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可能性

 俺のアドバイスを聞いた生徒達の動きは、格段に良くなった。


 この学園に来るだけあって、元々それなりに優秀だ。


 サラサ先生の授業では基礎や苦手分野を重点的やるらしく、その積み上げてきた土台もしっかりとしている。


 飲み込みが早く、それでいて素直なので人のアドバイスをしっかりと聞けるのは大きな強みだ。それだけで上達は早くなる。


 それでいながらも子の落ちこぼれ組に居るのは、自分に合った戦い方を理解していないか、他の生徒達のレベルがかなり高いかのどちらかだ。


 「凄いでねジン先生。ひとつのアドバイスで、ここまで見違えるほどになるとは思わなかったよ」

 「俺に戦い方を教えてくれた人の受け売りだけどね。それに、生徒達が真面目なのもある。人の意見をちゃんと聞いて実行するって中々できるもんじゃない」

 「ふふっ、皆いい子なんだよ。それにしても、そのジン先生に戦い方を教えた人は凄いね。もの凄く有名な人だったり?」

 「まぁ........ある意味では?」


 “自己像幻視”ドッペルゲンガーの名を言う訳には行かないので、曖昧な答えを言っておくが、まさか俺が厄災級魔物の名前を思い浮かべているとはサラサ先生も思わないだろう。


 ドッペルゲンガーはかなり有名な魔物であるので、確かにもの凄く有名な人(魔物)ではある。が、人類に何かを残した偉人ではなく、世界を恐怖に陥れた悪名の方だ。


 流石に、それを言うほど俺も花音達も馬鹿ではない。


 剣の素振りを終えると、次は各々に合った訓練を始める。


 基礎科や応用科ならば、ここでそれぞれの分野ごとに別れて何がするのだろうが、補習科はたったの5人。


 各自にあった鍛え方をするのは悪くない。


 「ジン先生達も気づいたことがあれば、どんどんアドバイスしてあげてね。私よりも専門の分野とかあるだろうし」

 「分かった。とりあえず、全員と模擬戦してみるか」

 「........怪我はさせないようにね?あんな素振りの時みたいな攻撃を繰り出されたら死んじゃうから」

 「当たり前だよ。戦争でも無いのに子供を殺すなんてことしないさ。俺をなんだと思ってんだ」


 俺はそう言いつつ、先ずは懸命に走るブデ君を呼び寄せた。


 彼は、自分には体力と機動力が無いことを理解しているらしい。そして、やりたくもないランニングをちゃんとやれている辺り、当時の俺とは比較にならないぐらい真面目くんだ。


 「なんでふか先生」

 「一旦全員と模擬戦してみようと思ってな。ほら、皆のことを知るためにも」

 「なるほど。よろしくお願いします」

 「よろしく。殺す気でかかってこい」


 ブデ君は剣を使うようで、その手には木剣が握られている。


 体が大きすぎるので、両手で構えられないのを見るに、少し痩せた方がいいんじゃね?とは思う。


 「いきまふ」


 ドスドスと重い身体を揺らしながらこちらへ接近するブデ君。余りにも遅すぎる上に、魔力操作がかなり下手だ。


 身体強化を行えば、かなり負担を減らし素早く動けるようになるのだが彼はそれが分かっていないように見える。


 「えい!!」


 振り下ろされる木剣。あまりにも遅すぎてあくびが出るほどの一刀。


 ここは避けることも出来るが、受け止めることにしよう。遅い代わりに威力が高かったりするしな。


 カーン。


 真正面から木剣を受け止めたが、軽い。


 恐らく、体が重すぎて剣と身体の動きが合っていないのだ。


 コレは剣そのものが彼に合って無いな。これなら体重で押し潰せるハルバードとかを使った方がいい。


 己の強みを生かせていない、いい例だ。


 「少し反撃するぞ。防いでみろ」

 「はい!!」


 ブデ君の剣を弾くと、俺はブデ君の剣と同じぐらいのスピードで攻撃を開始する。


 身体強化を使う必要すらない。フェイントも辞めておこう。


 素直に剣を横凪に振るうと、ブデ君は剣先で木剣の腹を叩いて軌道をズラした。


 おぉ?今相当高度な事をやったように見えるんだが、まぐれか?


 俺は逸らされた剣の軌道を強引に修正すると、再び横凪に剣を振るう。


 先程よりも少しだけ早く。それでいて、少しだけ強く。


 カン!!


 ブデ君はその剣の動きをしっかりとみて、さっきと同じように剣先で木剣を弾き、俺の剣の軌道を変えた。


 まぐれじゃない。目の動きや肉体の動きを見ていたが、明らかに狙ってやっている。


 「凄いじゃないか!!攻撃はともかく、防御はかなりのものだな!!」

 「基礎科にいた頃、よくサンドバッグとして殴られていたので........ゼェゼェ、防御だけは得意なんでふ」

 「そりゃ凄い。身体強化と自分に合った武器を使えば化けるぞ!!」


 俺はそう言いつつ、更に件の速度を上げていく。


 ブデ君も必死に着いてきたが、限界を迎えたようだ。


 「いい才能だ。防御に優れた剣はかなりのものだぞ。後は、自分に合った戦い方を身につければ完璧だ」

 「あ、ゼェゼェ、りがとう、ゼェゼェ、御座いました........」


 肩で息をするブデ君。太っていて動きも鈍いが、光るものを持っている。


 先ずは武器をハルバードに変更させるか。一撃の重さを考えるなら、長物の方が威力が出る。


 後は、彼の異能が何なのか聞かなければ。


 彼は能力者である。落ちこぼれ組にも魔法を使える生徒はいるが、異能者の方が多かった。


 「ブデ。異能はどんなものだ?」

 「は、はい。超重量盾(タンカー)でふ。相手の攻撃の殆どを食らっても耐えれまふ」


 ふむ。強化系の異能か。


 異能の中ではハズレとされている強化系だが(身体強化すればいいだけの話だからね)、侮っては行けない。


 リーゼンお嬢様のように鋭い勘を持つものもいれば、不沈艦のように相手の攻撃を耐え続ける化け物も居るのだ。


 「具体的に、どのレベルの攻撃までは喰らえるんだ?」

 「先生が、最後に放った一撃程度なら余裕でふ。アレが鉄剣であろうと、僕の体は無傷でふ」


 普通に凄いなそれ。


 なんでこのクラスに落ちてきたんだと思わんばかりの性能だ。


 俺が本気で殴れば粉々になってしまうだろうが、この学園にそんな生徒は........居るわ。ウチの子が。


 ウチの子を除けばいない。


 コレに素早さを手に入れれば、タックルするだけで敵が吹き飛ぶ戦車の出来上がりだ。


 「魔法に対しての耐性は?」

 「もちろんありまふ。どの程度まで耐えられるかと言われると、ちょっと言葉で説明するのは難しいですが........ビビット君!!ちょっと魔法を打ってくれる?」


 ブデはビビットを呼ぶと、自分に向かって魔法を撃たせた。


 ビビットも良くブデ相手に魔法を放つ事は良くやるのか、一切躊躇うことなく“竜巻(サイクロン)”と呼ばれる風魔法を放つ。


 ブデも中々だが、ビビットもかなりの物だ。魔法が使えなくてこのクラスに落ちてきた訳じゃないんだな。


 巻き起こる竜巻が収まると、そこには無傷のブデが。


 枯葉ちょっとドヤ顔をしつつ、胸を張った。


 「こんな感じで、この程度の魔法なら余裕でふ」

 「凄いな。普通にすごいわ」

 「結構本気で撃ったんだけどなぁ........」

 「ビビットも凄いぞ。しっかりと練り上げられた魔法だった」


 俺はブデ君に無限の可能性を感じつつ、彼の育成プランを頭の中で練るのだった。

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