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イスの学園生活②

 入学祝いのパーティーがあった翌朝。イスとリーゼンは元気よく家を飛び出す。


 今日から本格的に学園生活が始まる。イスとリーゼンにとって、初めてとなる学園は楽しみで仕方がなかった。


 「行ってきますなの!!」

 「行ってくるわ!!」

 「行ってらっしゃい。気をつけてなー」

 「仲良くねー」

 「行ってらっしゃい、リーゼン。イス君」

 「行ってらっしゃい」


 それぞれの両親に見送られたイスとリーゼンは、その高ぶる感情からいつもよりも少し早歩きで学園へと向かった。


 日は既に登っており、入学初日と同じように彼女達を照らしている。


 暖かな日差しは、これから学園に4年間通うイス達を祝福しているかのようだった。


 「それにしても、煩かったわね。寝れやしないわ」

 「そう?私は普通に寝れたの」


 入学祝いの為に開かれたパーティーは、主役であるイスとリーゼンが眠ってからも続いた。


 しかし、酒が入って盛り上がりすぎた大人達は、かなり煩かった。


 多少騒がしいことには慣れているリーゼンと言えども、あそこまで煩いとちょくちょく起きてしまう。


 何度か文句を言ってやろうかとも思ったが、となりで爆睡するイスを見て自分も寝ることにしたのだ。


 「よく寝れたわね。あんなに煩くて」

 「拠点で騒ぐ時はもっと煩いの。皆自分勝手だから」


 揺レ動ク者(グングニル)でのパーティーは、今回の入学祝いの比では無い。


 結界が張られていることをいい事に、厄災級魔物が騒ぎまくるのでとんでもなく煩かった。


 具体的に言えば、ゲームセンターとパチンコ屋の煩さを掛け合わせた以上だ。


 イスはそんな中でも平然と眠る。


 最早、一種の才能であった。


 リーゼンはイスは意外と鈍感なのかもしれないと思いつつ、歩みを進める。


 しばらくすれば、学園が見えてきた。


 「おはようございます。いい朝ですね」

 「おはようございます。学園長。学園長自ら挨拶とは性が出ますね」

 「おはようなの」

 「ハッハッハ!!登校初日ぐらいは顔を出しますよ。でないと、生徒達にこの顔を忘れられてしまうのでね」


 正門の前で生徒達に挨拶をする学園長は自嘲気味に笑うと、リーゼンの手にしてある指ぬきグローブを見つける。


 揺レ動ク者(グングニル)がしているグローブとそっくりでありながら、イスのしている物とは模様が僅かに違う。


 学園長は気になってリーゼンに話を振った。


 「随分と個性的なグローブですね。イス君とは少し違う模様に見えるけど」

 「コレは先生........ジン先生から貰ったのよ。私は唯一の教え子だから、入学祝いとしてね柄が違うのは、私が揺レ動ク者の団員じゃないからなの」

 「へぇ、随分と頑丈そうなグローブだね。多分、魔物の糸がメインに使われている。ジン先生は随分と奮発してくれたんだね」


 魔物の糸は、基本的に高価だ。


 もちろん、糸の強度や美しさによってランクが分かれているが、リーゼンのグローブを見るに最高級レベルの糸である。


 魔物の糸は頑丈であり、防御力もさることながら魔力も通しやすい。これ一つでかなり魔力操作が楽になるだろう。


 学園長は長年の経験からそれを見抜くと、“大切にしなさい”とだけ言ってその場を離れる。


 隣に居るイスに至っては、全身魔物の糸によって作ったであろう服だ。


 学園長は少し羨ましく思いつつも、嬉しそうにグローブを自慢するリーゼンの笑顔を見て優しく微笑む。


 「随分と慕われているんですね。いいなぁ、僕も言ったら糸だけでもくれないかな」


 学園長の呟きはイスとリーゼンの耳に入ることは無く、2人は自分達の教室に向かった。


 “上級クラス1”と書かれた教室。上級クラスの中でもさらに優秀な者だけが入れる教室に、イスとリーゼンは入る。


 ガラリと扉を開ければ、そこには既に登校してきた生徒達が数人居た。


 「おい、あれ、ブルーノ元老院の娘と揺レ動ク者(グングニル)の娘だぞ。父さんが仲良くしとけって言ったて奴だ」

 「リーゼンお嬢様はともかく、あっちのイスって子は怪しいよな。コスプレなんじゃないか?ほら、この学園服装自由だし、この前土産物売り場であんな感じの服売ってたぞ」

 「流石にそれはないんじゃないか?聞いた話じゃ、今年から揺レ動ク者(グングニル)の人達がここの教師をするらしいし、時期的に考えて本人だろ」

 「あんな子供が世界最強の傭兵団の一員って事か?だったら俺は世界最強の冒険者だぞ」

 「いや、親が強いだけで娘は強いわけじゃないんだろ。俺もお前も、親が偉いだけで俺達は偉くないだろ?偶に勘違いした馬鹿がいるけど」

 「確かにそうだな。まぁ、家の親父も元老院に睨まれるのだけは辞めろって言ってたし、仲良くはしないとな」


 ボソボソと二人を見て話始める生徒達。


 イスとリーゼンは、この教室の中でもかなり異質な存在だ。


 世界最強の傭兵団に所属する者と、元老院の娘でありながら店を幾つか経営する者。


 ほかの子供達が大商会の子供だったり、とある街の警備隊長だったりするのが殆どの中、最高権力者の娘と世界最強の娘は場違いがすぎる。


 特に、実家に迷惑をかける可能性があるリーゼンに関しては、親から“仲良くするように”と言われている者も多かった。


 「視線を感じるの」

 「そうね。私もイスちゃんもこの教室だと大分浮いてるものね。視線を感じるのも仕方がないわ」

 「いや、そういう意味じゃ........まぁいいの」


 イスは何かを言いかけて辞める。


 イスが言っていた“視線を感じる”は心配性な友人の物であったが、どうせリーゼンに言っても分からないので黙っておく。


 イスは後でベオークを捕まえておこうと心に決めると、昨日座った席に腰を下ろした。


 「今日は応用学だらけだったの。明日は選択科目。明後日はごちゃごちゃ。明後日の時間割が普段の時間割なの?」

 「そうね。今日は教師との顔合わせと簡単なオリエーテーションが主な授業内容よ。少しは勉学もやると思うけど」

 「退屈なの」

 「明後日には楽しくなってるわよ........多分」


 リーゼンと話しながらホームルームまでの時間を潰す。頭の回転が早いイスと、普通に優秀なリーゼンの会話は到底11~2歳がする内容ではなかったが、2人とも楽しそうであった。


 しかし、事件は起こる。


 年齢の割に体の大きい少年と、その取り巻きが3人。計4人がイスとリーゼンの座る席にやってきて声かける。


 「おい、お前、世界最強の傭兵団の娘なんだって?」


 脅すような口調でイスに話しかける少年だったが、イスからすれば犬が吠えて威嚇するよりも可愛いく見える。


 イスは怯える様子もなく、ガン無視を決め込んだ。


 「へぇ、それは大変なの。それでその人はどうなったの?」

 「もちろん豚箱行きよ!!全く手間をかけさせてくれたわ」


 イスがガン無視を決め込んだことを察したリーゼンは、イスの会話に合わせる。“豚箱行き”を少しだけ強調し、“さっさと失せろ”と暗に告げるがバカに伝われば苦労しない。


 「おい!!グスタルさんが話しかけんだぞ!!」


 無視された少年の取り巻きの1人が机を強く叩くが、イスもリーゼンも会話を辞めない。


 教室には不穏な空気が流れ始めた。


(これ、どうしたらいいのかしら?先生はイスちゃんに人間関係を学ばせたいらしいし、少し様子見かしらね?って言うか、誰だっけコイツ。)


 リーゼンはどうしたものかと悩むのだった。


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