ちょっとやべー子
学園の授業が全て終わり、生徒達は放課後を楽しむ。
この学園にも部活のような放課後の集まりがあり、補習がない二年生以降の生徒達は各々が選択した部活に向かっていく。
勿論、部活に所属しない生徒達は家に帰ったり、寄り道して買い物をしたりもしていた。
一年生もその内、部活の紹介が来るだろう。俺達は教師としての仕事があるので所属できないが、イスはもしかしたら何処かに所属するのかもしれない。
リーゼンお嬢様がどこかの部活に入るってなれば、多分イスもそこに行くんだろうな。
仲のいい友人がこの部活に入るから自分も入る。部活あるあるだ。
「四年生は既に集まってるな。今日の授業と言い、真面目な子達だ」
「中にはサボる子とかも居るらしいからねぇ。あまりにサボるようだと退学させられるらしいけど、そこら辺を上手く見極める子は1人や2人のいると思うよ」
「おぉ、それドラマで見たことあるよ。熱血教師が不良生徒を更生させるやつ」
「いっぱいあり過ぎてどれか分からんし、俺も花音もドラマは見なかったからなぁ。それと、ドラマと現実じゃ違いすぎるぞ」
少しワクワクしている黒百合さんに呆れつつも、ぞろぞろと二年生、3年生も集まってきた。
サラサ先生は出席を取り始め、俺達は補習の準備を進める。
「3年生が4人と2年生が5人。今後14人の生徒を教えることになるんだな」
「今日は全員出てきてるみたいだね。二年生に1人問題児が居るらしいけど、初日は来てるみたい」
3年生は全員人間、二年生は1人だけ獣人で残りは人間。
アゼル共和国は人間の比率が大きいと言うのは知っているが、こんな所でもその差が出るんだな。
サラサ先生から聞いている問題児は2年生の獣人であり、彼は才能がありながらも全くと言っていいほどやる気が無くこの補習科に身を置いている。
よくサボるらしいが、退学にならないギリギリのラインを毎回攻めており、補習科のテストも赤点ギリギリ。
典型的な興味がなければやる気が出ない子だ。基礎戦闘で赤点を取らないギリギリのラインを取れれば、補習科なんて来なくていいんだからそっちを攻めろよとは思う。
もしかしたら別の理由があるのかもしれないな........あったとしても思いつかんが。
「はい、それじゃぁ、四年生は今日の授業で聞いたけど、知らない人の方が多いからもう一度自己紹介しよっか。ジン先生お願いいたします」
「傭兵団“揺レ動ク者”団長の仁だ。今日から補習科を教えることになったからよろしく」
「副団長の花音だよー。よろしくね」
「団員の黒百合朱那です。朱那って呼んでね」
「団員のラファだ。よろしくー」
俺達の短い挨拶にも生徒たちはしっかりと拍手を送り、今度は生徒達の自己紹介を聞く。
全員の名前をなるべく早く覚えなければならなかったので、死ぬ気で名前と顔を照らし合わせて脳裏に刻み込んだつもりではあるが、多分明日には何人か忘れてそうだな。
寝る前に花音と確認しておくか。
生徒たち全員の自己紹介が終わると、サラサ先生はウォーミングアップとして全員を走らせる。
今日の五限目にやったランニングだな。今回は俺達も走るとしよう。
ランニングを始めながら、俺は生徒達を見ていく。
走り方一つ取っても、人によって個性が出る。
ブデのように地面に足をたたきつけて走る者や、ミミルのように軽やかに跳ねる者。
ビビットのように普通に走る者もいれば、競歩をやっているのかな?と勘違いするような走り方をするヤツもいた。
「........そうだ!!アレを掛け合わせれば、もっと高い威力の爆薬を作れるのでは?よし、この後やってみよう」
........若干一名程、全く別のことを考えているヤベー奴もいるが、この子はスルーだ。
爆破に関係することしか考えられない頭の持ち主の思考回路なんて、到底理解できる気がしない。
この14人の中で最も頭のネジが外れてるのは、まず間違いなくエレノラだろうな。
俺達はアドバイスをすることは無くランニングを終える。
走り方についてはサラサ先生が優しく教えていたし、個々にあった走り方が存在する。
さらに、この世界にはまりょくによる身体強化もあるのだ。走り方を教えるよりも、身体強化を極めさせた方が圧倒的に為になる。
もちろん、正しい走り方を身につけると言う事も間違ってはいないが。
「次は素振り。みんなしっかりと振るように!!剣を降った時どう体が動くのかを意識してね」
「「「「「はい!!」」」」」
サラサ先生の号令と共に、生徒たちは素振りを始めた。
俺達から素振りの際に意識する事を教えられた四年生は、先程とは見違えるほど剣先が鋭くなっている。
「いい感じじゃないかブデ。そうだ。ムカつくやつでいいからその面を叩き割るように振るえ。相手がいるといないとでは意識が違うからな」
「はい!!」
ブデは既に薄く汗をかきつつも、懸命に剣を振るう。
最初よりは動きが良くなったとはいえど、まだまだ足らないところが多すぎる。しかし、あれこれ教えすぎても混乱するだけだ。
今は、最も意識して欲しいことだけを伝えるとしよう。
懐かしいな。リーゼンお嬢様の家庭教師をしていた時も、こんな感じで最初はうごきがぎこちなかった。
今となっては金級冒険者並に強くなっているが、あの頃はヒヨッコだったもんなぁ。
あと1ヶ月もすれば、徐々にその強さが頭角を現してくるはずだ。
特に、真面目にやっている四年生は、10ヶ月もあれば全員が銀級上位の強さを手にすることが出来るだろう。
今後も真面目にやればの話だが。
素振りも終えれば、各自の特訓が始まる。
俺はとりあえず四年生の面倒を見る事にした。先ずはブデからだな。
「ブデ。君に剣は会ってない。その体が生かせる戦い方を教えてやろう」
「え、痩せろとか言わないんでふか?」
「馬鹿野郎。痩せたらせっかくの強みが無くなるだろうが。その体重で相手を叩き潰す戦い方と、異能を生かした戦い方を身につけるんだよ」
俺はそう言うと、木でできたハルバードをブデに手渡す。
ハルバードを使う生徒があまりにも少なすぎた為か、探してくるのが大変だった。しかも、少し壊れ気味であり、買い替えが必要だろう。
こんなことなら、ドッペルに作って貰えばよかったな。ドッペルなら、1時間の間に素早く作り上げてくれただろう。
輸送は子供達に任せればいいんだし、今度からそうしよ。
「コレは........?」
「ハルバード。知らないか?」
「いえ、知ってまふけど........槍より剣の方が小回りが効くってサラサ先生が」
「それは間違ってないし、基本は剣の方が使い易いよ。でも、ブデの体格とパワー、それに耐久力を考えればハルバードの方が圧倒的にいい。それに、ハルバードも小回りは聞くんだぜ?」
「そうなんでふか?」
「持ち方と己の技量次第だ。幸い、お前は目がいい。相手の動きに合わせた防御が出来て、破壊力も身につけたとなれば向かうところ敵無しだぞ。安心しろ。俺は全武器を使えるように訓練してるからな。魔法だけは無理だが」
「魔法も使えたらビックリでふよ。それは最早人では無いでふ」
意外と軽口も叩けるブデに驚きつつも、この日は四年生全員の個性に合った戦い方を教えるのだった。
爆弾魔のエレノラに教えるのが1番苦労したが、彼女の興味を引ける戦い方を教えられたので結構満足である。




