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見学会③

 教師になる提案は、一度保留にした。


 天使との戦いもあるし、何よりイスがこの学園を気に入るか分からない。


 黒百合さんは既にやる気満々なのだが、どうしよう。黒百合さんとラファだけ学園に通ってもらうか?........それはその時考えるか。


 天使共に戦争を吹っかけるのはまだまだ先ではあるが、長くても2年しかない。天使との戦争がどれ程の長さになるか分からない以上、安受けは出来なかった。


 「先生が教師をしてくれた方が私は楽しいのだけれどね。まだまだ学べる事も多いだろうし」

 「悪いな。俺達も都合ってもんがあるんだ。リーゼンの家庭教師をしていた時ぐらい融通が効けばやってもいいんだがな」

 「あら、そうなの?なら簡単よ。学園長、そこら辺は割と融通効くから。後で話してみるといいわ」


 学園長、融通効くのか。


 あぁ言う上に立つ人は頭が固いイメージがあるんだけどな。後、俺たちを特別扱いしすぎると、ほかの教員からやっかみを受けそうな気もする。


 人間関係とはとてつもなく面倒なのだ。


 比較的気を使わず物事をズバズバ言う厄災級魔物の相手ですら少し面倒なのだから、本音と建前を使い分ける人間が面倒じゃない訳が無い。


 「今は必修科目だけ授業が行われているんだよね。戦争があったお陰で入学時期がズレたから調整が面倒なんだよ」

 「必修科目か。生活に必要な基礎学が大体入ってたな」

 「お、パンフレットでも見たのかな?その通り。一般常識を学ぶ基礎学は必修科目だよ」

 「その点で見れば、“基礎戦闘”は少し異質に見えるが?」

 「殴れば相手を痛がらせることが出来て、殴られれば痛い。それを知ることは大切だろう?それに、基礎的な魔力の使い方や魔法、異能の使い方の訓練にもなるか丁度いいんだよ。後は、健康の為だね。適度な運動は必要さ」


 ふむ。少し違うが、前の世界で言う体育のような位置づけか。


 確かに適度な運動は健康にいいし、人を殴れば殴られた側は痛く、反撃してくるということは学べる。


 それでもイジメが無くならない辺り、人という生き物は誰かの上に立たないと気が済まないのだろう。


 学園長は俺の言いたいことを悟ったのか、自嘲気味に笑いながらボヤいた。


 「君が考えるように、学んでも生かせない子も多いけどね。ほら、この前の戦争もそうだろ?人は、人種は歴史から何も学んじゃいない」

 「確かにそうだな。その点は、本能的に生きる魔物の方が賢いだろうな」

 「正しくその通りだね。人種なんて愚かな生き物だよ。僕もその一員なんだけどね」


 奴らは味方が食われたり死んだりするのを見て学ぶからな。知能は無くとも、生きる術を学ぶ事はできる。


 そんなことを話しながら学園長に案内されたのは、授業中の講義室だった。


 学園長は人差し指を口元に当てて“静かにね”と言うと、泥棒のような足取りでこっそりと講義室に入っていく。


 子供達に授業をしていた教師は学園長に気づいたが、普段からこういうことをしているのだろう。慣れたように視線を外すと、授業に戻った。


 やっている内容は数学........いや、算数だな。


 日常生活で使うような簡単な算数を教えている。小学校3年生で学んだ、割り算の授業だった。


 「一応聞くが、これは何を教えてるんだ?」


 熱心に授業を聞く生徒達の邪魔にならないように、ものすごく小さな声で学園長に話しかける。


 見た感じ割り算をしているように見えるが、もしかしたら違うかもしれないからな。


 「割り算だね。三年生になって学ぶ計算だ。君達はできるのかい?」

 「当たり前だろ。仮にも傭兵団の長だぞ。金勘定は得意分野だ」

 「確かにそうだね。君からすれば、既に習った分野か。入学希望の........イス君だったかな?君はできるのかい?」

 「すっごい低レベルなの。これ。受けなきゃダメ?」


 イスには一通りの義務教育はしてある........はずである。


 もちろん、俺も花音も義務教育を全て覚えている訳では無いので、教え忘れは多々あるだろうが。


 ちなみに、イスは優秀過ぎて1度教えたことは忘れない。一度聞いただけで歌が歌えるようになるほど記憶力がいいんだから、そりゃそうか。


 このレベルの授業など、子供のお遊戯以下に見えているのだろう。


 余りにも辛辣すぎるイスの言葉に、学園長は苦笑いをした。


 「まぁ、既に学んでいる子からすればそんなもんだよねぇ。大人数に教えている以上、出来ない子になるべくペースを合わせてるし。でも安心してくれイス君。優秀な子は基礎学の代わりに応用学で必修科目を代用できるから」

 「へぇ、それじゃ応用学を見てみたいの」

 「もちろん!!........と、言いたいところなんだけど今の時間は応用学は今やってないんだよね。代わりに暇そうにしてる教師に話を聞きに行こうか。イス君は何を学びたいんだい?」

 「建築学と植物学、後は動物学の三つは確定なの。後は........魔術学と錬金術学も興味あるの」


 余りにも子供が選ぶとは思えないラインナップに、学園長は苦笑いする。


 すまんな。この子、どっかの誰かに似て変わり者なんだよ。


 「........随分と渋い選択だね。建築学の先生は暇してるだろうから、話を聞いてみようか。きっとためになる話をしてくれるよ」

 「期待大なの」

 「あはは、彼も大変だね。こんなところで知らない期待を掛けれるのだから」


 そう言って学園長は講義室を出ていく。


 俺達も、気づかれないようにこっそりと講義室を出て行った。


 「懐かしいねぇ。あの感じ。部屋は大学の階段状の奴だったけど、雰囲気は高校と同じだったよ」

 「寝てるやつも何人か居たしな」

 「懐かしかったなー。こっちに来てなきゃ今ごろは、私達も大学であんな感じに授業を受けてたかもね」

 「だろうな。就職先をそろそろ考える時期になっているだろうさ」

 「あっちの世界にいたら、私はどんな職業に付いていたんだろう?」

 「案外、アイドルとかやってそうだけどな。高嶺の花だし」


 アイドルの黒百合さん。


 まず間違いなく塩対応だろうな。記者の質問に“別に”とか言ってそう。


 「もー!!仁くん怒るよ?」

 「有り得るねぇ」

 「花音ちゃんまでー!!」


 古き記憶を思い出し、ありもしない未来の話をしながら俺達は建築学の教師にとやらに会いに行く。


 俺は割と今の生活が気に入っているが、クラスメイト達はどう思っているんだろうな。


 龍二?アイツは楽しい側だろうよ。アイリス団長とデキてんだし。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 〜神聖皇国にて〜


 「ハックション!!」

 「風邪か?」

 「いや、これは仁の野郎が俺の噂をしてるな。間違いない」

 「おい、シンナス。リュウジが壊れたぞ」

 「貴方が治せばいいんじゃないですかね?ほら、愛のハグでもすればいいんじゃないですか?」

 「........シンナス。お前、最近シュナみたいになってるぞ。少し休め」


 龍二は幸せ者だろう。

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