今後の課題
その後も生徒達と模擬戦をして、それぞれの課題が見えてきた。
先ずはブデ君。
彼は重量級の打たれ強いタンク職だ。実際に何発か殴らせてもらったが、どこを殴ってもほぼ無傷。
盾を持たせれば、不落の要塞ができ上がるであろう。
今後の課題としては、魔力操作と身体強化の向上。更に、彼に合った武器を見つける必要がある。
次にライジン君。
彼はとにかく臆病だ。身体能力や魔力操作は基準以上あるのだが、とにかく心が弱い。かと言って無理やり死地に放り込むことも出来ないので、何とかして彼の強さを引き出せるきっかけをつくる事が課題となる。
そして、ビビット君。
とにかく普通OF普通。全体的に基準より下の器用貧乏であるため、彼は基礎を集中的に鍛えれば大きく化ける。
多分、1番伸びしろがあるのが彼だ。
ミミルさんは、種族の特性上かなり脚が早い。が、自分の足の速さに振り回されてロクに戦えていなかった。
課題は速さになれる事。そして、その速さを生かした戦い方を身につけることである。
現状では、足の速さという強みを一切生かせていないので、それを生かせるだけの下地と経験が必要だ。
最後にエレノラさん。
この子に関しては、爆破の事しか考えていない。
授業は真面目にやっているし、能力も爆破に適している。が、爆破が好きすぎてそれ以外のことを考えてない。
ふと気を抜くと、爆破に関係する事しか考えられなくなる生粋の爆弾魔だった。
エレノラが1番大変だな。こう言う頭のネジが緩んでいる変態を、まともな道に行かせるのは大変難しい。
爆破に関係する事を戦いの中に組み込まなければ、彼女の成長は見込めないだろう。
「どう?生徒達は」
「サラサ先生の教えがいい為か、かなり基礎は出来てるね。問題は、それを生かせるだけの戦闘経験がないのと、戦い方の確立ができてない。ブデ君やミミルは戦い方を学べば化けるぞ」
「ほんと?!なら、早速教えてあげて欲しいな!!」
サラサ先生が若干前のめりになったその時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
この学園の授業は、1時間の授業と15分の休憩だ。今は五限目であり、あと一教科残っている。
そしてその後また補習だ。また一時間後には、全学年の補習科生徒達と顔を合わせることになるだろう。
........いや、一年はまだ補習組が出てないから、二年~四年までの生徒だな。
サラサ先生はチャイムが鳴ったことを確認すると、素早く授業を終わらせる。
生徒達は次の授業の準備をしたり、着替えたりしなければならないのでキッカリ終わらせなければいけないのだろう。
そういえば前の世界で授業時間が過ぎても授業をやる先生が居たが、物凄く嫌われていたな。
俺もそうならないように気をつけないと。
特に、昼放課前の時に授業を延長する先生はとてつもなく嫌われる。購買に買いに行けないから、生徒達がイラつくのだ。
ちなみに俺の花音は弁当派。龍二は購買派である。
「先生、ありがとうございました」
そんなことを考えていると、ブデが俺に挨拶をしてきた。
君は本当に真面目だな。多分、先生からは気に入られるタイプだぞ。
俺はそう思いつつ、軽く手を振って早く次の授業に行くように促す。
生徒の本分は学業。学園では彼らこそが主役であり、先生に気を使う必要は無い。
「みんな真面目だねぇ。正直、腐ってやる気のない子達ばかりだと思ってたよ」
「俺もだ。やさぐれてる生徒達を、サラサ先生が頑張って励ましながらやってるものかと思ってた」
「真面目な子達だね。ミミルちゃんとかのんびりしてるけど、ちゃんと言ったことは聞いてくれるし」
「あの中で1番の問題児はエレノラだねー。あの子爆破以外頭の中に入ってないよ」
爆破以外に興味のない錬金術師のタマゴ。将来がとても心配だな。
その内“芸術は爆発だ!!”とか言い出して、この学園を爆破したって不思議では無い。
「教師の仕事なんて初めてだったが、ちょっと楽しいな。育成プランを考えるなんてやった事ないし」
「そうだねぇ。イスは優秀過ぎて教えること無かったし、こう言うのは新鮮だねぇ」
「問題は、これを後三学年もやらなきゃならんって事か。全員が全員、四年生みたいに真面目という訳でもないだろうしな」
「腐ってる子は間違いなくいるだろうね。でも、四年生がいい見本になってくれるかも。武闘大会でいい成績を残せば、“自分達ももしかしたら”ってやる気を出してくれるんじゃない?」
「だといいな。まぁ、それは見てからのお楽しみだ」
俺はそう言うと一時間後を楽しみに待ちながら、四年生の為に色々と準備を進めるのだった。
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補習科の授業を終えたブデ達は、次の授業のために教室に向かっていた。
同じ補習科というのもあって、彼らの仲はそこそこいい。休み時間になれば、集まって話すほどには親交が深かった。
全員同時下級クラスではあるが、一つや二つ得意な科目はある。ライジンは数学がとても得意で応用科に行っているし、少し性格に問題のあるエレノラは錬金術学の首席だ。
そんな面々だが、彼らは戦いが苦手である。
特にブデは、その動きの遅さから、他の生徒達にいい的にされていた。
「今日の授業は驚いたね」
「そうだな。まさか本当に世界最強の傭兵団が来るとは思ってなかった」
「ぼ、僕も」
「すごく強かったねー」
「あの人達に爆薬投げつけたら爆ぜるのかな?」
ブデの言葉に全員が思い思いの反応をする。
若干一人怪しい事を考えている者が居るが、どうせいつもの事なのでブデ達はスルーした。
「ジン先生達は、本気で僕達を強くする気なんだろうか?武闘大会に出させる気満々だけど」
「強くはなれるだろうが、武闘大会で勝てるとは思わんなぁ。僕らは所詮落ちこぼれ。見返してやりたい気はあるけど、実力が伴わないし」
「後10ヶ月程しかないからねー。たった10ヶ月で強くなれたら苦労しないよー」
「同意........僕らじゃ勝てないよ........」
「あ、あのやり方なら吹っ飛ばせるかな?ちょっと後で研究室寄って作っておこうっと」
彼らは3年間、強くなれために努力してきた。しかし、その努力は実っていない。
3年かけても強くなれなかったのに、たった10ヶ月で強くなれる訳が無い。
ブデ達はこの時そう思っていた。
「先生達もあまり期待しないで欲しいよ。真面目にやってコレなんだから」
「そうだな。俺達は弱い。サラサ先生のように見捨てないでくれるだろうが、落胆はされるかもな」
「い、嫌だなぁ........」
「私はどうでもいいけどねー。強くなれたらなれたで良し。ダメならそれまででしょー?」
「小型の爆弾も作っておこう。あ、毒ガスもいいかも?」
この時、彼らは仁達に期待していなかった。
所詮は落ちこぼれ。それに、名選手が名監督になるとは限らない。
応用科の生徒達にも勝てるようになるとは、この時本気で思っていなかった。
だがしかし、その考えは僅か2週間で裏返ることになるは、まだ彼らも思っていなかった。




