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イスの学園生活⑪

 燦々とてるつける太陽が眠気を誘う陽気な日。誰もが暖かな光に包まれて、今日と言う日を過ごそうとする中、唯一学園だけは冥界の如く凍り付く。


 ブチ切れたイスの手によって凍り付いた学園は、何が起きたのか分からない者達ばかりだ。


 この状況を理解出来ているのは、隣でイスがキレた事を察したメレッタとイスの力を知っているリーゼン、そしてイス本人とその影の中に潜む護衛ぐらいだろう。


 氷の世界の女王によって死を告げられた愚かな3人組だったが、彼女達が息の根を止めることは無かった。


 腰を抜かし、尻もちを着いて震える3人の少し手前で氷は止まっている。


 これは、イスが冷静で手加減したのでは無い。


 イスは周囲すらも殺せる殺気を自身の影の中に向けると、ドスの効いた声で邪魔をした者に話しかけた。


 「邪魔すんな。お前も殺すぞベオーク」

『落ち着け。イスがキレるのは分かるけど、ここで殺すのは不味い。ジンとカノンに迷惑を掛けたいのか?』

 「コイツらは私のパパとママを侮辱した。殺す」

『だから落ち着けって。誰も殺すなとは言ってない。今この場で殺すなと言ってる』


 イスの殺気に反応して、被害を最小限に抑えたのはベオークとその子供達だ。


 影の中からベオークは深淵を使い、ギリギリのところでバカ三人を助け出している。


 そして、子供達も学園内だけで被害が収まるように死力を尽くした。


 もし、ベオークと子供たちの頑張りがなければ、今頃この街の全てが凍り付いていただろう。


(危なかった。攻撃の余波だけで街全てが凍る所だった。念の為にイスについて行って正解。もし、ワタシが居なかったらこの三人は死んでた上に、この街にも被害が出ていたかも)


 既に、学園には被害が出ているのだが、それは見て見ぬふりをするしかない。


 むしろ、厄災級魔物の割と本気の攻撃を、これだけの被害で抑えた事を褒めて欲しいぐらいだ。


 「........」


 何も言わず、ベオークに殺気だけを向けるイス。


 常人ならばそれだけで倒れてしまうだろうが、ベオークは厄災級魔物相手にも渡り合える最上級魔物だ。


 この程度で恐れることは無い。


 ベオークはイスの怒りを収めさせるために、言葉を選びながら話す。


『ここで騒ぎを起こせば、間違いなくジンとカノンに話が行く。今なら、誤魔化せるけど、殺せば犯人探しが始まる。そうなれば、二人にも責任が飛んでくる』

 「........」

『今は矛を収めるべき。殺すのはいつでも出来る』

 「........チッ、分かった」


 ベオークの説得のかいもあり、イスは能力を解除する。


 既に騒ぎになっているのだが、イスの攻撃が早すぎて誰がこの事態を起こしたのかは誰もわかっていない。


 犯人探しは始まってしまうだろうが、誤魔化しは幾らでも効くだろう。


 イスはイラつきながらも能力を解除し、座り込んで怯える3人組に近づく。


 空気と化していたメレッタも、手を繋がれている為イスの後に続く形となった。


 「ヒッ........」


 怯える三人。しかし、体が動かない。


 ドラゴンに睨みつけられた蛙は、ただ震えてドラゴンの怒りが静まるのを待つしか出来なかった。


 そんな三人にイスは顔を近づけると、ドスの効いた声で(殺気を当てながら)耳元で囁く。


 「このことを話したら殺す。そして、次は確実に殺す。分かったか」

 「........は、はいぃ」


 恐怖のあまり、地面に水溜まりを作る3人組。


 イスは不満タラタラながらも、“ここで殺すよりも、長く苦しめた方がいいか”と思い一先ずは矛を収めた。


 そんなやり取りをしたすぐ後、学園で何が起きたのかを察したリーゼンがイスの元にやってくる。


 リーゼンは既に教室に居たのだが、瞬間的に膨れ上がる魔力と凍り付いた学園を見て、イスがなにかやらかしたと即座に察知した。


 そして、教室を飛び出し、魔力の反応があったところに向かったのだ。


 「イスちゃん!!」

 「お、リーゼンちゃん。おはようなの」


 焦るリーゼンと、普段通りに挨拶をするイス。


 しかし、その顔は明らかにイラッとしているのが見て取れた。


 「おはよう。イスちゃん。それで?何をやらかしたのかしら?」


 リーゼンはイスの裏で怯える3人を見て、何があったのかを大体察しながらも念の為に聞く。


 どうせあの3人が余計なことを言ったのだろうと予想したが、まさしくその通りだった。


 「あのゴミ共が私のパパとママを侮辱したの。だから、ちょっとお灸を据えてやったの」

 「お灸を据えるって言うか、殺しに行ってるように感じたけどね.......イスちゃんの前で先生を悪く言うとか、自殺願望でもあるのかしら?」


 リーゼンは、長年の付き合いでイスが両親の事を悪く言われるとキレることを薄々察している。


 だからこそ、仁と花音の話題は失言がないように気をつけるのだが、彼女たちは見事にその地雷を踏み抜いたらしい。


 「んー、見覚えのない顔ね。誰かしら?」

 「レナータって言ってたの。メレッタを虐めてる、人間の風上にも置けないクソなの」

 「メレッタ?イスちゃんとの会話でちょくちょく出てくる子ね。その手を握ってる子がそうかしら?」

 「え、あ、その、えっと、め、メレッタです。よろしくお願いします。リーゼンさん」

 「よろしくメレッタちゃん。貴方、可愛い顔してるわね」

 「へ?い、いや、リーゼンさんには及ばないです........」


 人見知りを発揮し段々と声が小さくなっていくメレッタを見て、リーゼンは面白い子だなと思いつつもレナータという名前を必死に思い出す。


 それでも思い出せずにいると、レナータ本人が騒ぎ出した。


 「わ、私にこんな事をして許されると思ってるの!!私のお父様はシエル商会の会長なのよ?!お父様に言いつけて、やるわ!!」


 シエル商会。首都にも店舗こそあれどあまり人気のない店であり、辺境の田舎でしか力を持たない小さな商会。


 レナータは辺境育ちであり、辺境では自分が一番だった為勘違いしている。


 あまりにも馬鹿すぎる啖呵をきったレナータを見て、リーゼンは呆れ笑いを浮かべながらレナータを指さした。


 「あんな目にあったのにこんなに元気だなんて、単純に状況が把握出来ない馬鹿なのか、それとも大物なのか。どっちだと思う?」

 「圧倒的に前者なの。馬鹿ならそもそも絡んでこないの」

 「わ、私もそう思います........」


 あまりにも状況把握ができていないレナータに呆れかえり、ある意味大物なのでは?と思うリーゼンは、シエル商会の名前だけ覚えておくと静かに笑う。


 もう暫くすれば、大きな商会が手に入る。次いでに、辺境に手を伸ばすのもいいかもしれない。


 それに、イスが望むような堕ち方をしてくれるだろう。あれは、ベルルンよりも馬鹿に見えた。


 「行きましょ。あんな馬鹿に構ってると私達まで馬鹿になるわ」

 「分かったの........あ、そうだ。メレッタ、あの(アマ)の顔を殴り飛ばしたくない?」

 「はい?」

 「おー、やっぱり殴り飛ばしたいの。よし、なら、ちょっと鍛えるの。体を鍛えれば、建築にも役立つの」

 「あら、それはいいわね。先生は........忙しそうだから、私達で教えましょうか。基礎だけなら教わったとおりにやればいいしね」

 「え?ちょ........え?」


 肯定の“はい”ではなく疑問の“はい?”だったのだが、イスは聞き間違いをしてしまった。


 結局、メレッタは否定することが出来ず“建築”の話題も出された為、なぁなぁで放課後にイス達から戦いを学ぶことになるのだった。


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