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ある意味逸材

 教師でありながら生徒である俺達の学園生活は大忙しだ。


 学園長に色々と便宜を図ってもらっているとは言え、メインは教師。授業はあくまでおまけ扱いなので、基本的には教師としての仕事が優先される。


 幸い、俺達は4人居るので最低でも1人は授業に行けるように調整をしつつ今日を過ごした。


 そして、授業で学んだことは後で教え、教えてもらう。


 今日は初めてだったのでドタバタしたものの、慣れればなんとかなるだろう。


 そんな訳で放課後。補習科に居る生徒達と俺達で今日も戦闘訓練の授業を行っていた。


 「いいぞ、昨日よりも明らかに動きが良くなってる。ビビットは万能型だからな。基礎を固めれば化けるぞ」

 「ありがとうございます!!」

 「でも、動きがセオリー通り過ぎるな。教科書通りのフェイントは今がないぞ。ほら、隙だらけだ」

 「うわっ!!」


 俺は剣を振るうビビットの懐に入り込むと、剣の柄を押し上げてバランスを崩させる。


 ビビットは何とか転ばないように踏みとどまったが、ズレた重心を少し押してやれば簡単に尻もちを着く。


 「ビビットは良くも悪くも基本に忠実だな。もう少しオリジナリティーが有れば、多少はマシになる」

 「それは教えてくれないんですか?」

 「こればかりは自分で考えるしかないな。フェイントの掛け方や戦い方ってのは、人の数だけあるんだ。自分に合ったやり方を見つけるしかない。俺が教えても、変なくせが着くだけさ。1つアドバイスをするなら、今やってる基本を応用してみるといい」

 「基本を応用する戦い方........僕にできますかね?」

 「できるさ。落ちこぼれだのなんだの言われてるが、落ちこぼれてるのは戦い方を知らないだけだ。勝ち方を見いだせれば、あっという間に見る世界が変わるぞ」


 俺はそう言うと、ビビットのために考えていた練習メニューが書かれた紙を渡す。


 リーゼンお嬢様の時のように、ゴリゴリに詰めた練習メニューではないが、これをやるとやらないとでは今後かなりの差が出るだろう。


 先ずは全ての基盤となる魔力操作からだ。


 「まぁ、フェイント云々は一先ず置いておいて、ここに書いてある事を毎日やってみろ。いけ好かない連中を叩きのめすのに必要なのは、基礎の底上げだ」

 「分かりました........意外とメニューは少ないんですね」

 「学生の本分は勉強だろ?戦闘訓練にかまけて、他の教科も補習になりましたなんて笑い話にもならないからな」

 「なるほど。確かにそれは笑えないですね........」


 四年生は皆真面目だ。自主練メニューを各自に渡したが、恐らく全員ちゃんと毎日やるだろう。


 特にやる気に満ち溢れているブデなんかは、下手したらメニュー以上にやってくるかもな。


 彼は聞いた話によると、勉強はとてもできるらしい。


 授業とその日出された課題をやる以外に勉強をやっていないにもかかわらず、テストの点数は毎回9割を超えているんだとか。


 運動以外は完璧なんだな。運動以外は。


 「ブデ君、身体強化があまり得意じゃないねぇ。無駄な魔力が多すぎる上に、強化率も高くないよ」

 「ふ、ふいません........今まで魔力操作を怠ってきたもので........」

 「今からやればいいんだよ。遅いなんてことは無いしね。それに、上達は早そうだし」

 「毎日死ぬ気で頑張りまふ!!」

 「うんうん。健康には気をつけてね?」


 やる気に満ち溢れるブデと、あまりの熱量に若干引き気味の花音。


 そのやる気が空回りしない事を祈っておこう。


 俺が他の生徒たちの様子を見ていると、サラサ先生がこちらへやってくる。


 新米の教師である俺達に嫌な顔ひとつすることなく、接してくれる聖人のようなサラサ先生はビッシリと文字で埋まっていたノートを開いて俺に質問してきた。


 「あの、魔力操作や身体強化も教えてるんですが、どうしても上手くいかなくて........何か教える時のコツとがあるかな?」

 「特に無いかな。強いて言うなら、魔力操作が上達すれば自然と身体強化も上手くなるって事ぐらいで。魔力操作も結局は本人の才能と努力次第な上に、感覚的な問題だから教えるのは難しいんだよ。でも、毎日やる事は必要だから、授業に魔力操作を行う時間を取り入れてみたらいいんじゃない?」

 「何か意識することとかないの?」

 「なるべく早く自身の体内で魔力を回せるようになることと、魔力を外に出した際に長く維持し続ける事かな。ドロドロとした粘液じゃなくて、水のようになめらかに魔力を動かすことを意識するのは重要だよ」

 「なるほど!!」


 サラサ先生は大きく頷くと、ノートに向かってペンを走らせる。


 本当に真面目な人だなぁ。こんな人が生徒たちを教えるから、大体の生徒は真面目にサラサ先生の授業を受けるのだろう。


 教師の態度は生徒にも伝染するのだ。


 その点で言えば、俺や花音に戦い方の基礎を教えた師匠やアイリス団長は教師失格だ。


 だってあの人達、クッソ適当な上に言うことが“考えるな感じろ”だもん。


 今思えば、よくあの教え方でついていけたな。いや、ついて行かないとボッコボコにされてぼろ雑巾のようにされるから仕方がなかったと言うべきか。


 ドォォォォォォォォォン!!


 そんな昔のことを思い出していると、運動場の片隅でとてつもない爆発音が響き渡る。


 空気すらも揺らす爆音に生徒達は“あぁ、またか”と言う反応を見せ、慣れてない俺たちは何事かと爆発音に視線を向けた。


 「はぁはぁ、やっぱり爆破は爽快ですね。気持ちいい........」

 「エレノラ、また我慢できなくなったのー?」

 「いや違うよ、ミミル。私はちゃんと訓練してるから。ジン先生に教えられた戦い方を実践するための爆破だから」

 「一応聞くけど、その戦い方ってのは?」

 「爆破による技巧派な戦い方。罠を沢山しかけて、相手の動きを制限するの。でも、威力が低かったら意味無いでしょ?ちょっと実験をね」

 「いや、威力が高すぎて死人が出そうなんだけど........」


 あの爆弾魔は、こんな時でも爆発することしか頭にないのか。


 武闘大会に錬金術で作ったものを持ち込んではならないと言うルールが無かったので、提案した戦い方ではあるがもしかしたら俺はとんでもない化け物を生み出してしまったのかもしれない。


 頭も良く、爆破のことしか考えてない癖にやるべきことはしっかりとやる社会に適応した爆弾魔ではあるが、タガが1度でも外れればただのヤベー奴である。


 この戦い方を教えるべきじゃなかったかも。


 「ちょっと行ってきます」


 少しお話しようかエレノラ君。その威力の爆弾を武闘大会に持ち込んだら間違いなく人が死ぬ。


 「エレノラちゃん、楽しそうだね。いつもはどこか遠い星に行ってるような目をしてるのに、今は目がキラキラしてるよ。よっぽど楽しいんだろうね」

 「いや、サラサ先生?アレは一歩間違えたらテロリストになりうる人材なんで、感心しないでくれ」


 俺はサラサ先生にツッコミを入れつつ、爆弾魔の元に向かうのだった。

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