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授業開始

 その後も質問タイムは続き、とりあえず全員の名前を覚えた。


 5人しかいないから、まだ覚えられる。これが20、30と増えれば怪しくなるだろうが、まだ行ける。大丈夫だ。


 真ん丸と太ったガタイのいい人ブデ君を始め、眼鏡をかけ、白衣に身を包んだいかにも理系少女のエレノラさん、獣人(モデルブラウンキャット)のライジン君、金髪エルフのビビット君、そして、獣人(モデルラビット)のミミルさんだ。


 それぞれがとても個性的であり、特にエレノラは強烈すぎる。


 どうやら錬金術の天才らしく、その中でも爆破に優れた子らしい。


 物が弾け飛ぶ様子ど爽快感に脳が支配された生粋の“爆破魔(ボマー)”であり、暇さえあれば錬金術で爆弾を作り出す問題児だ。


 俺へ“爆弾好きですか?”と質問するイカレちゃんである。


 初めてだよ。初対面の子に聞かれる質問が“爆弾好きですか?”って。思わず聞き返してしまった俺は悪くない。


 ライジン君はちょっと可愛めの男の子。どこかロナのような可愛さがあり、腐女子から受けとして噂されていそうだ。猫だし。


 見た目と相まって、気もかなり弱い。俺達が怖く見えるのか、彼だけは唯一質問してこなかった。


 俺から“質問無い?”と問いかけたら、ビクビクしながら“ないです........”と答えられた時はなぜだか申し訳ない気持ちになったのは内緒である。


 そして金髪エルフのビビット君。彼は、至って普通だった。これだけ濃いメンツな中に凡人が居ると逆に目立つ。


 質問もありきたりで、補習科は濃いヤツしかいないのか?と疑問に思った俺達に安心感を与えてくれた。


 ありがとう。ビビット君。君はそのまま普通でいてくれ。


 最後にミミル。この子はよく分からん。質問はまともだが、“ですかー”と間延びした口調とのほほんとした雰囲気。リックの相方であるメルを思い出すが、彼女りよもマイペースな感じだ。


 目も死んだ魚のようになっているし、全身から気怠そうなオーラが出ている。


 「キャラ、濃すぎないか?」

 「ウチの団員よりはマシでしょ」

 「それを言ったらおしまいだよ。ウチの連中よりもアクの濃いヤツとか、エリーちゃんぐらいしか思いつかん」

 「確かにエリーちゃんは強烈だねぇ。強烈過ぎてゆってぃー出ちゃうよ」

 「きょうれつー!!ってか」

 「........仁、つまんない」

 「仁君、今のはないよ」

 「よく分かんないけど、今のはないねー」


 えぇ........乗ってやったら裏切られたんだが?


 俺は花音を軽く睨みつけると、花音は何処吹く風と言った感じでボケっと運動場を走る生徒たちを見ている。


 サラサ先生も一緒になって走っているが、1番足の遅いブデ君にずっと声を掛けていた。


 「ブデは動けるデブって訳じゃないんだな」

 「そりゃそうでしょ。動けるデブなら、このクラスには居ないよ」


 しかし、彼は根性がある。気合いで前を走る他の生徒達に着いていき、気合いで準備運動のランニングをやりきった。


 準備運動なのにぜーこら言っているのは仕方がないか。


 「動けるようになれば、かなり変わるかもな。身体強化の練習と体力作りをやるだけで、かなり強くなれるかもしれんぞ」

 「体力作りはしてそうだけどねぇ。となると、魔力の使い方が悪いのかな?」


 生徒達の分析をしていると、次は剣の素振りを始める。


 なぜに剣を?


 俺は疑問に思って、サラサ先生に聞いてみた。


 「サラサ先生サラサ先生」

 「はい?なんです?」

 「なぜに全員で剣の素振りを?」

 「全身をほぐす運動と、剣についての理解を深めてもらおうかと。自分が使わない武器でも、剣はこうやって振るうと分かっていれば少しは役に立つでしょ?」


 なるほど。確かに知っていると知らないとでは、対応の差が生まれてくる。だが、生徒たちはそれを理解しているようには見えなかった。


 真剣に剣を振っているし、全員真面目である。しかし、それだけでは意味が無い。


 俺も昔、ドッペルから教わった武術の型を幾つかやっていたが、その際に彼から意識するように言われたことが幾つかある。


 この訓練にケチをつける訳では無いが、少し口を出させてもらおう。


 「少しアドバイスをしてもいいか?」

 「いいよいいよ!!気づいたことはどんどん言って!!私に気を使わなくてもいいから。先ずは生徒のことを考えてあげないと」


 サラサ先生。滅茶苦茶ええ人なんだが。


 新参者の俺達を疎ましく思うどころか、笑顔でアドバイスをしてあげるように促している。


 こういう所が、学園長の言う“教師として優れている”点なのだろう。


 俺がサラサ先生の立場なら、間違いなく嫌な顔をするもん。サラサ先生は大人だなぁ。


 俺は、サラサ先生こそが目指すべき教師像なのかと悟りを開きつつ、手を叩いて素振りを中止させる。


 生徒達は素振りを辞めると俺に注目した。


 ちょっと緊張するな。厄災級魔物を従え、世界最強の名を持つ傭兵団の団長と言えど、初めてのことは緊張する。


 俺は僅かに早まる鼓動を抑えつつ、生徒たちに質問を飛ばした。


 「お前達、剣を振るにあたって何を考えてた?」


 まずはブデを指さす。すると、彼は素直に答えた。


 「........何も考えていませんでした」

 「素直でよろしい。別に怒るわけじゃないから、皆も素直に答えてくれよー。つぎ、ライジン」

 「え、えっと、その、体の動きを意識してました」


 うん。だからこそ怯えないで?


 何も悪いことをしていないのに、申し訳く思うから。


 流石に口には出さないが。


 「なるほど。確かに、体の動きを意識するのは大事だな。偉いぞライジン」

 「え、えへへ。ありがとうございます」

 「次、ビビット」

 「ライジンと同じです。剣を振るう際に、どう筋肉を動かせばいいか意識していました」

 「いいねぇ。次、エレノラ」

 「この木剣を爆発させることを考えてました。素材として使うなら、やっぱり──────────」

 「うん。爆破が好きなのは分かるが、先ずは授業に集中しような」


 話が長くなりそうだったので、俺は無理やりエレノラの話に割り込む。


 ブレねぇな。この子。


 「最後、ミミル」

 「特には何もー。サラサ先生に教わったやり方で、取り敢えず剣振っとけ?」

 「正直でよろしい」


 剣を振ることも確かに重要だ。だが、やり方に問題がある。


 俺はサラサ先生から木剣を借りると、生徒達側の方に立った。


 「剣を振る際は相手を意識しろ。そうだな........この世で1番叩き切ってやりたいヤツを想像するんだ。そして、ソイツを脳天からかち割るんだ。勿論相手も反撃してくる。イメージでいいから、それを避けろ。大丈夫、イメージだけならお前らは最強だからな。そして、サラサ先生に教わったやり方で剣を振るえ。こんな風にな」


 俺は剣聖をイメージしつつ、奴の頭を思いっきりかち割る。しかし、剣聖はこの程度で叩き切れるやつでは無い。


 当然反撃が来る。神速の抜刀を必要最小限の動きで避けると、今度こそ剣聖の頭をカチ割った。


 実際はこんなに上手くいかないし、もっと多くの駆け引きがある。だが、これはイメージ。俺が想像した相手なのだから、俺が負ける道理は無い。


 「こんな感じでやってみろ。最初はできなくていい。徐々にできるようになるからな」


 生徒たちを見れば、唖然と口を開けていた。


 生徒だけでは無い。サラサ先生もだ。


 しまった。少し本気で剣を振りすぎたか。


 俺は苦笑いを浮かべると、とりあえず謝っておくのだった。


 なんか........その、ごめん。

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