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神正世界戦争:炎帝vs神突③

 

 三度目の静寂。


 先程よりも開いた間合いの中、槍を構える神突と自然体のシルフォードはお互いに出方を伺う。


 1度目は見逃され、二度目は手痛い反撃を食らった神突は三度目の先手を取る事が躊躇われた。


 神突の持ち味は、その二つ名の通り神がかった槍の突きにある。


 音速を優に超える一撃は相手が誰であろうとも、確実に捉えてきたのだ。


 もちろん、対応されたこともあるがそれでも“当たらない”と確信するような程にまで完璧な対応をされた事は指を折る程しかない。


 目の前の相手は、その指を折るに値する強さを持っていた。


 対するシルフォードは、普段強者しか居ない環境の中で過ごしてきた。ダークエルフの村にいた頃は違ったが、今の環境は自分よりも数十倍、下手したら数百倍強い相手ばかりなのだ。


 自分以上の強者に揉まれた強者と弱者を相手してきた強者。


 どちらが強くなれるかと言われれば、圧倒的に前者である。


 「来ない?なら、私が先手を貰う」


 三度目の静寂の中、先手を取ったのはシルフォードだ。


 10メール以上離れた間合いは、魔導師の間合い。シルフォードは軽く指を振ると、火球を生み出して攻撃する。


 その速度は亜音速にまで達し、神突は避ける間もなく火球の熱を感じることとなった。


 「魔導師だと?!」


 反応が遅れたのも無理はない。


 あれ程にまで近接戦であしらわれてしまった神突は、シルフォードを武器の持たない近接戦闘を得意とした戦士として認識していたのだ。


 炎の盾によって槍を受け止められたこともあったが、炎はあくまでも補助としての役割であり、メインは徒手空拳による格闘。そう勘違いしてしまっても仕方がない。


 しかし、シルフォードのメインは精霊魔法であり、近接戦は自分の身を守るための手段に近かった。


 戦争が始まる時に放たれた精霊魔法がシルフォードのものだと気づければ、神突も魔法を警戒していただろう。


 神突は慌てて槍を突き出すと、放たれた火球を切り裂かんと振るう。


 反応が遅れたとはいえ、避けるのが間に合わないだけであり迎え撃つぐらいならば間に合う。


 雷を纏った槍は、火球に接触するとギャリギャリと嫌な音を立てる。


 耳障りな音に顔をしかめながら、神突は切り下げない火球をなんとか払い除けた。


(重すぎる!!この槍で切り裂けない魔法があるのも驚きだが、それ以上に重い!!弾くのが精一杯だ)


 普段ならば容易に切り裂ける魔法だが、今回ばかりは相手が悪い。


 厄災級魔物をと戦ってきたダークエルフの精霊魔法は、そこら辺の魔導師とは格が違いすぎた。


 無造作に放たれた火球に込められた魔力だけで、一魔導師にも匹敵する程の魔力が込められているのだ。簡単に切り裂けるわけが無い。


(こんなのを連発されたら勝ち目がない)


 ひとつ弾くのにもかなりの労力を使ったのだ。これが10や20も飛んできた日には幾ら神突とは言え捌き切れる自信がなかった。


 ましてや、内臓が傷つけられ肋骨も何本か折れている。万全な状態ならばともかく、怪我を負った今の状況で攻撃を受け続けるのは宜しくない。


 そう判断した神突は、火球を弾くと同時に一気に距離を詰めようと動き出す。


 「んなっ!!」


 しかし、その足は嫌でも止められる事になった。


 彼の視界に映るのは、何百と待機している火球の数々。


 一般的な魔導師1人分に近い魔力が込められた火球が何百とあるのだ。


 「次、行ってみよう」

 「は、ちょ、待っ」


 無慈悲にも降り注がれた火球は、豪雨の如く神突に襲いかかる。


 そのどれもが的確に神突を捉え、逃げることすら許されない神突は迎撃する他に選択肢がなかった。


 「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 神突は持てる魔力の全てを動員し肉体を強化、さらに槍の発する雷を限界まで引き上げて出力を最大にした。


 槍の出力最大は、肉体にかなりの負担をかける。


 幾ら神突の肉体が強靭だからと言っても、限度はあった。


 今後の先頭のことも考えれば、今ここで出力最大にするのは不味いだろう。戦場のど真ん中で動けなくなってしまうのは、死と同意義だ。


 だが、それではこの火球の雨を凌ぎきることは出来ない。死んでしまっては意味が無いのだ。


 肉体を限界以上に引き上げた神突は、降り注ぐ火球の雨を一つ一つはじき飛ばしていく。


 切り裂くことができず、生半可な攻撃ではその軌道すらもずらせない理不尽な雨を気合と培ってきた技術で捌く。


 時として火球を弾き、時として熱波に焼かれながら避ける。


 的確に狙われているとはいえ、火球自体はそこまで大きくなく肌を焼かれることを我慢すればなんとか避けきれるのだ。


 全方向から襲いかかる火球に反応し全てを捌き切ることは困難を極めたが、それでも神突は意地と生へしがみつく執念深さでなんとか乗り切る。


 火球が降り注いだ跡地には、地面を溶かした穴が幾つもできていた。


 「ハァハァハァ、やってやったぞ........」


 肉体と魔力の限界を迎え、霞む視界の先にはローブと仮面を被った謎の傭兵が感心したかのように手を叩いていた。


 火球が降り注ぐ轟音によって耳がイカれている今の状況では何も聞こえないが、きっとムカつくことを言っているに違いないと確信した神突は心の中で舌打ちをする。


 気力だけで立ち上がると、再び槍を構えたがそこに最初のような覇気はなかった。


 「正直、今ので死んだと思った。凄い凄い。それじゃ、第二陣、行ってみよう」


 全てを防がれ避けられたシルフォードは、純粋に神突へ賞賛の言葉を贈ると絶望を突きつけるように先程よりも大きな火球を生み出す。


 一方的にボコっているからそろそろ仕留めてもいいかと言う、相手からすれば勘弁願いたい理由でシルフォードは神突を仕留めにかかった。


 「は、ハハッ、ここまでか........」


 先程よりも強大で数の多い火球を見た神突は、全てを諦めて原初の業火に焼かれる事を選択したのだった。







 能力解説

【雷槍】

 具現化系の異能。

 雷を纏い、切り裂いたものに雷撃を追撃させる能力。

 神突は、自信にも雷を纏うことで身体能力をさらに向上させる事に使っていたが、身体への負担が大きいためやめておいた方がいい。

 空気を伝って電撃を飛ばすことも可能ではあるが、コントロールが上手くいかないので神突は使わなかった。もし、完璧にコントロールして使いこなせていれば、ここまで一方的な戦闘にはならなかったかもしれない。

 異能の話とは少しズレるが、11大国を代表する灰輝級冒険者と同列に扱われることが多い。しかし、神突は明確に彼らよりも劣っている。

 あくまで傭兵の中では最強と言うだけであって、そもそも層の薄い傭兵の頂点では層の厚い冒険者の頂点には及ばないという事だ........どっかの例外を除けば。

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