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神の使徒

 教皇との話が終わった後、少しだけ世間話をして俺達は黒百合さんとラファの元に帰っていた。


 世間話の内容は、勇者と聖女の結婚に出席してくれないかと言うもの。たぶん本人からも言われているのだろう。


 俺なら結婚式をすっぽかしかねないと思われてそうだ。もちろんすっぽかす気満々だったが。


 正式に招待状が送られるとなれば、流石に出ざるを得ない。


 日程も決まってないのに招待状とはこれ如何にとは思ったものの、不定期に訪れる俺達に招待状を渡せる機会は少ない。


 ならば決まってなくても渡してしまえ。という事らしい。


 どうでもいい話だが、招待状を贈られた人の中では1番目だそうだ。どんだけ俺達に来て欲しいんだよ。


 そんなこんなで光司と聖女様の結婚式に参加することが決まった俺達は、さっさと拠点に帰ることとなった。


 龍二に別れを告げ、神聖皇国の街を出ていく。もちろん、行きの反省を活かして、帰りは割と本気で隠密した。


 その甲斐あって人にバレるような事は無く、人混みに押しつぶされずに街を出れたのである。


 その後はしばらく歩き、俺達が初めてゴブリンを殺した森に入っていく。


 「懐かしいね。ここにジンくん達と来るのは何年ぶりかな?」

 「6年近く前の話だな。あの頃はゴブリンを殺して気分を悪くしていたってのに、今じゃ人を殺しても何も思わない。慣れって恐ろしいな」

 「もう6年も経ったんだねぇ。私達もう成人だよ」

 「前の世界の話だね。こっちの世界は来た時から成人してたし」


 この世界に来て6年。もうそんなに経ったのかと思うと同時に、あまりにも濃すぎた6年だと実感する。


 異世界に転移して、死にかけ、あの島でドラゴンをぶち殺し、傭兵団を設立させ、傭兵となり、魔王をシバキ回し、戦争に参加した。


 そのどれもが前の世界では、味わえなかったものだろう。と言うか、味わいたくない。


 「あぁ、そうか。ジン団長とカノン副団長はシュナちゃんと同じ異世界人か。この世界、大変でしょ?」

 「大変だな。強いが正義だ。弱者を救済する措置がほとんど無い。俺達は力があっからこうして好きにやれてるが........捕食される側になるのは怖いな」

 「それ、前の世界でもほぼ同じでしょ。訴えかけるのが暴力か権力かの話であって」

 「かもな」


 ほぼ無いと思うが、いつか捕食される側に回る可能性はゼロではない。その時、が来ないように日々強くなるための努力をしているのだ。


 剣聖みたいな化け物軍団が来られると流石に困るしな。


 「ラファ。ひとつ聞きたいことがある」

 「なーにー?」


 天使に会ったら聞きたかった質問。大天使様ならその答えを知っているだろう。


 「なぜ2500年前の魔王討伐に力を貸さなかった?今回もだ。天使は女神の使徒なんだろ?なぜ女神は天使よりも先に俺達の力を頼ったんだ?」

 「ん?簡単だよ。天使は別に女神イージスの使徒じゃないからね。何時だったか忘れたけど、かなり前に天使達が人間に崇拝される為に作った“設定”みたいなものだし」

 「........は?」


 思わず歩く足を止めてしまう。今、“女神イージスの使徒では無い”と言ったのか?


 花音も驚いている。黒百合さんは既に知っていたのか平然としているが、その顔には“そうなるよね”と書かれていた。


 「どういう事だ?天使は“女神の使徒”では無いってことか?」

 「うん。“神の使徒”ではあるよ。でも、それは“女神イージス”の使徒では無い。女神イージスが私達に何かしてくれって言うことは滅多にないよ。それこそ、この世界そのものが滅ぶような事がなければね。過去に3回だけだったかな?最後に女神から何か言われたのは数万年前の話だったらしいし」


 マジかよ........マジかよ。


 思わず二回“マジかよ”と思うぐらいには衝撃を受けている。


 この世界の常識としては、天使は女神の使徒であり、天使の意思は女神の意思と言われているのだ。


 1+1=2、ぐらい常識である。


 それが覆されたとなれば、驚きもするだろう。


 おそらく、ラファの言い方からして神は女神イージス以外にもいる。


 “神の使徒ではあるが、女神イージスの使徒ではない”


 つまり、天使は女神直属の部下では無いという事だ。


 人々が天使を神聖視するのは“女神イージスの使徒”だから。女神イージス以外の神を信仰しない彼らにとって、天使とはただの詐欺集団となる。


 「もしかして天使って詐欺師?」

 「もしかしなくても詐欺師だね。でも、今の天使達は本気で自分達が女神の使徒だと思ってる。この事実を知ってるのは大天使の中でも更にひと握りだよー」

 「尚更タチが悪いじゃねぇか。世代交代による認識のズレか。だからファフニールとかは天使の話を濁したんだな。俺達が口を滑らせる可能性も考えて」

 「宗教に関係する話は面倒事が多いからねぇ。知らない方がいい事もあるってことかな?」

 「多分そうだろうな。ファフニールが詳しい事を言わないことに疑問を持ってはいたが........そりゃ言わないわけだ。狂信者辺りに口を滑らせてみろ。あっという間に異端審問が始まるぞ」

 「魔女裁判にかけられて炎に焼かれて死ぬのかー」


 それ、ジャンヌ・ダルクだね。大丈夫。花音はジャンヌ・ダルクほど高潔な人物じゃないから。


 いや、ジャンヌ・ダルクも高潔な人物かと言われれば首を傾げるが、花音よりはマシだろう。


 「黒百合さんは知ってたんだな」

 「知ってるよ。あまりにも天使に関する文献が少なくてね。それを疑問に思って聞いたら、天使が必死になって消してるなんて聞いた日には笑いが止まらなかったよ」

 「なぜ消すんだ?」

 「秘密に包まれてた方がより一層神聖感が増すでしょ?今の天使は自分たちの立場を守るのに必死なんだって」

 「私もそれが嫌で嫌で飛び出してきたからね。ほんと、今の天使達はクズばかりだよ。なんて言うの?天使至上主義とでも言うのかな?私が三番大天使(ラファエル)になった時から、天使は腐ってるんだよ。人は天使のために尽くすべきってね」


 なんと言うか、天使も天使で色々とあるんだな。


 少なくとも、今まで持っていた天使への偏見がベルリンの壁の如く崩れ去るぐらいには衝撃的な内容だった。


 俺がそう思っていると、イスがラファに話しかける。


 「天使って悪者なの?」

 「んー、中にはまともな天使もいるんだよ?世のため人のために尽くそうとする高潔な天使が。でも、大抵そう言う天使って他の天使から嫌われてるから、嫌がらせを受けるんだよね。今の天使は自分達の地位を保とうとする奴ばかりだし」

 「殺さないの?」

 「サラッと怖いこと言うね。イスちゃん。殺せるなら殺してると思うよ。でも、人数差には敵わないからね」

 「ふーん。天使も人間とさほど変わらないの」

 「なんでそう思うの?」

 「だって自分の欲のために他者を蹴落すのと、自分たちとは違う異物を排除従ってるでしょ?人間と何が違うの?」


 イス、見た目こそ子供だが思考がどう見ても子供ではない。


 凄いね。普通に感心するよ。


 天使も人間も対して変わらないと言われたラファは、少しキョトンとした後盛大に笑う。


 「アッハッハッハッハッ!!()()に言われちゃ世話ないね!!そうだよ幼き世界の支配者よ。天使も所詮は人なのさ。種族なんてクソ喰らえだ。もし、私やシュナちゃんの天使以外に会ったら言ってやるといいよ。“人より少し頑丈なヒトモドキが何言ってんだ”ってね!!」

 「わかったの」


 イスは素直に頷くと、“人って難しい”と小さく呟くのだった。


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