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神正世界戦争:真祖達は見つめる

 三人のダークエルフと五人の白色の獣人が戦場で暴れる中、かつて一国の王として君臨した真祖の吸血鬼はその様子を遠目に眺めていた。


 戦線が押され気味であるジャバル連合国側の陣地に既に移動しているストリゴイとスンダルは、その目の良さと感知の鋭さを活かして三姉妹と獣人組の動向を把握している。


 人間がやろうとすれば、脳への負担が大きすぎて鼻血を出すような程広い探知だったが、脳の作りから違う吸血鬼にとってこの程度の事は朝飯前だ。


「ふははは!!並の相手では、最早障害にもならぬか」

「まぁ、私達が毎日のように鍛えていれば当然よねぇ」


 人がそこら辺の雑草のように踏み潰されていく様を見て、ストリゴイは豪快に笑う。


 ストリゴイ達が手出しをしないのは、今の三姉妹と獣人組の実力ならば苦戦しないと言うのに加え、今回の主役が彼らだからである。


 自分達はあくまで補助。


 いくら強くとも、たった八人で戦争に勝利するのは難しい為、その手助けをする程度だ、


 中には、たった1人で戦争に勝ち得る人材もいるがアレは例外中の例外である。


「それにしても、強くなったな。教え子がその実力を見せてくれる時ほど嬉しいものは無い」

「そうね。人に教える難しさと楽しさを知れたのは、団長さんのおかげね」

「ふはは。また借りができてしまった。返せる日はいつになるのやら」

「少なくとも、死ぬまでは返せそうにないわねぇ。あの退屈な島から出してくれた時点で、借りは大きすぎる程できているのだし。更にはヴァンア王国の崩壊にも手を貸して貰っているわ」

「細かいのも数えればキリがないな。全く、我が人間の下につくなど昔では考えられなかった。過去に戻って言ってやりたい気分だ。“さっさと死んだことにして、あの島へ行け”とな」


 呑気に会話を続ける吸血鬼の2人だが、彼らは自分達の役割を忘れた訳では無い。


 矢や魔法、剣や槍が交わる戦場の中を散歩をするかの如く優雅に歩き、味方を救っていく。


 敵兵に切られそうになっていた所を、その敵兵を目に見えない速度で殺していくのだ。


 僅かに展開された血の沼が、弾丸となって心臓を貫いていく。


 殺されかけた味方の兵士は、突如として倒れた敵兵に驚きつつも命が助かったことに感謝しながら再び剣を握って立ち上がる。


 その目には不屈の闘志が宿っており、助けたストリゴイも思わず心の中で“頑張れ”と鼓舞を送るものだった。


「似ていたわね。昔の団長さんに」

「似ておったな。何があっても決して折れない意思というのは、得ようと思って得られるものでは無い。いい根性をしているわ」

「まぁ、それだけで生き抜けるほど優しい世界でも無いのだけれどねぇ........」

「そう言うな。生き残れれば、彼は強くなれる。祈ろうでは無いか。彼の信仰する神とやらにな」


 ストリゴイはそう言うと、飛んできた魔法を羽虫を払うかの様に腕を振って弾き飛ばす。


 闇を纏った魔法は、たった一振の腕によって霧散させられた。


 魔法を払ったストリゴイは、心底面倒くさそうな顔をして小さくため息を着く。


「邪魔くさいな。大した魔法では無いが、こうも飛んでくるとウザったい」

「仕方がないでしょ?これは戦争なんだから」


 スンダルはそう言うと、右手に魔力を宿して手刀を構えた。


 スンダルからすれば少しだけ込めた魔力ではあるが、一般の兵士からすれば大魔法を放つ時の魔力に等しい。


 荒れ狂う暴風にも見えるその魔力は、スンダルが手刀を横に振るうと同時に解放される。


「能力を使うほどでもないわ。死になさい」


 振るわれた手刀から放たれたのは、魔力の斬撃。


 的確に敵兵だけを切り裂いで進む魔力の斬撃は魔法を放った兵士の首を切り飛ばし、その後ろに控えていた兵士までも斬り殺した。


 急に味方の首がはね飛ばされた光景を見た敵陣後衛は大混乱であり、来るかも分からない謎の攻撃に皆怯え始める。攻撃の手は緩まり、周囲を警戒することによって、彼らの注意力は散漫になった。


 そのお陰で、先程は雨のように降り注いだ魔法や矢がかなり減ることになる。


 これはジャバル連合国側にとって大きなチャンスだ。


 魔法の援護は自分たちだけが受け、敵兵は魔法と斬撃の中戦わなくてはならない。


 勢いづいたジャバル連合国側の軍は一気に前線を押し上げると、先程まで押され気味だった戦線は元に戻るどころか今度は押し気味になる。


 たった一人の魔導師を殺しただけで、形勢が逆転してしまったのだ。


 それを見ていたスンダルは、興味深そうに敵陣後衛を見つめる。


「たった1人死んだだけで、あそこまで怯えるものなのかしらね?私が攻撃したって事も分かってないようだし、弱すぎるんじゃないかしら?」

「基準を三姉妹や獣人達と同じにするな。あ奴らは人間同士でしか訓練をしてきていない弱者だぞ?多少の魔物とも戦ってきただろうが、精々上級魔物程度。我らのような厄災には弱すぎるし、くぐってきた修羅場も薄いわ」

「たるんだ人間ね。団長さんやカノンを見習って欲しいわ」

「いや、アレは気が狂ってるから見習ったら普通は死ぬぞ........」

「でも団長さんは死んでないわよ?それについて行ったカノンも」

「スンダルや。前にも言ったが、アレを人の枠組みとして考えるな。ファフニールも言っていただろう?“アレは人の理を逸脱した正しく人外。人の基準と見るのではなく、厄災級魔物として見るべきだ”と」

「そういえばそんなこと言ってたかしらね?」


 軽く首をかしげ、思い出したのか出てないのかよく分からない表情をするスンダルを見て、ストリゴイは大きくため息をついた。


 こんなやり取りの中でも、的確に味方への援護を忘れていないのはさすがと言えるだろう。


「言っておったでは無いか。話を聞いていなかったのか?」

「んー、聞いていたわよ。多分」

「覚えてなければ聞いていないと同義なのだがな........」

「それじゃ、人間の強さって何を基準にすればいいのかしら」

「あれだ。アッガス殿達がいた傭兵団を基準にすればよかろう。彼らは人の範疇に収まっているのでな」

「なるほど、今度から彼らを基準に見ればいいのね」


 スンダルは理解したと言わんばかりにウンウンと頷くと、再び手刀に魔力を込めて斬撃を放つ。


 しかし、その斬撃は全くと言っていいほど見当違いなところに放たれていた。


 その様子を見ていたストリゴイは何も言わない。正確には、その斬撃については何も触れない。


 何気ない会話を続けながら、血の沼を操作して味方の補助をしているだけだ。


「そういえば、ぶーめらんって言う玩具を知ってるかしら?」

「ぶーめらん?なんだそれは」

「なんでも、投げたら自分のところに戻ってくる玩具らしいわ。イスちゃんが遊んでたから見てたのだけれど、魔術すらも使わないのよ」

「ほう。団長殿がよく言うカガクと言うやつか?」

「多分ね。それを見て思ったの。見当違いな場所に攻撃を飛ばして、それが戻ってきたら面白そうじゃないって」


 スンダルは先程飛ばした斬撃を指さすと、その斬撃は大きな弧を描いてこちらへと戻ってきていた。


 もちろん、敵兵を斬り殺して。


「普通にやった方が早そうだがな........」

「遊び心よ。何事も楽しまなきゃ損って団長さんも言っていたわよ」

「それは確かにそうだな」


 少し楽しそうなスンダルを見て、自分もスンダルもあの自由奔放な人間に毒されたものだとストリゴイは思うのだった。

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