ロマンの義手
その日、エドストルの義手の性能をテストする為にイスの世界へとやって来た俺達。
ドッペルが本気で作った性能モリモリの義手は、既にエドストルの左腕となり問題なく動いている。
「あの義手、結局何ができるの?」
「いっぱいできマス。結界を張ることもできマスし、炎を放つコトも容易デス。それでいながら、ミスリルで作られた剣ですら弾きマス」
「義手と呼べる範囲を超えてるな。世界一性能のいい義手なんじゃないのか?」
「恐らくハ。ワタシの知らない物がある可能性は、否定できないノデ断言する野は難シイですけどネ」
新たに左腕を貰ったエドストル曰く、義手をつけてもさほど違和感は無いらしい。
どう言う構造で動いているのかは知らないが、脳が司令を出しても大したラグもなく義手が動くそうだ。
一応、比較対象として一般的に普及している義手も買ってきたのだが、そちらとは比べ物にならないほどドッペルの作った義手は高性能だった。
「義手ってロマンあるよねぇ。さすがに腕を失った人に言えるセリフでは無いけど」
「気持ちはわかるが、実際に失ったやつが居るとちょっとな。エドストルは全く気にしてなさそうではあるが、原因を作ったと思ってるシルフォードはまだ暗いし」
「原因は剣聖なんだけどねぇ。あの人外の場所は掴めたの?」
「まだだ。あちこち探しているが、それらしき痕跡がひとつも見つからん。弟子の所にも帰ってきてないようだし、どこにいるのかは本当に謎だな」
全身の骨をバキバキにへし折られ満身創痍だった剣聖だが、復讐者を名乗る邪魔者に連れ去られてしまった。
転移系の魔道具を持っていることから明らかに只者では無いのだが、相手の目星が一切つかない。
おそらく、剣聖の怪我も全て治っている事だろう。
仕留めきれなかったのが悔やまれる。エドストルの左腕を持っていった代金を支払ってないのもあるが、俺としては切り札の一つを見られたのが痛い。
完全初見殺しの手札が多い俺の切り札は、1度見られると対処されやすいのだ。
圧倒的スペック差があった剣聖との戦いだったが、次もあそこまで一方的になるかと言われれば首を傾げざるを得ない。
また何時か戦う日が来るだろう。それまでに、俺も成長しなければ。
「それではいいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。万が一の時は避けるので」
死と霧の世界。凍りついた世界の中に住むモーズグズは、槍を構えてエドストルと向き合う。
今からテストするのは結界の強度だ。ドッペル曰く、少ない魔力量でかなり強固な結界を張ることが出来るらしい。
流石にリンドブルムの流星や、俺の手加減なしパンチを受け止めるのは無理らしいが、モーズグズの槍程度なら受け止められるんだとか。
「行きます」
攻撃を宣言したモーズグズの姿が掻き消える。
一瞬でエドストルに槍が届く場所まで移動すると、その手に持った槍を突き出した。
ドォン!!と、空気が揺れる程の爆音が氷の世界に響き渡る。
ここが氷だけでできた世界でなければ、今の衝撃で砂埃が巻き上がっていただろう。だが、ここに土はない。
結果はすぐに分かった。
「........割と本気で突いたのですがね」
「私も驚いてますよ。ほとんど魔力を消費せずにモーズグズさんの突きを受け止められるだけの結界が張れる事に」
モーズグズの槍はエドストルに届くこと無く、約50cm程手前で結界に阻まれている。
結界はドーム状に出来ており、腕を中心とした半径1m以内がおおよその範囲なのだろう。
にしても凄いな。
元となった結界の強度は、モーズグズの槍など到底受け止められるものではなかったはずなのに、ドッペルが改良を加えたこの義手は容易に受け止めている。
おそらく結界を発動するのに必要な魔法陣を色々と弄ったのだと思うが、魔術に関してはあまり詳しくない俺からすれば神の領域だ。
魔術に優れた者の“顔”を持っているんだろうな。俺は見た事ないけど。
「凄いな。この義手のために左腕を落とす奴が現れても不思議じゃない程の性能だぞ。二ヶ月以上も作った甲斐があったな」
「エヘヘ。ワタシ、久々にマジで魔道具を作りましたヨ。文字通り寝る間も惜しんデ」
「ドッペルの場合はマジで寝てなさそうだな。別に睡眠は必要ないんだろ?」
「多少は必要ですヨ。数年に1回程は」
「それは必要ないと同意義なんよ。羨ましいな。寝なくても大丈夫な体とか欲しいぜ」
「人種は基本的に不便な体をシテますからネ。その分繁殖力が強いのが特徴でスシ」
羨ましい限りだ。俺も数時間寝るだけで元気になれる体が欲しい。
まぁ、寝る事も結構好きだから多分その身体を手に入れても毎日寝るだろうが。
少し義手とは関係の無い話をしながら、性能テストは次の段階に入る。
次は、義手の攻撃性能だ。
防御は結界によって殆ど防げてしまうが、攻撃面はどうかな?
「行きますよ」
エドストルがそう告げて左手を前に持ってくると、ピュンと言う音と共に短いビームが発射される。
「──────────っ!!」
モーズグズは受け止められないと判断すると、ギリギリで避けた。
ドォォォォン!!
空気どころか、氷の大地を揺らす轟音が響き渡り、ビームが飛んでいった方向で巨大な爆発が起こる。
うーん。黄猿かな?もしかしてピカピカしてる実でも食った?
「その内ラディカルビームとか言い出しそう」
「分かる。左腕は義手だし、全身サイボーグにすれば将軍になれるよ」
花音にしか分からないネタではあるが、言わざるおえない。
なにあの火力。最早義手の性能じゃないじゃん。
いや、結界を張れる時点で義手の性能を大幅に超えているのだが、これはそんな次元ではない。
もしかして、こんな高火力魔術が他にも沢山埋め込まれてる?
「........やば」
「すごいの!!エドストル、ちょっと強くなってるの!!」
思わず普段とは違う口調で呟くエドストルと、遊び相手が強くなって喜ぶイス。
イスは相変わらずなのでこの際放っておくが、エドストルの反応はごもっともだな。
エドストルの反応からするに、魔力消費量も大したことは無いのだろう。それでいてあの火力。
モーズグズが避ける程となれば、並大抵のものはぶっ壊せるはずだ。
「フォォオォォォ!!ヤッパリ、団長さんの意見を取り入れるとスゴいですね!!実際に使われているのを見るト、テンション上がりますヨ!!」
普段の落ち着いたドッペルはどこへやら。テンション爆アゲ状態のドッペルが、子供のように目を輝かせている。目、ないけど。
楽しそうでなによりだが、オーバースペックにも程があるだろ。エドストル、その気になれば国一つぐらい滅ぼせてしまいそうだ。
「そいつは良かったな。うん。なんかもうお腹いっぱいなんだけど、まだまだ義手が出来ることはあるんだよな?」
「モチのロンです!!後23個機能がアリマスよ!!」
まだ23個もあるのかよ。一帯どうやってあの義手にそれだけの魔法陣を埋め込んだのか不思議だが、これだけはわかった。
ドッペルが本気で作った魔道具はやべー。




