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入学祝い

 エリーちゃん達が来てから少しして、リーゼンお嬢様の両親も俺の家を訪れた。


 学園の入学式の際にチラッと見た程度だったので挨拶しなかったが、こうして家を訪れて来たのであればちゃんと挨拶はする。


 別に仲が悪い訳でもないしな。


 「ごめんなさいね。リーゼンが随分と我儘を言ったみたいで」

 「いや、イスも喜んでるし別にいいさ。寧ろ、そっちの家でパーティーの準備をしてたら申し訳なく思ってるぐらいだ」

 「もちろんしてたわよ。それはもう万全にね。とは言え、今日の主役はリーゼンとイスちゃんなのだから、怒る気はないわ」


 相変わらずのほほんとした雰囲気で話すカエナル夫人は、楽しそうにパーティーの準備をするリーゼンを見て優しく微笑む。


 その隣で少し顔色を悪くしているブルーノ元老院が視界に入らなければ、俺は純粋にこのパーティーを楽しめただろう。


 次いでに言えば、その顔を青くしているブルーノ元老院の後ろにいるジジィも居なければ。


 「なんでジジィが居るんだよ。お呼びじゃないぞ。帰れ」

 「ほっほっほ。そう老人を邪険にするもんじゃないぞ、ガキンチョ。ワシもリーゼンちゃんにお呼ばれしたんでな。帰るに帰れんわい」


 アゼル共和国を運営する元老院。そのトップとも言えるブラハム・ド・ラインヘルツも、このパーティーに来ていた。


 俺とこうして会うのは数年ぶり。以前、暗殺依頼を出された時以来の顔合わせだ。


 暗殺依頼は既に終わっており、俺はこの爺さんに1つ貸しを作っている。その貸しを使えば帰らせることができるかな?


 リーゼンお嬢様の父親であるブルーノ元老院の顔色が、あまり優れないのもこのジジィが原因だ。


 そりゃ、自分の上司が娘の入学を祝いに来たのに、娘の勝手でしょぼいパーティに来る羽目になったのだから、内心穏やかでは無いだろう。


 今回ばかりはちょっと同情してしまう。


 「あら、2人はお知り合いで?」

 「少しな。ちょいと前に依頼をしたのじゃよ」

 「数年前にな。ジジィのちょいとは宛にならん」

 「あらあら、随分と仲がいいのね」

 「「どこが、だよ(じゃ)」」


 2人してマイペースなカエナル夫人に突っ込みつつ、俺はジジィ以外に聞こえない声量で話しかける。


 いけ好かない食えないジジィだが、俺との相性が悪いだけで別に悪人という訳では無い。


 今日の主役はイスとリーゼンお嬢様なので、2人が良ければそれでいいのだ。


 「また仕事を持ってきた訳じゃないだろうな?」

 「お主のお陰で随分と綺麗になったわい。少し汚れてはいるが、綺麗すぎる水に魚は住めんからのぉ。それと、世話になったな」

 「........?」


 なんのことか分からず、俺は首を傾げる。


 ブラハムは俺の様子を見て、理解していないことを悟ったのか小さくため息をついた。


 「戦争じゃよ。お主ら........なんじゃったっけ?“クリンムス”?」

 「“揺レ動ク者(グングニル)”だ。ボケが始まってんならさっさと隠居しろよジジィ」

 「ワシより優秀な奴がおらんのだから仕方がないだろう。それともお主がなるか?元老院の席は空いとるぞ?」

 「寝言は永眠してから言えジジィ」


 アゼル共和国は俺達のホームではあるが、国に縛られるつもりは無い。


 ジジィもそれが分かっているから、権力を使って俺達を無理にこの国に縛りつけようとはしないのだ。


 ジジィは、話を戻すと言わんばかりに咳払いをする。


 「お主らがいなければ、今頃この国は蹂躙されていただろう。神聖皇国から援軍が来たとはいえ、あちらには“狂戦士達(バーサーカー)”がおったからのぉ」

 「無償でやってやったんだ感謝しろよ。本来なら法外な金をふっかけてたところだ」

 「ほっほっほ。感謝しとるよ。貴様のことは気に入らんが、ワシの目に狂いは無かったな。ありがとう。救国の英雄よ」


 ジジィはそう言うと、静かに頭を下げる。


 俺はやけに素直なジジィがあまりにも気持ち悪すぎて、顔を歪めた。


 「ジジィ、悪いもんでも食ったか?」

 「お主、私をなんだと思っておる。仮にもこの国の上に立つ者なのだから、こういう時は礼をちゃんと言うさ」


 どうやら今回は俺の負けのようだ。


 長年この国の元老院をやっているだけはあるんだな。俺はジジィを少しだけ見直すと共に、やっぱり嫌いだと再認識するのだった。


 食えないジジィめ。


 「そういえば、お主も教師になったそうじゃのぉ。困ったことがあれば言うといい。邪魔者は消してやろう。貸し借り云々抜きでな」

 「本当に困った時はそうさせてもらうさ。それより、準備が整った見たいだぞ」


 サラッと怖いことを言うジジィに感謝しつつ、準備の整ったパーティー会場(俺達の家)に視線を向ける。


 全員の視線は、今日の主役であるリーゼンお嬢様とイスに向いており、2人は手作りの台の上に乗っていた。


 「“今日の主役”って言うタスキを作ればよかったねぇ」

 「花音、それ、滅茶苦茶ダサいから辞めておけ。ドンキにしか売ってない遺物だぞ」

 「え、私、自分の主役パーティーだったら付けてみたいんだけど?」

 「黒百合さん。悪いことは言わないから辞めておけ。結構ダサいぞあれ」


 異世界人にしか分からないトークを繰り広げつつ、俺はメイドから渡されたグラス(果実水入り)を手に取る。


 全員にグラスが行き渡ったのを確認したリーゼンお嬢様は、パーティーの挨拶を始めた。


 「どうせ知り合いばかりだし、堅いことは抜きにするわ!!今日は集まってくれてありがとう!!先生も場所を貸してくれてありがとね!!」


 うん。君が勝手に借りただけなのだが、ここで水を指す訳には行かない。俺は軽く手を挙げて応えると、リーゼンお嬢様は挨拶を続けた。


 「こうして無事に入学できたのは、ここにいるみんなのおかげだわ!!これから4年間、精一杯学園生活を楽しむからよろしくね!!」

 「よろしくなのー」


 イスは特に言う事が無いのか、リーゼンお嬢様に挨拶を全て任せている。


 イスらしいっちゃ、イスらしいが、親としては我が子の挨拶も聞いてみたいな。


 そう思っていると、察しのいいリーゼンお嬢様がイスにも挨拶をするようにと話を振った。


 イスはほんの数瞬何を言うのか考えると、最強の切り札を切った。


 「みんな集まってくれてありがとうなの。パパもママもありがとね。それじゃ、乾杯なの!!」

 「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」


 取り敢えず“乾杯”って言っておけば、パーティーは始まる。


 イスは言う事が思いつかなくて誤魔化したな。


 「“パパもママもありがとね”か。私達も娘の入学を祝う日が来たんだねぇ」

 「人生、何があるか分からんな」


 俺と花音はしみじみそう言うと、テーブルに並んだ料理を取り分けて食べるのだった。


 その日は夜遅くまで騒がしく、明日から学校があるリーゼンお嬢様達はイスの部屋で眠り、大人組はずっと飲んでいた。


 ブルーノ元老院は酒が入って感情が高ぶったのか娘の晴れ姿に号泣していたり、エリーちゃんが急に踊り始めたりで騒がしかったが、結構楽しかった。


 こうして大人数でパーティーなんてしたこと無かったから、結構新鮮だったな。


 また機会があれば、やってみてもいいかもしれない。

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