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神正世界戦争:幻魔剣vs豪鬼①

 その日は、生憎の雨だった。


 気分をも下げる雨天は、普段よりも視界を悪くし、体温も奪う。


 正教会国軍を追撃する神聖皇国軍の兵士達も、この日ばかりは動きが悪かった。


 「このローブ、本当に凄いですね。雨も簡単に弾いて濡れませんよ」

 「アンスールの糸から作ったローブだからね。厄災級魔物の素材で作られたと言えば、納得出来る」

 「確かにその通りですね。ローブだけでなく、靴もドッペルさんの特注品だし」


 滝のように降り注ぐ雨の中、“幻魔剣”エドストルと“炎帝”シルフォードは一切動きが衰えることなく敵兵を始末し続けた。


 彼らにとって滝のように降り注ぐ雨も、そよ風と何ら変わりない。


 世界最強格のドラゴンが降らせる流星ぐらいでなければ、彼らの障害とはなり得なかった。


 「この調子で行けば、後二ヶ月ほどで戦争も終わらせそうですね。残党狩りや、残った中小国の始末は私達の仕事ではありませんし」

 「そうしたら暇になる。団長さんと副団長さんの目的は既に終わっているから、暫くは平和な日々が続きそう」

 「そうですね。最近は書類の量も多かったですし、暫くはのんびり出来そうです」


 口ではそう言うエドストルだが、内心では間違いなく面倒事が起こると思っている。


 自分達の主である団長が、好き勝手に動いて面倒事を持ち込んでくる。もしくは、共通の敵が消えて新たな敵が表れる。


 そのどちらかが起こるとエドストルは思っていた。


 特に、自分達“揺レ動ク者(グングニル)”は世界の敵と認識されてもおかしくない。


 一国を容易に滅ぼせる厄災級魔物が数多く所属し、それらを纏める団長は最早神の領域に足を突っ込んでいると言っても過言では無い。


 人とは、自分を脅かす脅威を敵として捉える傾向があり、存在するだけで驚異となり得るこの傭兵団は世界の敵となる可能性が高かった。


 「神聖皇国の教皇には、是非とも長生きして欲しいものですね」

 「あのお爺さん、この戦争が終わったら後継者を決めるって報告にあった。もうそんなに長くは生きられないんじゃない?」

 「彼が人間を辞めていなければ、そろそろ寿命ですね。問題は新たな教皇に、我々の強さが正確に伝わるかどうかですかね。報告だけ見てもこの傭兵団の強さは分からないものですから」

 「それはそう。厄災級魔物の強さは、実際に見ないと分からない。その見た目と魔力量から化け物だと感じていたのに、さらにその想定の上を行くのが厄災級魔物だから」


 もしかしなくとも、団長が恐れていた“新たな魔王”として自分達が君臨する可能性があると思っているエドストルは、心の中で“それはそれで楽しそうだな”と思いつつ、逃げ惑う敵兵を片手間に処分する。


 昔ならば楽しむなんて余裕はなかったが、どこぞの変人に彼も毒されていた。


 「ふふっ、エドストルも変わったね」

 「何がですか?」

 「昔だったら、もっと難しい顔をしてた。今は楽しそう」

 「........そう、ですかねぇ。私も私で変わっているって事ですか」


 そう言いながら進む森道。逃げ惑う敵兵の背中を刺すだけの単純な仕事は、エドストル達の気を緩めさせるには十分だった。


 森の中に隠れる鬼は、衰えながらも牙を剥く。


 「死ね!!」


 草むらから出てきたのは、2メートル近くもある巨漢の男。その手に持った身長ほどの大剣が、油断しきったエドストルに襲いかかる。


 相手が並の相手ならばこの奇襲で殺しきれただろう。しかし、相手は厄災級に育てられた化け物。この程度の攻撃は、油断しきっていても問題なかった。


 「遅い」


 エドストルは、相手が大剣を振り下ろすよりも早く剣を振るう。


 真正面から受け止めた大剣は、それ以上沈むことなく容易に受け止められた。


 「貴様が“幻魔剣”だな?!死んでもらうぞ!!」

 「........おい、貴様アセドル村を知っているか?」


 突如として変わった口調。


 エドストルの援護の為に、精霊魔法を行使しようとしていたシルフォードの手が止まる。


 普段はぽやぽやしており、あまり空気を読まないシルフォードではあるが、エドストルの変わりようと抑えきれていない殺気を見て彼が“仇”なのではないかと察したのだ。


 ここでシルフォードが手を出せば確実に殺せるが、それではエドストルの復讐を邪魔することになる。


 幾ら空気の読めないシルフォードとはいえ、その辺の気遣いはちゃんとできるのだ。


 シルフォードは、面倒な横槍が入らないように周囲にいた敵兵全てに精霊魔法を放つ。


 以前、自分が“神突”と戦った時、エドストルがしてくれた様に、今度はシルフォードは露払いとして周囲の敵を始末して行った。


 エドストルに質問された大男は、少し首を傾げた後何かを思い出したかのように頷くと感情もなく答える。


 「アセドル村........知っているぞ。山の麓に作られた村で、人ならざる獣共が住む村だったな。あの時は厄介なガキがいたから覚えている。弱く殺されるだけのカスだったが、だるかったな」

 「それはよかった。その厄介なガキが地獄の底から貴様を殺しに来たんだ。過去を精算する時間だ。全てを背負って死ね」


 エドストルの言葉を聞いて、大男は全てを察する。


 10年近くも前に殺し損ねたあの厄介なガキがながき時を経て、自分を殺しに来たのだと。


 大男は思わずこぼれる笑いを抑えきれず、盛大に笑った。


 「ふははははは!!あの時のガキか!!殺してやるよ!!」

 「不愉快な音色だ」

 「名を名乗れ!!俺は“豪鬼”ゴルゼイン!!正教会騎士団第一部隊副隊長だ!!」

 「........エドストル。傭兵団揺レ動ク者(グングニル)の情報処理担当だ」


 エドストルは剣を弾き飛ばすと、シルフォードに視線を送る。


 何が言いたいのかを大体察したシルフォードは、精霊魔法を行使した。


 「ここじゃ場所が悪い。開けた場所に出る」


 地面から突き出した炎がエドストルとゴルゼインを捉える。


 一切の予備動作無く使われた魔法に、ゴルゼインは反応できなかった。


 「うをっ?!なんだこいつは」

 「安心しろ。それで殺すことは無い。貴様は私が仕留める」

 「いくよ」


 淡々とした掛け声とともに、シルフォードは炎を操作して2人を投げ飛ばす。


 熱さも感じない炎に投げ飛ばされた2人は、空中で体勢を整えると、平原に着地した。


 その場所には正教会騎士団第一部隊が展開しており、神聖皇国軍を迎え撃とうとしている。


 上から降ってきた2人に第一部隊は驚き、更に炎によって2人が隠されると何事かと騒ぎ始める。


 「正教会騎士団第一部隊を引っ張ってきてるんだ。ここで負ける訳には行かねぇぞ」

 「貴様の事情など知らん。私はお前を殺すだけだ」


 過去の因縁に決着をつけるべく、彼らは剣を構える。


 「エドストル、ファイト」


 復讐の舞台を用意したシルフォードは、それだけを呟くと正教会騎士団第一部隊に牽制をしつつ、空から様子を眺めるのだった。

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