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イスの学園生活④

 時間は少し遡り、昼放課前の四限目。


 応用歴史の授業を受けいたイスは、教師の退屈な授業に欠伸を我慢していた。


(やっぱり歴史はつまらないなぁ)


 イスにとって、歴史とは死ぬ程どうでもいい話である。


 過去に誰が何をしていようが今を生きるイス達に何か影響を及ぼすものではなく、過去の歴史や偉人から学ぶべきものもない。


 そしてなりより、ファフニールやニーズヘッグから聞くこの世界の歴史の方が圧倒的に面白かった。


 所詮は小国であるアゼル共和国の歴史を細々とされるよりも、世界全体の歴史を聞いていた方がロマンを感じる。


 特に、ニーズヘッグの話は最高に面白い。


 ニーズヘッグ本人の話し方がとても上手ということもあって、歴史の話を聞いているだけなのに物語を聞いている気分になった。


 ニーズヘッグが沈めたとある大陸や、それに伴う戦いの数々。天使との戦いに、ファフニール以外の“原初”とのやり取り。


 そのどれもが人の歴史に語られることの無いものであり、全てが真実なのだ。


(ニーズヘッグと比べると劣るなぁ。リーゼンちゃんの歴史の授業の方がよっぽど面白いし)


 実際に見聞きしたのに加え己が体験した事を語るニーズヘッグと、書物でしか見たことの無い教師の話ではリアリティーも無ければ小話もない。


 リーゼンのように分かりやすく冗談を混じえながら流れで教えてくれる訳でも無く、ただ淡々と教科書に書いてある事を読むだけ。


 イスでなくとも退屈になるだろう。


 実際、隣の席に座るリーゼンは歴史の授業に飽きてペラペラと他のページを見ている。


(これから四年間、この退屈な授業を聞くのは疲れる。早く、明日にならないかな)


 明日は選択科目の授業だ。イスが最も楽しみにしている授業であり、質の高さも伺えるものが多い。


 イスの計画にある、自らの世界だけで全てを自給自足できる理想郷を作り上げる為の第一歩となる。


 「つまり、アゼル共和国は元々王国だったという訳です。ではなぜ今のような──────────」


 淡々と教科書を読み上げる授業。そんな退屈な授業も、1時間すれば終わりを迎える。


 昼放課を告げるチャイムがなると、教師は教科書を閉じて授業を締めくくった。


 「それでは授業を終わりましょう。次は10ページから始めるので、予習を忘れないように。それでは、また次の授業で」


 教師はそう言うと荷物をまとめて教室を出ていく。彼の授業はつまらないが、唯一いい点として、授業がどんなにキリが悪くとも時間通りに終わる事だった。


 もし、授業を良く延長する教師であったなら、生徒達から相当嫌われていた事だろう。


 「ようやく終わったわね。クソが着くレベルで退屈だったわ。イスちゃん、良く真面目に話を聞いていられるわね」

 「一応て聞いてるけど、大抵は他の事を考えてるの。凄いねあの先生。リーゼンちゃんがやった方が数十倍は面白いの」

 「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。私は教師の才能があるって事かしら?」

 「少なくとも歴史に関してはね。他の授業はパパとママの方が面白いの」


 イスがそう言うと、リーゼンは苦笑いを浮かべる。


 そりゃ、大好きな仁と花音が入ればどんな退屈なことだって楽しいだろうよ。とリーゼンは心の中で思いつつ、話題を逸らした。


 「さ、お昼よ。学食に行きましょう!!ここの学食派とても美味しいのよ?」

 「へぇ、エリーちゃんのとこよりも?」

 「んー、同じぐらいより少し劣るぐらいかしら。でも、学食は学生向けにかなり安くて多くなってるから、値段の面で見ればこっちの圧勝ね」

 「値段を個人経営店と学園を比べたらダメなの。個人経営店は余程強いコネがなければ、安く仕入れて安く提供するのは厳しいの」

 「........よく知ってるわね」

 「ママが言ってたの。大きな店は大量に安く仕入れるから提供する値段が安くなっても利益が十分に出るけど、小さな店はそれが出来ないから他で勝負するしかないって」


 一体親子でどんな会話をしているんだ。とリーゼンパ思うものの、自分も父親や母親に経営の話をしたりするので似たようなものかと納得する。


 リーゼンも店をいくつか持っているが、そのどれもが父親のコネを使って安く仕入れたのものだ。


 今では独自のコネがあるので問題ないが、最初の頃はかなり苦労したのを覚えている。


 「カノン先生と言いジン先生と言い、物事をよく知ってるわよねぇ。流石は先生だわ」

 「パパもママも色んなことを知ってるの」


 2人は仲良く話しながら学食はと向かうと、そこは生徒たちで溢れかえっていた。


 見渡す限りの人、人、人。あまりの人混みに、リーゼンもイスも足が止まる。


 「すごい人の数ね。ちょっと多すぎてビビるわ」

 「人混み、求められる握手やサイン........うっ頭が」

 「イスちゃん?!しっかりして!!」


 人混みを見て少し引き気味になるイスと、神聖皇国でのトラウマが蘇り頭を抱えるイス。


 2人は早くも学食に来たことを後悔しつつも、昼を食べ逃せば午後の授業に支障が出るとして仕方がなく長蛇の列に並んだ。


 「こんなに人が居るなら、私の店に行けば良かったわね........明日はそうしましょう」

 「いいの?勝手に学園を出て」

 「いいのよ。昼放課中は学園の出入りは自由よ。外にご飯を食べに行ったり、家に昼ごはんを食べに帰る人が多くいるって聞いたけど、こんだけ人がいればそりゃ外に行くわよ」

 「........そう言えばリーゼンちゃんの店に言ったこと無いの。庶民向けのお手頃価格の料理店だったっけ?」

 「そうよ。昼時はいつも混むんだけど、私はオーナーだから、好きな時に食べれるわ。そうだ、私の権限でイスちゃんたちも何時でも食べられるようにしてあげる。お金は払ってもらうけどね」

 「おぉ、それは有難いの。大丈夫、お金はいっぱいあるの」


 イスは学園に行くにあたって、仁からお金を持たされている。あまりにも大金の為盗まれることのないように、態々“死と霧の世界(ヘルヘイム)”に預けているのだ。


 金額にして白金貨二枚分。


 約2億円がイスの世界で眠っている。


 金銭感覚は庶民とさほど変わらないイスとしては、こんなに大金を持たせなくてもと思うが、仁と花音が“万が一の為だ”と言って無理やり持たせたのだ。


 それを見ていた朱那は“親バカだねー”と微笑ましく見ていたが、出来れば止めてくれと思ったのは内緒である。


 「あら、そろそろ私達の番ね。並んでいる人の割に意外と早かったわ」

 「何食べよう」


 並ぶことおよそ10分。長年食堂で戦ってきたおばちゃん達の奮闘により、人が履けるスピードはとても早い。


 まだ注文の仕方に慣れない1年生が多くいた為、これでもかなり遅い方であった。


 それでも、人混みになっているのは変わらないので、今後はこの学食で食べることは滅多にないだろうが。


 「何を食べようかしらね。イスちゃんはどうする?」

 「んー、串焼き大盛りとパンとステーキ大。後はサラダの盛り合わせを2セットかな」

 「そ、そんなに食べるのね........」

 「いつもぐらいなの。直ぐに食べ終えれるし、時間も問題ないの」


 リーゼンは、それだけ食べて太らないのはずるいと思いつつ、自分が食べるものを選ぶのだった。

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