神正世界戦争:獣神vs聖盾②
殺気が飛び交い血で血を洗う戦場の中、その場所だけは静寂に包まれていた。
強者と強者のぶつかり合いで起こる動きの読み合い、先手を取るのか後手を取るのか、先手を取るならばどのように仕掛けるのか、後手を取るならばどのように受けるのか。
素人や弱者では到底想像もつかない読み合いが繰り広げられ、お互いに動かないと言う静寂が作り出される。
が、中にはそんなまどろっこしい事を考えるのが嫌いな輩もいる。
「読み合いは好かねぇんだ。先手は貰うぜぇ!!聖盾!!上手く合わせろよ!!」
“気合根性”ガルルフは、全ての思考を放棄すると無策にもザリウスとドルネスに向かって走り始めた。
脳筋気味なザリウスですら読み合いをするというのに、あまりの脳筋っぷりである。
薄々こうなるんじゃないかと考えていた聖盾は、心の中で“やっぱり”と思いつつも冷静にガルルフのサポートに回った。
「魔導師相手に搦手ナシの正面勝負とか、舐めてんのか?」
物凄い勢いで突っ込んでくるガルルフを見て、ドルネスは呆れる。
一般の魔導師相手であっても、余程の実力が開いて無い限りは多少の工夫をして攻めるのがセオリーだ。
魔導師はその多彩な魔法によって、あらゆる盤面における解答を持っている事が多い。
魔力が尽きればただの置物だが、魔力が有り余っている魔導師は厄介極まりないのだ。
「闇縫」
ドルネスは即座に魔力を練ると、闇魔法を発動する。
ガルルフの足元の影から黒い鞭の様な物が溢れだし、ガルルフの足に絡みついた。
「うお?!」
脚を絡め取られたガルルフは転びそうになりつつも、大剣を地面に突き刺してなんとか耐える。
ドルネスはその隙を見逃さなかった。
「闇弾」
闇が弾丸となり、ガルルフの肉体を穿かんと襲いかかる。
魔導師が初めて覚える魔法とまで言われる(属性ごとに違うが)“闇弾”。
その威力は、魔導師の実力を測る物差しとしても使われ、威力と弾数が多いほど上位の魔導師として崇められる。
ドルネスの放った“闇弾”は、魔導師の最高峰とも言える威力と弾数を誇っていた。
肉体を穿かんとする闇の弾丸がガルルフに襲いかかるが、彼は1人ではない。
こうなることを予想していた聖盾の動きは速かった。
「全く。もう少し考えて動こうよ」
ガルルフの前に立つと、盾を素早く構えて闇の弾丸を防ぎ切る。
多少の衝撃が盾を持つ手に伝わってくるが、そこまで重いものではなかった。
更には、ザリウスが突撃してきた時のためにカウンターも用意していたのだが、ザリウスはじっとしているだけであり何も攻撃を仕掛けてこない。
獣人の勘は厄介だと聖盾は思いつつ、後ろで闇の鞭を引き剥がすガルルフに声をかけた。
「策なしに突っ込むのはどうなんだ?」
「読み合いとかまどろっこしいだろ?なんかイライラしちまうからな!!」
誇らしげに胸を張るガルルフを見て、聖盾は軽く頭を抱えたくなった。
本能で戦うのは獣である。
ガルルフの強さはそこにあるのは分かっているが、付き合わされる身にもなって欲しかった。
対するザリウスとドルネスはと言うと、追撃に行かなかったザリウスにドルネスが文句を言っていた。
「おい、なんで動かなかった?一人足止めできたんだからチャンスだっただろうが」
「馬鹿言え、今のに飛び込んだら手痛い反撃を貰ってたぞ」
「........勘か?」
「勘だ」
そう言われるとドルネスも黙るしかない。
普段は滅茶苦茶な王ではあるが、戦闘に関してはふざけた事は言わないのだ。
それを知っているドルネスとしては、ザリウスの言うことを信じるしか無い。
「それじゃ、どうするんだ?このままだとジリ貧になりそうだぞ」
「分かっている。が、今はまだ我慢する時だ。隙を見せた時が仕掛け時だな。下手したら三日三晩はこんな感じの牽制合戦になるかもしれん」
「お前は私の魔力が無尽蔵だと思ってるのか?三日三晩の戦闘なんてやったら魔力切れで死ぬぞ」
「そこはほら、魔力を回復する薬があるだろ?」
「アレは緊急用だ。副作用もエグいんだぞ」
とんでもない無茶振りに若干イラッとしつつ、ドルネスは再び魔力を練る。
先程は先手を取られたが、今度は先手を取った。
「闇よ槍と成りて敵を穿て“闇槍”」
短い詠唱から放たれたのは、人一人サイズの大きな槍。
まともに喰らえば人間の胴体なんぞ簡単に貫かれ、死に至るだろう。
高速で放たれた槍は、聖盾の盾を目掛けて突き進んだ。
「よし、俺も行くぞ!!」
何がやりたいのかを察したザリウスは、その槍の後に続いて走り出す。
決して槍より前には出ず、槍の持ち手が届く距離を維持していた。
聖盾はこの攻撃に対して受けを選択。
カウンターを叩き込めるように位置取りをすると、その巨大な盾でガルルフを隠した。
「上手くやれよ?」
「それはその時次第だな!!相手の出方にもよる!!」
聖盾は闇のやりを受け止める。
先程の弾丸よりも重い衝撃が盾を通して伝わるが、長年培ってきた技術によって衝撃を最小限に抑えていた。しかし、カウンターは打てない。
カウンターをドルネスに打とうとしたのがバレたのか、ドルネスは闇を纏って姿をほんの一瞬眩ませたからだ。
「チッ、無理か」
聖盾が攻撃を受け止めると同時に、ガルルフも動き出す。
大剣も大きく振りかぶり、聖盾を踏み台にして上からザリウスを襲う。
脳天をかち割ろうと大きく振りかぶった剣は、正確にザリウスの頭に吸い込まれていく。が、ザリウスの頭を捉えることは無かった。
「オラァァァ!!」
ザリウスは、盾によって防がれた闇の槍を持つと、力任せに振り回す。
強引に振り回された槍は、ドルネスにカウンターを狙っていた聖盾と空中で踏んだりが効かないガルルフを吹き飛ばした。
「あぶっ!!」
「うはっ!!」
吹き飛ばされた二人は体勢を崩しながらも、素早く武器を構えると、追撃に備えて身を固める。
闇の槍を金属バットのように振り回すザリウスは、もちろん追撃を仕掛けた。
「ふん!!」
野球のバットを振り回すかのごとく横から振られた槍は、聖盾のによって受け止められる。
カウンターヲタ狙うほどの時間もなかったため、受け流そうと盾を斜めに構えたが、ザリウスはしっかりと見ていた。
盾に受け流されないように、盾に対して直角に入った槍は聖盾の脚を止める。
そして、その隙を闇に紛れたドルネスが見逃すはずもない。
「“闇弾”“闇縫”」
聖盾とガルルフの脚を縫い付け、闇の弾丸が二人を仕留めようと放たれる。
闇の拘束から抜け出すのには時間がかかり、まともに喰らえば致命傷は避けられない。
しかし、そう思ったドルネスの予想を裏切るかのようにガルルフは闇の拘束から強引に抜け出した。
「根性ぉぉぉぉ!!」
闇の拘束から抜け出すと同時に、聖盾を守るように大剣を横にして闇の弾丸を受け止める。
だが、全てを受け止めるのはる可能であり何発もの弾丸がガルルフの肉を抉っていった。
「うぐぅ」
「大丈夫か?!」
槍をなんとか押し戻した聖盾はガルルフを心配する。
が、ガルルフは少し痛がった後、持ち前の根性で平然と大剣を構えた。
「問題なし!!根性があれば大抵はなんとでもなる!!」
「いや、ならんやろ........」
聖盾は冷静に突っ込みつつも、その顔は少し笑っていた。




