっと試作の爆弾が予想外の動きまして........」


 爆破の原因。マッドサイエンティストエレノラは、ペコペコと頭を下げて俺とブデに謝る。


 魔物を爆破する事に快感を見いだし、冒険者として活動することを決めたエレノラは、どのような状況にも対応できるように様々な爆弾を試作していた。


 元から趣味で思いついた爆弾を作っては爆発させていたのだが、“冒険者として世界を旅する”と言う目的を持ったエレノラのやる気は漲っており、普段よりも明らかに運動場を爆破する回数が増えている。


 実験の回数が多くなれば、それだけ失敗する数も多い。


 この授業中だけで、三回も誰かに向かって爆破をすると言う無差別テロを行っていた。


 俺は、どこで間違えたんだと思いつつも、楽しそうなエレノラに頭を抱える。


 その子、卒業してからも俺に教えを乞うつもりらしいんだけど。


 その1年で、少しは性格を治さなければならないと思いつつ俺はエレノラに話しかけた。


 「........今度は何をやったんだ?」

 「遠距離も狙える爆弾の開発をしようかと思いまして、とりあえず推進力を得るために普段の爆弾に、噴出する爆弾を取り付けました。ですが、制御ができない上に飛距離も伸びません。改善点が沢山ですね」

 「........因みに、どのぐらいの威力でどのぐらいの射程を目指しているのか聞いてもいいか?」

 「理想は一発で半径10メートル程を吹っ飛ばせる威力、射程は隣国にまで行けば十分じゃないでしょうか。それを量産出来れば、雨のように爆弾を降らせることができます。こちらは一切被害を出さずに一方的に嬲れますよ」


 この子、この世界でミサイル作ろうとしてるんだけど。


 銃も無いこの世界で、先にミサイルを飛ばそうとするその発想力は素晴らしい。


 が、あまりにもオーバーテクノロジー過ぎる。


 この爆弾が完成した日には、戦争のあり方が変わってしまいそうだ。


 「エレノラ、誰でも作れる様なものをつくるなよ?」

 「大丈夫です。私の能力にしか反応しない爆弾以外は作りませんから。だってほら、私が作った物を誰かに使われるとか気持ち悪いでしょ?」

 「お、おう?そうだな」


 変態は変なこだわりがあるとは聞いた事があるが、エレノラも変なこだわりを持ってるんだな........


 俺はエレノラの将来が心配しなりつつも、授業を再開するのだった。

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