パンフレット
その後、学園のパンフレットを見せてもらった。
前の世界にもありそうな、ちょっとした冊子の中に色々な事が書かれている。
流石はアゼル共和国一の学校。やっている授業内容も豊富だった。
魔物について学ぶ魔物学や、薬草について学ぶ薬学、魔道具について学ぶ魔道学、魔法について学ぶ魔法学などなど。
俺や花音でも興味を持つような学びをやっているものも多かった。個人的には錬金術学と魔術学、そして異能学が気になるな。
錬金術とは、その名の通り卑金属から貴金属を生み出したりするやつだ。魔術を使い、石から金属だけを取り出し、様々な形に変形させたりすることも内容に入っている。
これ、あの某人体錬成漫画とやっている事が同じだ。あまり有名では無い学問ではあるが、前の世界であの漫画を知っているものなら興味を持つだろう。
そして魔術学。これはロムスが多少教えてくれた内容のやつだな。新たな魔術の開発と、それに伴う基礎を学ぶ場である。
もしかしたら転移系の魔術を復活させることが出来るかもしれないし、多少の不便があるこの世界をさらに豊かにする事が出来るかもしれない。魔道具の作製自体はドッペルに任せればいいし。
最後に異能学。その名の通り異能を学ぶ場だ。自分の異能を生かせる戦い方や、使い方を学び、異能について研究する場所でもある。
こうしてみると、大学って感じだな。大学行く前にこっちの世界に来たから合ってるかどうかは知らんけど。
「普通に面白そうだな。俺も通いたいぞコレ」
「私もちょっと通ってみたいかも。歴史とかは正直どうでもいいけど、魔術学とか錬金術学とかは楽しそうだね」
「私も通ってみたいなぁ。薬学とか普通に役に立ちそうだし」
「んー........私は特には無いかな。唯一気になるのは天文学ぐらいだね。と言うか、魔術学も錬金術学も薬学も、拠点にいる人に教えて貰えるのでは?」
ラファは厄災級魔物に聞けば学べるやろと言うが、アイツらは人に物を教えるのが物凄く下手である。
戦闘に関して言えば多少分かりやすく教えてくれたが、それでも基本は体で覚えて死線をくぐれだった。
そもそもあの化け物共に薬学とか魔術学とか必要ないしな。全部力でねじ伏せられてしまう。
唯一、ドッペルゲンガーだけがまともに教えることができるのだが、あいつは魔道具関連じゃないとやる気を出さないことも分かっている。
どんだけ魔道具が好きなんだよ。
オタク気質なドッペルに教えを乞うのはあまりやりたくなかった。普通に嫌な顔されそうだし。
「イスは気になるものあったか?」
俺はパンフレットをじっと見るイスに話しかける。
イスはずっと興味深そうにパンフレットを眺め、無言のままである。
「ん、この建築学とか面白そうなの。後は、植物学。それと動物学と魔術学、錬金術学も役立ちそうなの。後は........んー、今はそのぐらいかな?」
「け、建築学........?植物学、動物学........?珍しいものに興味を持ったな」
予想外すぎる。
植物学と動物学はまだ分からなくもないが、建築学に関してはなぜイスの興味を引けたのかサッパリだ。
これには、俺も花音も黒百合さんもラファもリーゼンお嬢様も驚いていた。
6歳の子供が興味を持つにしては珍しすぎる。
俺は、思わず理由を聞いてしまった。
「なんで建築学やら植物学やらを?」
「なんとなくなの!!........万が一があった時の為なの。私の世界だけで生活を完結できるようになれば、拠点を失う様なことがあっても逃げられるの。私の世界を監視できるのは私だけだしね」
“なんとなくなの!!”はリーゼンお嬢様に向けて、後半の内容は俺たちに向けて小声で話される。
そんなことまで考えているとか、この子頭が良すぎないか?俺なんて、拠点を失ったらその時考えればいいや程度だったのに。
という事は、植物学はあの凍てつく世界でも自然を作れるようにする為であり、動物学は寒さに強く畜産に適した動物を見つける為。建築学は氷の世界で家を建てたりする為、そしてそれらを補助するのが魔術学や錬金術学なのだろう。魔道学に関しては、ドッペルに聞けばいいと言う判断だな。
あまりにも、スケールがデカすぎる。氷の世界の帝王は、本気で氷の世界に人が生きていけるだけの世界を作る気だ。
万が一に備えてを考えている時点で、俺より団長の素質があるよ。いやほんと。
「なら、全部取ってみるか。とはいえ、見学が先だけど」
「話は今日中に通しておくわ。なんなら、先生たちも学園に入ってみればいいんじゃない?」
「ん?年齢制限があるんだろ?」
学園は誰もが学べる場ではない。基本的に11~15までの子が学ぶ場だったはずだ。
俺たちは既に20を超えており、ラファに至っては数千歳のババァである。
「天使の中では若いからね?」
「俺は何も言ってないぞ」
「いや、顔に出てたから。天使と言えども、私も女の子だから発言には気をつけてね?」
「いやだから、何も言ってないって」
「仁が悪い」
「仁くんが悪いね」
「パパが悪いの」
「今のは先生が悪いわね」
えぇ........何も言ってないのに。
そんな理不尽を味わいつつ、リーゼンお嬢様との話を続けた。
「もちろん年齢制限はあるけど、特例もあるのよ。例えば隣の国のお偉いさんの子が来た時とかはね。2ヶ月ほど生徒として学園に通う事もあるわ。その人は........確か17歳だったかしら?」
「俺達はお偉いさんでは無いぞ」
「世界最強の傭兵団である先生達がお偉いさんでなければ、そこら辺の国王ですらただの人よ。先生は自覚が無いかもしれないけど、世界最強の傭兵団の名は伊達じゃないわ。大抵の事はまかり通るわよ」
すごいな世界最強の傭兵団。大抵の我儘は通せるのか。
俺の周りではゴマをするようなやつが居ないから忘れていたが、俺達は傭兵団の中では最高クラスなのだ。
その殆どが厄災級魔物だったり、ダークエルフだったりと人外だらけだが。
「先生程有名人ならば、学園から頭を下げる程よ。学園も先生程の有名人が通ってくれれば格が上がるしね。私はいい買い物したわ。あの“黒滅”唯一の教え子なんだから」
「........今度、教え子と分かるような何かをあげるよ」
「ほんと?!それは嬉しいわ!!」
やったやった!!と喜ぶリーゼンお嬢様。
余程嬉しかったのか、普段の少し大人びた様子から年相応の子供に戻っている。
ちょっとテンションが上がりすぎて、ソファーの上で跳ねていた。
こんなに喜ばれると下手なものは渡せないな。アンスールの糸で作ったグローブ辺りを上げればいいか?
「リーゼンちゃん、すっごい喜んでるねぇ」
「こうしてみると年相応なんだがな」
「ちょっと可愛いねぇ。撫でてあげたい」
「分かる」
俺はなるべく早めにリーゼンお嬢様にグローブを作ってやるかと思いつつ、異世界に来て初めての学校(学園)に心を躍らせるのだった。




