表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

500/760

小さく騒がしい店

 エリーちゃんと話しながらちょびちょびと飯を食っていると、外に幾つかの気配を感じた。


 全部で5人。全員知り合いの気配だ。


 チリンチリンと扉を開けた合図がなると共に、5人の来客は訪れる。


 「お、本当にいるじゃねぇか。世界最強の傭兵団様が、こんな小さい店で飯食ってるのはなんか笑えるな」

 「あら、小さい店で悪かったわねリック。今日、貴方の食べるものだけ値段1割増しね」

 「ソイツは困るな。戦争のお陰で少し懐は暖かいが、好き勝手使いすぎるほど暖かくは無いんだ」

 「あははは。そう言ってやるなよエリー。この店が小さいのは事実だろ?」

 「もう、ダーリンったらリックに甘いわよ?」

 「おー、イスちゃん達も居るんだね。今日は賑やかになりそう」

 「先生!!来たわよ!!」

 「お嬢様、場所を考えてください。声が大きすぎます」


 扉の向こうから現れた5人の来客。これは一気に賑やかになりそうだな。


 俺達は席を移動し、テーブル席に座ると他の面々もいつもの席に座る。


 小さい店の為、10人も座れば空いている席は少しだけとなった。


 「やぁ、久しぶりだね。活躍は聞いているよ」

 「久しぶりだなラベル。相変わらずエリーちゃんに振り回されてんだな」

 「あははは!!物理的にね」


 そういうラベルは、エリーちゃんにハグされてぐるぐると回っている。


 この状況で会話出来るとか凄いな。人の慣れというのは恐ろしいものである。


 「戦争でかなり稼いだんだって?画家にも稼ぎ時ってのがあるんだな」

 「一応少しは有名だからね。僕の能力を聞き付けた人達が次から次はと来るのさ。少し高い金を吹っ掛けても当然のように出してくれるから、ビックリだよ。その分、いつも以上に真面目に書いたけどね」


 なんて強かな奴だ。


 商売をやっている以上金を取るのは当たり前だが、仮にも戦争に行く人を思っての行動に金を吹っ掛けるとは。


 俺も同じ立場だったらやっていると思うので、人の事は言えないが。


 「その幸運の絵を持っていた奴が多すぎた為か、とんでもない幸運が降ってきたけどな。幸運って言うか、ありゃ厄災だろ」

 「おいおい、人を厄災呼ばわりとは感心しねぇな。俺達は普通だぜ?」

 「どこがだよ。世界最強の傭兵団だった“狂戦士達(バーサーカー)”を赤子扱いしやがって。そんな奴は人間と言わねーよ」


 酷い言われようだ。俺と花音はちゃんと人間だぞ?


 戦争に参加してたのは全員人間ではなかったけど。


 人種として数えられている獣人組はともかく、ダークエルフと吸血鬼は人外だな。


 一緒に暮らしてるとほぼ人間と変わらないが、世間一般から見れば立派な魔物だ。


 「そりゃ残念だ。俺達はちゃと人間なのにな?」

 「そうだねぇ。強さだけで見れば人外だろうけど、ちゃんと私達は人間だねぇ」


 花音はそう言いつつ、串焼きを頬張る。


 エリーちゃんの飯が美味いからか、花音は食べる事に集中したいようだ。


 そこら辺はイスと似てるな。イスも俺の隣でバクバク飯を平らげてるし。と言うか、そのステーキ2週目では?


 リックとの会話を楽しんでいると、リーゼンお嬢様が割って入ってくる。


 ちょっと放置されて寂しかったようだ。


 「先生!!学園から許可をもぎ取ってきたわよ!!明日にでも行けるわ!!」

 「お、ありがとうリーゼン。明日にでも見に行くか。楽しそうだしな」

 「あらー、学園(アカデミー)に行くの?懐かしいわねぇー」

 「メルは通っていたのか?」

 「通っていたわよ。冒険科やら薬学を受けてたわー。あの頃は楽しかったわね。リックとも出会えたし」

 「俺は楽しくなかったぞ。メルに目をつけられた事が人生最大の汚点だ」

 「あらー?どういう意味から?」


 メルは素早くリックの後ろに回ると、そのまま首をがっちりとホールドして締め上げる。


 豊満な胸がリックの背中に当たっていたが、リックはそれを楽しむ余裕がなかったようだ。


 「ぐ、ぐるじい」

 「ねぇ、どういう意味かしら?」

 「ちょ、ストップストップ。そのままだとリックが落ちるぞ」


 顔が青くなり始めたリックを慌てて助けると、リックはゲホゲホと咳き込みながらもメルに文句を並べる。


 あそこまで強く締められているにも関わらず、文句を言えるだけの胆力があるのか。


 流石はリック。怖いもの知らずである。


 「お前のせいで俺がどれだけ苦労したと思ってんだ!!冒険科の教師を半殺しにしたり、ムカつくからって1個上の奴を殴り飛ばしたり、俺はメルと仲がいいからって理由で後始末させられてたんだぞ?!」


 うん、それはドンマイとしか言いようがない。


 リックもリックで苦労してんだな。それでいながら、メルといままで一緒に行動しているのを見るに、リックは本心では嫌と思って無さそうだが。


 「リックも大変ね。私が学園に入るって言った時もこんな感じで仲良くしてたわ」

 「なんやかんや言っても波長は合うんだろうな。リックも文句は言いつつ嫌そうな顔してないし」

 「これが惚れた弱みってやつなのかしら?お母様も言ってたわ。惚れた相手にはどんなことでも許せてしまうって」

 「それは........限度があると思うがな」


 幾ら相手に惚れていたとしても、浮気や不倫をしていたら許せないだろう。


 それが浮気相手への憎悪となるか、惚れた相手への憎悪になるかは知らないが。


 「私もいつかそんな人に出会うのかしら?」

 「どうだろうな........どう思う?」

 「そこで私に振らないでください。私は、そういう感情を捨ててきた側の人間なので」

 「私のメイドなのに生意気ね」

 「確かに」


 その後、いつも以上に騒がしい小さな店は、夜が開けるまで明かりが消えることは無かった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 暗く沈む闇の中。聖なる加護を受けた盲目の少女は目を覚まし、混乱していた。


 「........目が、見える?」


 幼き頃に失った輝き。10数年ぶりに取り戻したその輝きを見て、混乱するのも無理はない。


 自分がどこにいるのか。そんな簡単な疑問も忘れ、“聖弓”はただただ自分の手を見つめていた。


 「見える。どうして........」

 「目覚めましたか?」


 ぞわりと全身の毛が逆立つ。


 聖弓は反射的に弓を手に持ち矢を番え、声のする方に構えた。


 周囲に誰もいなかったはず、だが、魔女はそこにいた。


 「流石は“聖弓”反応速度は中々のものですね」

 「........あなたは誰ですか?それと、ここはどこですか?」


 相手に敵意がないことを知りながらも、聖弓はその手に持つ弓を緩めることは無い。


 「目は見えますか?」

 「........貴方が治療を?」

 「正確には違いますが、まぁ、そんな感じです。それで、久々に見る世界はどうですか?」

 「この薄暗い場所でなければ感動していたでしょうね。今はそれよりも、貴方に弓を向けることで精一杯ですよ」

 「そうですか。詳しいことは後にして、今は友人との再会を喜んでください」

 「?」


 話の意味が分からず首を傾げた聖弓だったが、その疑問は直ぐに解消される。


 「聖弓様!!」

 「シャーレ!!」


 聖弓の付き人であるシャーレ。彼女は聖弓に抱きつくと、その胸の中で静かに涙を流した。


 「私、聖弓様が........私........!!」

 「良かった。貴方が無事で」


 聖弓はひとまず魔女の事は忘れ、胸の中でなく付き人の頭をそっと撫でるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ