見学会④
その後も学園の見学会は続き、俺達は色々な施設や教師の話を聞くことが出来た。
俺達が学園に入ることによるメリットが余程大きいのか、学園長はかなりサービスをしてくれていたと思う。
本来の見学会ならば入れない研究室に入れてくれたり、興味を持った分野の教師の話を聞かせてくれたり。
正直、かなり至れり尽くせりだった。
イスも知りたい事や授業の様子を理解し、多少の不満こそあれど全体的には好印象だっただろう。
特に、食べ放題の食堂はイスにとって魅力的に映ったに違いない。
すっごい喜んで食べてたからな。
日が沈み始め生徒達が帰る時間になると見学会も終わりを迎え、再び学園長室へとやってきた。
「どうだったかな?少しは学園の事を分かって貰えたと思うが........」
「楽しかったの。学びたい事も学べそうだし」
「楽しかったな。少し、昔を思い出した」
「それは良かった。まだ入学までは時間がある。君達ならば幾らでも特別扱いしてあげるから、入学式前日に“入学します”って来てもいいからね。一応、試験は受けて貰うけど」
それ、いいのか?とは思うが、この学園長はとにかく俺達がこの学園に居たという実績が欲しいのだろう。
それがあるとないとでは、学園の格が雲泥の差とか考えているのだろうか。
「あぁ、それと、教師の話も考えておいてくれ。もし、教師として働いてくれるのであればできる限りの融通を効かしてあげるから。なんなら、年一の特別講師として来てくれるだけでも構わない」
「急に辞めてもいいのか?」
「本来はダメだが........君達の本職は傭兵だろう?戦争なんていつ起こるか分からないからね。急に辞めても文句は言わないさ。とはいえ、辞める前に連絡は入れて欲しいけど」
リーゼンお嬢様が言った通り、本当に融通を効かせてくれるみたいだな。給料の話も少ししたが、どう見ても新人教師が貰える額ではなかった。
ほかの教師と同じように働くなら、龍二よりも給料が出るんだぞ?これだけで食って行けるよ。
「わかった。結論が出たらなるべく早く連絡しよう。世話になったな」
「君たち程のネームバリューがある傭兵のためなら、幾らでも世話をしてあげるさ。それが学園のためにもなるからね」
ニコニコと笑って手を振る学園長に見送られ、俺達は学園長室を出ていく。
夕日によって赤く照らされた廊下を歩きながら、俺はイスに学園はどうだったか問いかけた。
「どうだ?イス。この学園は」
「結構楽しそうなの。基礎学はハッキリ言って何も学ぶことがないけど、応用学は多少学べそうなの。それに、自由に選択できる科目はどれも面白そうだったし、学べる事も多そうなの」
「それは良かった。それじゃ、この学園に通うか?」
「うん!!リーゼンちゃんもいるし、退屈しなさそうなの!!」
元気よく答えるイス。
その笑顔の眩しさに、目を細めながらも俺は優しくイスの頭を撫でてやった。
ひんやりとしたイスの髪は、興奮によって少しだけ温く感じる。
「明日にでも学園長に言っとくか。多少の融通は効かせてくれるらしいし、リーゼンと同じクラスにでもしてもらうか?」
「いいんじゃない?リーゼンちゃん面倒見良いし、イスを妹のように思ってくれてるからね。イスも大分打ち解けてるし」
「俺達はどうする?」
「私も色々と学んでみようかな。久々に学生気分を味わえて楽しかったし、ちょっとは学べそうな物もあるし。応用学は中学校の範囲だから、全く苦労しなさそうだしね。仁は?」
「俺もやってみるさ。教師も楽しそうだし。歴史だけは基礎学にしておこうかな........ファフニール達の話とごっちゃになりそうだ」
「........私も歴史は基礎学にしておこうかな。というか、私達は自由科目だけ受けてもOKって言われそうだけどね」
確かに。
教師として働くのであれば、出れない授業も多くあるだろう。
あの学園長に言えば、相当融通してくれそうではあるな。と言うかしてくれ。
生ける証人であるファフニールやニーズヘッグから聞かされるこの世界の歴史と、人々が綴る歴史は大きな違いが幾つもある。
ここ数万年の話はあまり知らないが、それ以前の話は大抵ファフニール達と歴史書では食い違っていた。
大昔に存在していたであろう大国がそもそも無かったり、後世に語り継がれていなければ可笑しい功績を残した人物が語り継がれてなかったり。
昔に遡れば遡る程矛盾点が多く、どっちが正しいが分かったものでは無い。
その時を生きてきた厄災級魔物の方を俺は基本的に信じているが、記憶違いと言うことも有り得る。
学園長に話を通せば、受けたい授業だけ受けれないかな?
「黒百合さん達はどうする?」
「私もやるよ。まぁ、学費は仁くん頼りになっちゃうんだけどね........」
「私もやってみたいね。よく良く考えれば、この長い時を生きてきて学園に通うことなんてなかったし。何より、シュナちゃんとの思い出作りイベントとか見逃せない」
そういえば、黒百合さんこの前酒を馬鹿買いして金欠気味だったな。
基本的に食費は傭兵だの金から出すが、個人の趣味に使うものは自腹するようになっているのがウチのルールである。
とは言っても、月の給料が大金貨1枚とかだから金に困ることは無い。
そういえば、黒百合さんとラファにはまだ給料を出してなかったな。帰ったら渡しておくか。黒百合さんは酒に消えそうだけど。
「学費は心配すんな。傭兵団の金から出すから。知ってるか?ウチの金庫にはゴミのように白金貨があるんだぞ」
「前にも聞いたけど、そんなにあるの?」
「5兆」
「?」
「日本円にして5兆円以上の金がウチにはある。俺も花音も金銭感覚は庶民だからな。こういう時に使わないと減らないんだ」
「ご、ごちょうえん」
黒百合さんは指を一つ一つ折り始め、5兆円が白金貨何枚かを数え始めた。
白金貨五万枚分だな。多分もう数千枚あると思うが、正直誤差レベルである。
給料をかなり上げたのに、これだけ余ってるからな。1番金を使ってるのが、教会への寄付と言うのが何とも言えない。
「ねぇ、仁。学費は教師をやればチャラって学園長言ってなかった?」
「........そんな事言ってたかも。それじゃ寄付だな。1人あたり白金貨1枚ぐらい投げとけば、さらに融通を効かせてけれるだろ」
「これが金の暴力........!!給料よりも多いお金を雇い主に支払うってなんか違和感すごいね」
「ネタに走ったかと思えば即正気に戻るな。とはいえ、そうだな。どっちが雇い主か分かったもんじゃない」
俺はそう言いつつ、学園を後にする。
一ヶ月半後には、俺達は教師&生徒としてここに通うことになる訳か。
平和な日々だったあの頃を思い出し、少しだけ悲しく思いつつも新たな学生人生に胸を踊らせるのだった。
その日の夜は、エリーちゃんの店で朝まで飲んでいたのだが、流石に二日連チャンは体に来るものがあるな。




