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神正世界戦争:ドワーフ連合国ve正連邦国

 正連邦国の属国に面したドワーフ連合国の国境部では、睨み合いが続いていた。


 獣王国と正共和国との戦争のように、比較的平地で戦う訳では無いこの場面では、どちらも動けないといった方が正しいかもしれない。


 ドワーフ連合国は山岳地帯が多く存在し、正連邦国と睨み合っているこの地帯も大きな山が壁のように佇んでいる。


 森林が生え渡る緑豊かな山々ではなく、多くの鉱石を含んだ厳つい山ではあるが、どちらにしろ山と言うことに変わりはなかった。


 無策に突っ込めば手痛い反撃を貰うことは明白であり、山の地形に詳しくない正連邦国側はまず山の地形把握から始めなければならない。


 既に数多くの密偵を放ってはいるが、帰ってくる者は少なかった。


 ドワーフ達は、地の利を活かして密偵に奇襲を仕掛けなるべく情報を持ち帰らせないように動いていたのだ。


 鉱脈を採掘する際にできた穴を自由に移動できる彼らは、正しく神出鬼没。


 この世界ではあまり取られない戦法であるゲリラ戦を繰り広げられ、地形と戦術になれない密偵は尽く山の中に埋められることになる。


 「それで、まだ地形がわかってないから攻め込めないと?」

 「は、はい。数多くの密偵を放っているのですが、やはり地の利はあちらにあるようでして........」


 正連邦国が構える陣の中で、一際大きい天幕。


 その中で呑気に紅茶を嗜む一人の女性は、僅かにさっきを放ちながらも冷静に指揮官の話を聞いていた。


 「そうですか。私としては1秒でも早くドワーフ(肉ダルマ)共を血祭りに上げたいところですが........これは戦争ですし大人しく待っている事にしますよ」

 「は、はい。ありがとうございます。“聖弓”様」


 “聖弓”と呼ばれた女性は、ゆっくりと首を振ると指揮官に優しく声をかける。


 その声色は、慈悲深い女神のようにも思えた。


 「いえいえ。私は戦闘以外では役に立ちませんからね。“目”も見えませんし、皆様には迷惑をかけることも多いですし。怒っている訳では無いので、どうぞゆっくりと作戦を立ててください。死人が出るのは仕方がありませんが、死人は少ない方がいいですからね。この僅かに漏れ出す殺気は、ドワーフ(肉ダルマ)共に向けられたものなので」


 どこが僅かに漏れ出す殺気だよ。と指揮官は思わず言ってしまいそうになるが、その言葉は胸の中に閉まっておく。


 人智を超えた者が発する僅かな殺気は、一般人にとっては震え上がる程のものなのだが、聖弓はそれを理解していないらしい。


 指揮官は何も言わず頭を下げると天幕から出ていった。


 指揮官が天幕から出ていったのを察した聖弓は、隣に控えている付き人に話しかける。


 「いつになるのですかね?」

 「戦争が始まるのはって事ですか?」

 「えぇ。私が行くのはダメなのでしょう?」

 「ダメに決まってるじゃないですか。貴方は切り札なんです。万が一があれば我が国の敗北が決定的になってしまいますよ」

 「ドワーフ(肉ダルマ)共にやられる程、今の私は弱くないんですがね........」


 そう言って聖弓は瞼に触れる。


 幼い頃はまだ目が見えていた。愛する両親もいれば、優しい隣人もいた。


 正連邦国出身では無い彼女は、重税に苦しむことも無く小さな村で平和に暮らしていたのだ。


 しかし、平和な時は崩れ去る。


 小さく、これといった戦力を持たない村でありながらそこそこの物がある村は盗賊からすれば格好の獲物だった。


 崩れのドワーフ達で構成された盗賊が村を襲い、聖弓の日常は崩れ去ったのだ。


 燃え盛る畑、悲鳴をあげる村人達、昨日まであったはずの家も燃え盛り、金品は奪われる。


 当時、異能は発現していたものの使い方を知らなかった聖弓はただただその惨状を見つめるだけであり、最後は炎に目を焼かれて失明した。


 彼女の瞼の裏に焼き付いた最後の映像は、悲惨に殺される両親だった。


 運良く生き残った聖弓は報告を受けた騎士団に保護され、なんとか命を食いつなぐ。


 その後、村を襲ったドワーフ達に復讐を遂げたものの、彼女の復讐の火は消えることがなかった。


 聖弓は“盗賊”ではなく“ドワーフ”と言う種族そのものを恨んだのだ。


 それから、彼女がドワーフを敵と見なす正連邦国に辿り着いたのは必然と言えるだろう。


 いつの日か、ドワーフという種を滅ぼすために彼女は正連邦国に身を置いた。


 事情を知っている付き人だが、ドワーフ以外にはかなり優しい人である事を知っている。ドワーフの盗賊が彼女の村を襲わなければ、心優しい女性になっただろう。


 付き人の目には、青く日差しを反射した神秘的な長髪が僅かに赤く見えていた。


 「........ドワーフ連合国には“破壊神”がいます」

 「私が負けると?」

 「それは分かりません。が、貴方と同列に扱われています。油断はできないでしょう?」

 「........負けませんよ。この世界からドワーフという種族を消し去るまで、私は死ぬ訳には行かないので」

 「死なないでくださいね。私の仕事が無くなるので」

 「........そこは“頑張ってね”とか言うべきではなくて?」

 「そこまで親しい間柄でしたか?私は私が生きるのに精一杯で、他人の事なんか気にしていられませんよ」

 「もうっ」


 聖弓は冷たい態度を取る付き人に向かって頬を膨らませると、見えていないはずなのに付き人の後ろに回って抱きつく。


 あまりの速さに、付き人は反応する事が出来なかった。


 「........なんの真似ですか?」

 「貴方はいつもそうです。もう少し笑いましょうよ。それに、5年も一緒に過ごしてきてその態度はいただけませんよ!!ほら、笑って!!」


 ムニムニと付き人の頬を弄り始める聖弓に、付き人は小さくため息をつきながらなされるがままにするのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 山の上に陣を構えるドワーフ連合国は、とにかく正連邦国の密偵を処理していった。


 地形を知られるのは敗北に近づく事を彼らは知っている。


 「これで25人目か。一体何人の密偵を放ったんだ?」

 「こちらも18人始末したな。俺達だけじゃない。他の部隊もかなりの数を処理していると聞くぞ。中には返り討ちにあってこちらが被害を受けたモノまである」

 「面倒だな........俺が直接殴り込んだらダメなのか?」

 「ダメに決まってるでしょ。アンタ、一応俺たちの切り札だからな?あまり自由すぎる行動は控えてくれ」


 隠密に優れた兵士にそう言われ、“破壊神”ダンは大きく肩を落とす。


 ドワーフ連合国からの依頼を済ませたと思ったらすぐ様戦争であり、前の依頼が拍子抜けだったのもあって暴れたりなかった破壊神は、戦争が始まるのを今か今かと待ち望んでいる。


 しかし、能無しに突撃してくる程正連邦国もバカではなく、破壊神にとっては退屈な日々を送っていた。


 もちろん、戦争が起これば仲間も死んでしまう。しかし、自分一人で全てを片付けられると思っていた。


 「“聖弓”ねぇ。俺よりも強ぇのかな?」

 「さぁな。少なくとも、“破壊神”と同列に扱われるんだ。弱くはないだろうよ」

 「俺は、俺一人で戦争を片付けられると思ってるんだが、どう思う?」

 「........酒の飲みすぎだ。目ェ覚ませっての」


 冗談ではなく真面目に言ってる破壊神を心強く思いつつ、彼らは再び密偵を狩っていく。


 本格的に戦争が始まったのは、それから2ヶ月後の話だった。


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